第65話 中二病の神ゲーマーは効率的?

 今まで訳の分からんことを言って誰とも会話になっていなかった『俺』。


 リルはそんな『俺』と会話で来た史上初の人間だった!?


 中二病同士だから、理解があるのだろうか。


「さすがはリル。気に入ったぜ。俺の女にならんか?」


「クク、残念だが、ボクは既に闇の花嫁へと堕ちている。簡単に奪えるとは思わん事だ」


「なるほど、どうやら思った以上に手ごわい女らしいな?」


「闇を拭うは更なる暗黒。その身を捧げる覚悟ができたら、再びボクに呼びかけるがいい」


「面白い。くくくくく」


「ククククク」


 なんかよく分からんけど、やっぱり普通に会話してる気がする!

 ある意味では気が合っているのか?


 まあ、確実に両方とも一方通行だけど。


 お互いに相手の話を聞いていない事で会話が成り立つとは。

 恐るべし言葉のドッジボール!


 ちなみに中二病に理解のあるヒカリは、うんうんと頷いていた。

 千奈の方は、珍動物を見るような目で僕らを見ている。


 そういえば、この中で千奈だけが『巻き込まれ組』なんだよな。

 その部分はちょっと不遇かもしれない。


「はい、という事でごめんなさい。私の中の死神さんも我慢が限界なので……ヒール!」


 傷ついた人を見ると回復せざるを得ないヒカリが、『俺』にヒールをかけた。

 サイレスの効果はとっくに切れていたようだ。


「今回はここまでか。次に会える時を楽しみにしているぜ」


「いいだろう。闇の邂逅を待つとしよう」


 こうして俺は再び眠り、今回の茶番は終わりを告げた。


「でも、ヒカリさん。ごめんなさい。油断していたわ」


 千奈がヒカリに向かって謝っていた。

 モンスターが向かってしまったことに責任を感じていたようだ。

 この子は他人に厳しいが、自分にも厳しい部分があるのだ。


「あ、いえ、こちらこそ。ご迷惑をかけてしまいました」


 ヒカリは千奈に謝った後、リルの方へと顔を向ける。


「あの……庇ってくれてありがとうございました」


「いや、気にしなくていい。本来はヒーラーを守るのは前衛の仕事だ。もっと言うなら、全体を把握できていたはずのボクが、敵の接近に気付けなかったのは神ゲーマーとしては汚点の極みだよ」


 リルの方も責任を感じているらしく、珍しく申し訳なさそうな顔をしていた。


「それにヒカリが無事なら、ボクは回復ができる。だが、ヒカリが重大な傷を負ってしまった場合は、回復ができなくなるかもしれない」


 効率を重視するリルらしい考え方だ。

 いくらヒカリでも、大怪我をしてしまったら痛みで集中ができず、回復魔法が唱えられなくなる可能性もある。


 激痛で気絶してしまう可能性もあるだろう。

 痛みをダイレクトで感じてしまうこの世界では、そういった配慮も必要となるのだ。


 しかし、それはリルにとっても同じことだ。自身が切り裂かれるのは大きな痛みを受ける。


 この世界で人を庇うという行為は、容易にできることではない。

 効率を考えてのことだろうが、躊躇なくそれができるリルは大物なのかもしれない。


「しかし、トオルは驚いたな。あんな強烈な『痛み』を受けて正気を保っていられるとは……いや、『正気』ではなかったみたいだがな? ククク」


 『俺』の事を言っているのだろう。

 リルは上手く対応していたけど、本当は心の奥では迷惑だと思っていたかもしれない。


「えっと、その、ごめんね。僕、気持ち悪かったよね?」


「いや、素晴らしいじゃないか。これぞまさしく闇の力!」


 と思ったが、気持ち悪いどころか、喜ばれている気がします。


「ひょっとしてトオルは、痛みを感じないのか?」


「え、あ、はい」


 つい僕の体質に付いて喋ってしまった。


「なるほど! それはいいぞ! この世界では、痛みに対する耐性があるのは、強力だ。有効なスキルだと言っていいだろう」


 だけど思った通り、リルは僕を気持ち悪いと言わなかった。

 ゲーマーとしての視点を持つリルにとっては、よりも先に使と判断したようだ。


 でも、それは僕にとっては嬉しい反応かもしれない。

 こんな僕を見て気持ち悪いと思われないのはありがたい。


「トオルが再び闇に目覚める日を楽しみにしているぜ」


 むしろ、『俺』がお気に入りっぽいまである。

 リルの中二病も、ここまで来れば褒めたくなってきた。


「ふん。兄さんの価値を理解できる……か。少しだけあなたのことを認めてあげるわ」


 千奈も(ちょっと偉そうだけど)嬉しそうな顔でリルを見ている。

 どうやら僕の心配は杞憂だったようだジ

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