第64話 中二病VS中二病

「おっと、また来たぜ!」


 そんな話をしている間に、またもやモンスターの群れが襲ってきた。


「行くわよ、リル!」


 リルと千奈が二人でモンスターに立ち向かう。

 千奈が足止めしている間に、リルが後方から呪文を唱えて全体攻撃を放つ。


 なんだこれ。すごく息がピッタリじゃないか。

 どうやらすでにお互いの実力を認め合っているようで、二人は完璧な役割をこなしている。


 実に無駄のない戦いぶりだ。

 優れた人間は相手の実力を見抜くのも早いようだ。

 このまま彼女らに任せておけばいいだろう。


「きゃああああ!」


 しかし、その時、ヒカリが叫び声をあげた。

 モンスターの一匹がヒカリに襲い掛かっていたのだ。


「しまった!」


 千奈もリルも目の前の敵に手いっぱいで、ヒカリへの襲撃は全くの予想外だったようだ。


「まずいぞ!」


 ヒカリはヒーラーなので、戦闘能力は皆無に等しい。

 近くにはリルもいるが、彼女も魔法使いなので、接近戦は苦手なはずだ。


 瞬時にモンスターを倒せるほどの攻撃力は無いだろう。

 千奈もモンスターの群れの中にいるので駆けつけている時間が無い。


「くっ!」


 その時、リルが驚くべき行動に出た。

 なんと、モンスターの攻撃からヒカリを庇おうとしたのだ。


 ヒカリを庇うリルの無防備な背中に、モンスターの爪が振り下ろされようとする。

 リルは魔法使いなので体力が低い。


 レベルが99なので、僕たちよりは体力は上だろうが、それでもはかなり大きいはずだ。


 それならば、痛みが無い僕の方が適任だろう。

 この場合、誰が一番に傷を負うべきなのか言うまでもない。


「リル! それは僕が引き受ける!」


「ト、トオル?」


 僕はヒカリを庇っているリルのさらに前に出て、両手を広げて仁王立ちした。

 即死はしないように気を付けつつ、モンスターの攻撃を受け入れた。


 鋭い爪が僕の胸を切り裂く。

 全身を砕かれるような凄まじい衝撃だ。


「く、この!」


 僕は剣でモンスターをふっ飛ばした。

 だが、モンスターはまだ生きている。


 受けたダメージは、それほど多くは無かったので、底力が完全には発動できなかったみたいだ。


 遅れて駆け付けた千奈がモンスターに止めを刺した。

 他のモンスターはすでに彼女が片づけていたようだ。


「トオル、大丈夫か?」


 リルが心配そうに僕を覗き込んできたが、僕は返事をすることができない。


 それは何故か?

 『俺』が出てくるからだ。


 くそ、このくらいの痛みなら抑え込めると思ったけど、駄目だったか。


「くくく、はははははは!」


 『俺』が……目覚めてしまった!


「ん? トオル?」


 リルが『俺』を見て怪訝な表情をしている。

 恐れていたことが起きてしまった。


 そして『俺』は事もあろうに、リルに向かって凶悪な眼差しを向けてしまう!

 なんてことだ。あのが始まる。

 リルの身が危ないっっ!



「やあ、おはよう。俺が目覚めたぜ」



「ああ、おはよう、に目覚めた気分は、どうかな?」



 なにいいいいいいい!?

 リルさん、あの『俺』の訳の分からん挨拶に対応できただとうっっ!?!?


 これは今世紀最大の衝撃である!

 こんな人間がこの世界に存在するとは!

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