第62話 天才にレベルなど関係ありません
「勝手に味方をを回復する……か。まあ、対策なんて簡単だ。回復したくない時は、こうすればいい」
リルがヒカリに向かって、何かの魔法を唱え始める。
「サイレス!」
「え? ……あっ、魔法が使えなくなりました!」
ヒカリに状態異常がかかった時のエフェクトが出た。
「勝手に悪いな。だが、すぐに直るから安心していい。つまり、格下相手だったら、こうやって、魔法を封じれば問題はない」
リルがヒカリに向かって放ったのは、魔法を封じる術だった。
そんなやり方が、あったとは……
「誰もこんな単純な対策に、気が付かなかったのか?」
「……凄い」
涼しい顔をしているリルだが、これはかなりの盲点だった。
このゲームは味方の攻撃は通らないが、状態異常などの効果は味方にも発動する。
よく気付いたものだ。
そもそもほとんどの人が、ヒカリがモンスターを回復する事に、怒りと憎悪を感じて、対策する気にはなれなかったのだろう。
モンスターを回復するのは完全に裏切り行為。
皆はそれが許せないのだ。
人間という生物は、変わった行動や体質を持つ人を見た時、真っ先に排除しようとする。
自分と違う人を悪と認識して、攻撃せずには入れらないのだ。
だから、ヒカリを死神ヒーラーと呼んで、その人格を皆で蔑んだ。
僕だって痛みを感じないだけで、勝手に魔王の手下という噂を広められてしまった。
でも、リルは他人の人格なんて気にしないのだ。
問題が起きれば、ただひたすらに解決策だけを考える。
これが……狂気の神ゲーマーの視点というわけか。
「ククク、知り得たか? 狂気の神ゲーマー、リルを……」
決めポーズで有名ゲームの台詞っぽい事を言うリル。ノリノリである。
そしてその目は僕ではなく、後ろにいる千奈に向けられているようだ。
「ええ。正直、驚いたわ」
千奈は目を瞑ったまま口を開く。
さすがの千奈も感心しているのだろうか。
「ガッカリよ。まさか、この程度とは思わなかった」
しかし千奈の口から出た言葉は感心ではなく、期待外れの意を表していた。
そうして目を開いた千奈は、全回復したモンスター達に向かって、駆け出していく。
「おい、センナのレベルでは、まだこのモンスター達は倒せないぞ! 貴公、なぜ待てなかったのだ!」
慌ててリルが止めようとするが、すでにモンスターは群れを成して千奈に襲い掛かっていた。
「ふん」
モンスターの攻撃が千奈に当たろうとする瞬間、その攻撃を弾いた彼女の剣がモンスターの首を一閃する。
そのまま千奈は、次のモンスターに向かっていった。遅れて、さっき切ったモンスターの首が落ちる。
「むっ!?」
その様子を見て驚くリルだったが、本当に驚くのはここからだった。
「わざわざヒカリさんの魔法を封じるとかしなくていいし。全て一撃で倒せば解決よ」
千奈は次から次へとモンスターの首を落としていく。
本来ならこの戦いは、全体攻撃を使えない千奈が圧倒的に不利だ。
一匹を攻撃している隙に、後ろからもう一匹に狙われる。
実際に千奈も攻撃中に後ろから狙われていたが、あらかじめ敵の攻撃を予想しているようで、全ての攻撃を回避することに成功していたのだ。
挟み撃ちを受ける場面もあった。それでも千奈は正面からの攻撃はもちろん、後ろからの攻撃すら華麗に避けてしまう。
正面の敵は、パリィカウンターで首を落としている。
「全ての敵の攻撃を避けて、こちらの攻撃は首に直撃させている。しかも、パリィカウンター……だと?」
正直、ハイドラ戦で千奈が見せたパリィカウンターと首への直撃は、実はまぐれかもしれないと思っていた。
だが、違ったようだ。
今回も千奈は当たり前のように首への直撃とパリィカウンターを全ての敵に同時発動させている。
さらに彼女の驚くべき部分は、その直感の鋭さと把握力である。
どれだけ多くの敵から同時に攻撃されようと、千奈は全て回避する。
『後ろ』からの攻撃すらもだ。
まるで背中に目でも付いているかのようだ。
きっと千奈は、全ての敵がどのように動いているのかを完璧に把握しているのだろう。
そして相手の攻撃のタイミングを直感で悟って、安全なポイントを察知してから、確実に回避している。
千奈が天才である理由一つ判明した。この直感力だ。
確かに千奈はリルに比べてレベルが低い。
だが、この子にとってレベルなんて関係ない。
その超人的な反射神経で敵の攻撃は当たらないし、確実に首に直撃させることが可能なので、攻撃力の低さはデメリットにならない。
千奈はすでに全ての敵を倒し終えていた。
辺りにはモンスターの首無し死体が転がっている。
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