第61話 中二病キャラになりきりましょう!

 終盤のダンジョンにてモンスターと遭遇。

 間違いなく強敵だろう。


「さて、レベル30のお前らでは荷が重いか。いいだろう。ここはボクがやろう」


「威勢がいいわね。あなたが一番手を務めてくれるわけ?」


「ボクで最後だ。一人で十分だぜ」


 リルが手本を見せてくれるらしい。

 千奈も腕を組んで見物の姿勢に入っている。


「ククク、ボクのジューダスな邪眼の力をなめるなよ!」


 そうして(よく分からない事を言って)リルが魔法の詠唱を始めた。


「塵も残さん! 浄破炎殺煉獄闇!」


 彼女が繰り出した炎の魔法が敵を焼き尽くす。

 全体攻撃の魔法のようだ。

 以前見た時より遥かにパワーアップしている。


「は、早い! すごいです! さすが、狂気の神ゲーマーさんです!」


 ヒカリが感嘆の声を上げている。

 これほどの上級魔法をあっさり繰り出せるとは、リルの詠唱テクニックは相当のものだ。


「闇の炎に抱かれて消えろ!」


 そして決めポーズ。

 これは必要な儀式なのでしょうか?


「魔界の炎を使うまでも無い。貴様ら程度、人間界の炎で十分だぜ」


 火属性に魔界とか人間界とか、そんなのありましたっけ?


「また来ます!」


 新手が現れる。

 流石は終盤のダンジョンで、エンカウント率が高い。


「浄破炎殺煉獄闇!」


 再びリルが魔法を放つが、一匹だけその魔法を避けた。


「グオオオオオ!」


 そのまま魔物がリルに向かって、手に持った斧を振り下ろす。


「闇の炎に抱かれて……馬鹿なっ!」


 決めポーズをしていたリルは、その斧で真っ二つに引き裂かれてしまった。


「リルううううううう!」


 リルがやられた!

 変な決めポーズしてるからだよ! …………って、ん?


「残像だ」


「……はい?」


 そう見せかけただけで、リルは以前にも見せた得意の無敵時間を使ったステップで敵の攻撃を回避していた。


 しかも、今回は相手の上に移動して、肩に飛び乗っていた。かっこいい!

 そのまま魔法で作り出した剣を頭から刺して勝利。


 うん。そういえば、この子はこんなだった。

 いつだって中二病キャラになりきる事を忘れないのだ。


「まだ生きている奴もいるわよ」


 全体魔法を食らったモンスターで、生き残っている奴もいる。

 終盤のモンスターだから、耐久力も高いのだ。


「クク、問題ない。次で終わりさ」


 リルがとどめを刺すべく詠唱を始めようとするが……


「うっ!? あ……ダ、ダメ……あの子が……出てきてしまいます!!」


 さっきまで感動していたヒカリが小刻みに震え始めた。


「我は死を否定する神なり!! 何人たりとも死なせはせず! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」


 そしてヒカリが生き残ったモンスター全員に回復魔法を放つ。


「ああっ! しまった!」


 リルにヒカリの体質について、説明するのを完全に忘れていた!


「ひゃあ! ご、ごめんなさい!」


「………………」


 ヒカリは一瞬で我に返って謝るが、すでに遅い。

 リルは目を細めてヒカリを睨んでいる。


 まずい。

 かつてのリックみたいに、リルがヒカリを追い出す可能性もある。


「リルよ。少し僕の話を聞いてくれないか?」


 そうなったら、また仲間探しから始めることになる。

 僕達みたいなパーティーと組んでくれる変わり者など、そう簡単には見つからない。

 なんとかリルを引き留めなければ……。


「素晴らしい、素晴らしいぞ! これぞ詠唱破棄! あなたが死神ヒーラーか?」


 僕が言い訳を考えていると、リルが目を光らせてヒカリを誉めていた。

 どうやら、怒ってはいないようだ。

 それどころか、死神ヒーラーの単語が出てきた。


「あれ? ヒカリのことを知っているの?」


「死神ヒーラーは有名だ。実際に見たのは初めてだが、本当に詠唱破棄ができるとはな! 失礼ですが、神としての証が欲しかった……やはり神! 神だ! やっと神と……」


 興奮したリルは、何を言っているのかよく分からないが、ヒカリを高く評価しているのは理解できる。


 確かにリルの詠唱速度も凄まじかった。

 まさに狂気の神ゲーマーと言っていい。


 ただし、同じ『神』の通り名がついた存在でも、ヒカリはもはや次元そのものが違う。


 彼女は生物を回復したい欲求に加えて、1000時間まるまる回復の練習をやり続けていた実績があった。


 その結果、ヒカリは人類には到達不可能と言われていた詠唱破棄を習得したのだ。


 どうやらリルは元々ヒカリのことを知った上で、僕達の仲間になったようだ。

 それなら話は早いが……


「あの、迷惑をかけてごめんなさい。私、弱った生物を見ると、勝手に回復してしまうのです」


 今回ばかりはヒカリも申し訳なく思っているようだ。

 考えたらヒカリがいる限り、僕達は満足にレベル上げもできない。

 実際にこれは、大きな問題だろう。


「それが死神ヒーラーの正体か。あんたなんか神じゃない! クズだ!」


「ひい!? ごめんなさい!?」


 やっぱり怒っていた!?


「というのは冗談で、重要なのは、詠唱破棄が可能という点のみだ」


 怒ってなかった。ただの中二病キャラのものまねだった。

 ……ややこしい子である。

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