第53話 最強妹の唯一の弱点
千奈を見つける目的は達成した。これでロックガルドの町ともお別れか。
なんだかんだで、少し寂しい気もする。
「トオルさん、おかえりなさい! また一緒に冒険ができますね。えへへ!」
とはいえ、再びヒカリと同じパーティーになれると思うと、僕も胸が高鳴る。
仲間と一緒というのは、いいものだな。
新しい剣も買ったし、ヒカリたちも服を新調した。
新鮮な気持ちで冒険を再開できそうだ。
「センナさんも加わって、これでパーティーは三人ですね! これからが楽しみです!」
ヒカリは千奈にも無邪気な笑みを向ける。
長らくパーティーを組めなかった彼女は仲間が増えるのが心から嬉しいのだろう。
その笑顔を向けられて、千奈も悪い気はしていないようだ。
「千奈が加わってくれれば、かなり心強いよ」
彼女の強さは僕が誰よりも知っている。なにせ、ゲームでは負け知らずだ。
それはきっと、この世界でも変わらないだろう。
「ええ。こんなくだらないゲームは、さっさとクリアーして帰りましょう。特に味方の攻撃でダメージを受けないのが、この世界の最低な部分ね。これでは私が兄さんに刺激を与えることができないじゃない。どうやってストレスを発散させればいいのよ」
「いや、僕の事をストレス発散の道具みたいに言うの、やめてくれません?」
うん、これも懐かしいやり取りだ。
戦力としてもそうだが、やはり千奈がいてくれると心が軽くなる。
「でも、センナさんはすごいですよね! あのハイドラを一撃で倒してしまうなんて……」
「そうだね。千奈は天才だからね」
「ええ、そうよ。私、天才だからあんな奴は敵じゃないわ。まあ、召喚された時にいきなり奴隷だったのは、驚いたけど」
全く謙虚にならないのが千奈らしい。
というか、千奈は召喚された時にすでに奴隷状態だったのか。
スタート地点で奴隷なんて、普通なら絶望するしかないだろう。
しかし、天才の千奈はすでに脱出の算段を企てる方へと思考が動いていたらしい。
本当に、とんでもない子だな。
「私が天才というより、この町の人たちが無能と言った方がいいわね。ハイドラなんて雑魚だし、さっさと倒してしまえばよかったのに。みんな遊んでいたのかしら?」
「あ、あわ、あわわ」
「ヒカリさん? どうしてそんな目で私を見るの?」
凄まじい毒を放つ千奈。それを見たヒカリは怯えている。
確かに千奈は天才だ。しかし、この子はあまりにも正直すぎる。
ああ、そうだ。おかげで天才のはずの千奈にも一つだけ『弱点』があったんだ。
でも、この世界でなら、それも克服できているかもしれない。
ちょっと聞いてみよう。
「ねえ、千奈。一つ聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
「もちろんよ。なんでも聞いてくれてかまわないわ。私は天才だから、兄さんのどんな質問にも、きっと答えを導き出せるはずよ」
自信に満ち溢れて輝ている千奈に質問してみる。
「友達は、できたのかい?」
僕が聞いた瞬間、ピシっと音を立てて、空間にヒビが入った気がした。
「…………ふう。今日は暑いわね。兄さん、そろそろお腹が空いてきたんじゃない? 私は料理の腕も天才なので、お昼ご飯は期待してくれて構わないわよ」
全く見当違いの答えを導き出す千奈。
急にどうしたんだろう?
もう一度だけ、同じ質問をすることにした。
「千奈。この世界でなら、友達はできそうかい?」
「ふう。もうすぐ冬が近いわね。そうだ。元の世界に帰ったら、私がマフラーを編んであげるわ。私は編み物の腕も天才だから、間違いなく兄さんにピッタリのマフラーが完成するはずよ」
「いや、さっき暑いって……それに今は夏休みだぞ? 早すぎない?」
またまた謎の答えを出す千奈。
だが、僕はその反応で悲しき事実を悟ってしまった。
間違いなく、千奈はこの世界でも友達を作れていない。
そう、完璧超人である千奈の唯一の弱点。
それは僕と同じく、友達が一人もいない事だった。
そして僕はここで一つ、残酷な出来事を思い出してしまう。
千奈たちが助け出された時、奴隷として強制労働をさせられていた人たちは、皆が歓喜の声を上げて、その喜びを共有していた。
ある者は抱き合って涙を流し、ある者は互いに手を取り合って自由になったことに感動していた。
きっと同じ奴隷としての苦しみを分かち合う事から、彼女らには絆が生まれていたのだろう。
ただ、皆が喜びを共有する中、千奈一人だけがポツンと突っ立っている姿を僕は見てしまったのだ。
感動のシーンなのに、なぜか千奈の周りだけが悲壮感漂う雰囲気となっていた。
うう……やはり、この世界でも千奈は友達を作れないのか。
千奈ほどの完璧美少女に、どうして友達ができないのだ。
目に光が無いせいで、かなり目つきが悪く見えてしまうのが原因かもしれない。
冷たい人間だと勘違いされているのだろう。
千奈がすごく美人で何でもこなせる天才だから、近寄りがたい雰囲気もあるか。
下手に近づいてしまえば、相対的に自分が何もできない人間に見えてしまう。
でも、一番の問題は、千奈がそこを正直に言ってしまう部分だろう。
正直は美徳とよく言われるが、千奈はやりすぎというか、毒舌のレベルだ。
きっとこの世界に来てからも、同じ奴隷仲間でさえも、千奈は同じような上から目線の発言をしてしまっていたに違いない。
そういえばよくよく思い返してみると、奴隷として皆が絶望的な表情となっている時も、千奈は無表情だった。
僕は当初、酷い目にあって死んだ目になっていると思っていたが、この子は単に余裕だっただけなのだ。
皆が絶望的になっているのに、一人だけ余裕そうな天才がいたら、奴隷仲間も気分が悪かったのかもしれない。
千奈に友達が出来るのはまだまだ先なのだろうか。
本人が気にしているし、何とかしてやりたいところだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます