第50話 ここで死神の登場!

「まずい!」


 ハイドラが自爆スイッチを押した。

 大ピンチだ。なぜなら出口が瓦礫で防がれてしまったのだ。

 これでは脱出できない。


「大丈夫よ。あそこから脱出すればいいわ」


 千奈が上を指さす。そこには空が見えた。

 確かに天井が崩れたおかげで、上も脱出口とはいえるようになったが……


「いや、空でも飛べない限り、あんなところから脱出するのは不可能だぞ」


「これを使うのよ」


 千奈が一つの扉を開けると、そこには大量の『ハイパーボード』があった。

 『ハイパーボード』。これは空を飛べるアイテムだ。

 以前に変装していたミリアから操作説明を受けた。


 このハイパーボードを使えば、脱出が可能だ。

 おそらくハイドラが何かの作戦で使うはずだったものだろう。


「みんな、これを使って上から脱出しなさい。急いで! いつ爆発するかわからないわ」


 捕らえられた子達は、それぞれハイパーボードに乗って、上から脱出していく。


「さあ、兄さん。私達も脱出するわよ」


「う、うん」


 僕はハイパーボードの起動スイッチを『手』で押した。

 しかし、ハイパーボードは起動しない。


「なんで……あ!」


 そこで僕は思い出してしまった。

 ハイパーボードは、『足』でしか起動できない。

 そして、今の僕には『足』が無い!


「兄さん、私に掴まって!」


 先にハイパーボードを起動させた千奈が、僕の手を引いて空へ飛び上がろうとするが……


「飛ばない!?」


 ハイパーボードは、二人分の人間を感知すると、一時停止してしまう仕様だ。

 これは……万策尽きたか!?


「千奈! 僕のことはいいから、先に一人で脱出してくれ!」


「兄さんは黙っていて。今、方法を考えているから」


 千奈が苦虫を噛み潰したような表情で対策を考えているが、いい方法は思いつかないようだ。

 このままでは……二人とも死んでしまう!


「千奈! 兄としての命令だ! 先に脱出しろ!」


「黙っていてと言ったでしょう! 兄さんが死ぬなら、私もここで死ぬわ!」


 この頑固者! このままでは、本当に二人とも死んでしまうんだぞ!


「あの~……すいません。これ、外してもらえませんか?」


 その時、フードを被った一人の女の子が、千奈に話しかけていた。

 それはハイドラに捕まっていた子の一人だ。まだ残っている子がいたのか。

 どうやら、一人だけ解放し忘れていたらしい。


「……ちっ」


 千奈は舌打ちをしながらも、女の子の拘束具の鍵を開けた。


「ほら、これでいいでしょう? さっさと行きなさい」


 千奈がイライラした様子で女の子を逃がそうとする。

 まあ、僕たちは脱出できずに困っているのに、他人があっさり逃げようとするのを見ると、気持ちは分からなくはない。


「ありがとうございます。これで回復ができますね! ヒール!」


 すると、女の子が僕に回復魔法をかけてくれた。

 僕の傷が回復していく。


「駄目よ。1回のヒールでは、全快しないわ」


 だが、僕の足が治るまでは回復しきれなかったようだ。

 くそ、まだ回復が足りないのか。


「少なくとも、あと10回はヒールをかける必要があるわね。だけど、そんな時間は……」


 1回の回復魔法を唱えるには10秒以上はかかる。

 そんなのを10回もしているうちに、この基地は爆発してしまうだろう。

 やはり…………絶体絶命か。



「我、死を否定する者なり!」



 …………え?


「ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」


 しかし、女の子は間髪入れずに10連続でヒールを僕にかけた。

 そうして僕の下半身が光に包まれて、足が復活する。


「こ、これは……詠唱破棄!?」


 千奈が驚愕の表情を浮かべる。当然だ。

 詠唱破棄は都市伝説レベルで、事実上は人類には不可能だと言われている。

 でも、僕はそんな神業ができる人物を一人だけ知っていた。


「も、もしかして……ヒカリ!?」


「ようやく回復ができました! やはり、回復魔法は最高ですね!」


 女の子がフードを取る。そこにいたのはヒカリだった。

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