第49話 天才はどんな攻撃でもパリィできます

 レベル1の千奈がハイドラに勝った。

 いったい何が起きたのか?


 説明すると、千奈の剣がハイドラの攻撃に対して『パリィカウンター』を発動させて、その上で奴の『首』に攻撃を直撃させたのだ。


 いくら千奈のレベルが1でも、敵の弱点である『首』に攻撃を直撃させれば、大ダメージを与えることができる。


 その上で『パリィカウンター』を発動させると、その威力はさらに倍増する。


 パリィカウンターとは、相手の攻撃の瞬間に合わせて、その攻撃を弾くことで、一時的に敵を行動不能にさせるテクニックだ。


 ただし、これは発生タイミングがたったの1フレーム(0.003秒)と非常にシビアなので、狙って発生させるのは不可能の死に技術と言われていた。


 また、首への攻撃にしても、確実に直撃させるには、達人級の命中精度を要求される。


 『パリィカウンター』と『首』への直撃。

 この二つを同時に発動させる事は、常人には不可能だろう。

 でも、僕はまたしても忘れていた。


 千奈は常人ではない。天才だったのだ。


 普通は狙うのが不可能だと言われている首への直撃とパリィカウンターの同時発動も、天才の千奈からすれば、朝飯前なのかもしれない。


 おまけにこの二つを同時発動した時のみ、クリティカルヒットが確定する。

 とてつもないダメージ倍率となるのだ。


 そのおかげでレベル1の攻撃力にもかかわらず、ハイドラは一撃で沈んだ。


 いかに弱体化していたとはいえ、ハイドラを一撃で倒すとは、この子は僕の予想すらはるかに超えていた。


「兄さん!」


 千奈が大急ぎでこちらまで来て、『俺』の体を抱き起す。

 しかし、実際は下半身が無いので『俺』の体は起きることができない。


「無事でなによりだぜ、妹ちゃん」


「おっと。今は『俺君』なのね。確かにこんな状態なら、あなたが目覚めていても、不思議じゃないわね」


 千奈は僕の体質を知っているから、当然ながら『俺』とも面識がある。


「悪いけど、あなたに用は無いの。兄さんと代わりなさい。ほら!」


 ゴンゴン、と『俺』の頭を何度も叩く千奈。

 叩けば僕に切り替わると思っているらしい。


「おい! 古いテレビじゃねーんだぞ! 分かったよ、代わるよ! ったく、この女だけは敵わんぜ」


 渋々と僕に体の支配権を戻す『俺』。

 というか、『俺』がビビるとか……千奈さん、ヤバすぎない?

 『俺』に対してこんな扱いをできるのは、この子くらいだろう。


「せ、千奈。僕だよ。叩くのをやめてくれ」


 僕の言葉でピタリと手を止める千奈。


「兄さん……よかった。大丈夫なの?」


「うん。このゲームは出血によるダメージは無いから、問題ないよ」


「なら安心ね。痛みも感じていないんでしょう?」


 あっさりと安心する千奈。

 この子の理解力なら、ゲームシステムもすぐに把握したのだろう。


「千奈。悪いけど、その鍵を使って、他の子も助けてやってくれないか?」


「分かったわ」


 千奈が捕まっている他の女の子たちの拘束具を外していく。

 しかし助かったはずなのに、女の子たちの目は、未だ恐怖に満ちていた。


「みんな怖がっているね。ハイドラのせいだね。可哀想に」


「いや、『俺君』のせいでしょ。あ、でも今の兄さんの状態もヤバいわね。早く回復して、そのグロテスクな状態を治してほしい所だわ」


 ああ、そういえば僕は下半身が無い状態だった。ついつい忘れてしまいます。

 ちなみに、多分だけど、強すぎる千奈に対しても、みんな怖がっているのだと思います。


「お、お……の……れ」


 その時、倒れているハイドラから怨嗟の声が聞こえてきた。

 奴はまだ生きていたのだ。しぶとい男である。


「貴様らも……道連れだ!」


 ハイドラは懐からスイッチのようなものを取りだして、それを押す。

 すると、地面が大きく揺れ始めた。

 遅れて所々から爆発が起きる。

 その衝撃で天井が落ちてきた。


「ちっ」


 千奈は僕を抱えて、落ちてきた瓦礫を間一髪で避けた。


「これは自爆スイッチだ。もうすぐここは大爆発を起こして、木っ端微塵になるぞ!」


 自爆スイッチだって?

 こいつ、そんな切り札を持っていたのか!


「貴様らも私と共にここで死ぬのだ。ふふふ、ははははは…………はびゃっ!」


 ハイドラは最後には、落ちてきた瓦礫に潰されて、果てた。

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