第46話 いざ、ハイドラのアジトへ!

 逃げた敵を追って、ハイドラのアジトに乗り込む『俺』。

 そこにはたくさんの女の子が囚われていた。


 奴隷としてさらわれた新人の冒険者達だ。

 ボロボロの服を着せられており、手は拘束具のようなもので自由を奪われている。


 ハイドラの奴、女の子ばかり狙いやがって。

 いったい何をするつもりだったんだか。


 早いところ助けてあげたい。こんな所からは一刻も早く脱出した方がいい。

 ただ、今の『俺』には色々と問題がある。それは……


「おーい。助けに来たぜぇぇぇぇ!」


 あ、ちょ………待て!


「嫌ああああああ! …………う」


 嫌な予感が的中。女の子達は、絶叫して気絶した。


「おや?」


 不思議そうに首を傾げる『俺』。


 いや、当たり前だろ!


 いきなり『上半身だけの男』がシャカシャカとほふく前進をしながら、高速で迫ってきたら、誰だって気絶するに決まっている! このアホ!


 しかも、よく見ると、僕の後ろには這いずり回った血の跡が延々と続いている。

 これはもう、助けに来たヒーローというより、いきなり現れたゾンビである。

 もはやホラーだ。どうしてこうなった!?


「ハイドラに酷い目にあわされたせいで、女の子たちが気絶しちまったかな? これはハイドラ許せんわ~」


 おめーのせいだよっっ!


 ちなみにこの中には、千奈の姿はなかった。

 さらに奥にもう一つ部屋があるようで、そこに捕らえられているに違いない。


 よし、そのまま奥の部屋に突入だ。

 今行くぞ、千奈!


「き、来た! ハイドラ様! あいつです! ば、化け物です!」


 部屋に入ると、ハイドラと逃げた配下、それから囚われていた残りの女の子達がいた。

 そして、その中には、千奈の姿もあった。


 千奈! やっと会えたぞ!


 千奈は他の子と同じように、拘束具で両手の自由を奪われている。


「兄……さん?」


 僕を呼ぶ千奈だが、思ったよりも反応が薄い。

 そこに生気をほとんど感じられなかった。


 完全に目が死んでいる。

 まさか、手遅れだったのか? 千奈の心は、既に壊れてしまっていた?


 くそ! ハイドラめ! 絶対に許さないぞ!


 一刻も早く奴を倒して、千奈の心のケアをしなければいけない。

 ちなみに『俺』の方はといえば……


「ハイドラ様ぁ。あまりにも構ってくれなくて寂しいからぁ、俺の方から来ちゃったぜぇ!」


 まるで恋人に会いに来た女みたいな声を出していた。

 こいつ、ハイドラの事が好きすぎだろ!


「く、また貴様なのか。どうして生きている? いったい貴様は、なんなのだ?」


 ハイドラは苛立ちと嫌悪感が混ざった目で『俺』を見ている。


「それにしても、よくもまあ、こんな可愛い子だけを集めたよな~。女の子を好き放題するつもりなのかい? 羨ましいなぁ。俺も混ぜてくれよ。あ、でも今の俺、下半身ねーから無理だわ。あひゃひゃひゃ!」


 下品に笑う『俺』を見て、敵味方を問わず、場の全員が後ずさっていた。

 むしろ、囚われの女の子たちは、ハイドラ以上に『俺』に怯えている気がする。

 いつものパターンだ。『俺』のせいで、もう散々だよ。


「今回は珍しくご主人様がお怒りらしいからな。好きなだけ暴れさせてもらうぜ。いいよな?」


 だが、そうだ。今回だけは特別に許す。

 とにかく、一刻も早くハイドラを倒してくれ。

 早く千奈を安心させてやりたいんだ。


「というわけだ。さっそく始めようぜ!」


「ち、全員でかかれ! 奴は、もう死ぬ寸前だ!」


 ハイドラが部下に号令をかけた。


「そうだ! あんな死にぞこないは、みんなでかかればなんとかなる!」


 ハイドラの配下が一斉に『俺』に襲い掛かってくる。


「どけ、雑魚に用はねーよ」


 『俺』が軽く手で払うと、その風圧で敵の集団はまとめて吹き飛んだ。

 今の『俺』は底力の恩恵で、桁外れの腕力となっているのだ。


「ぐ、馬鹿な! 風圧だけでこの威力だと?」


「落ち着け! 奴には足が無い。弓だ! 飛び道具で奴を倒すのだ!」


「そ、そうか! その手があった!」


 ハイドラに命令されて、部下が弓を取り出す。


「死ねぇ! この化け物が!」


 ハイドラの部下が『俺』に向けて矢を放つ。

 だが、それもやはりスローモーションだ。

 『俺』はゆっくりと向かってくる矢を、たやすく掴んだ。


「ほう、武器の提供、感謝する。これは俺からの……お礼だぜ!」


 そうして矢を投げ返す。

 それは来る時以上の速度で敵の肩を貫いた。


「ぎゃあああ! やはり奴は化け物だぁぁ! 助けてぇぇぇ!」


 恐怖に怯えながら武器を捨てて逃げていく部下達。完全な戦意喪失だ。

 だが、一人だけ逃げずに残っている男がいた。


 ハイドラだった。


 ここは奴の城であり、最後に縋り付く意地の場でもある。

 もはや退路など存在しないのだ。


 いや、『最後』というのは、果たして『俺』にとっても同じことが言えるのかもしれない。

 いよいよ、決着の時が来たというわけだ。

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