第44話 胴体が切断されて覚醒する俺
ハイドラ……やはり、あの時に目が合ったのは気のせいではなかった。
「君たちが我がアジトを襲撃することは分かっていた。君のスパイが全て話してくれたからね」
自慢げに語るハイドラ。
前回と違って落ち着きを取り戻している。
確かにこの不意打ちは不自然だった。
こちらの作戦を知っていなければ、敵の待ち伏せはありえない。
ミリアがスパイとして送っていた人物が、情報を全て吐いてしまったのだろう。
「私は、親友から裏切られたのか」
「そうだ。彼には妹がいたので、その子を人質にしたら、あっさりとこちらについてくれたよ」
「き、貴様っっ!」
妹を人質に取られてしまったら、どうしようもない。
僕だって、千奈を人質に取られたら、言う通りにするしかないだろう。
ハイドラは、人の弱みに付け込んでくる。
恐ろしい男だ。
「ふふ、いいぞ。良い『恐怖』だ。これから自分がどんな目に遭うのが、きちんと分かっているようだね」
そうして恐怖するミリアの表情を満足げに眺めてから、ハイドラは周りを見渡す。
「どうかね? これが私の奥義、
これが真空刃か。確かに恐ろしい奥義だ。
たった一撃で、一つのパーティーを壊滅させるほどの威力。
まさに痛恨の一撃だろう。
ちなみにハイドラは僕を見て、安心したように笑っていた。
先ほどの言葉から、どうやら僕は死んでいると持っているらしい。
まあ、胴体が真っ二つになったら、そう思うのが当然だよな。
「くっ」
ミリアはリックを背負って、その場を離脱しようとするが、既にハイドラの手下が彼女の周りを囲んでいる。
さすがのミリアでも、リックを背負った状態で脱出は不可能だ。
「終わったな。では、後は任せた。思う存分、楽しんでくれたまえ」
そうしてハイドラは、部下を残してアジトの方へ帰っていった。
「ひひひ~。女を好き放題できるぞ~!」
敵はジリジリと、楽しむようにミリアに近づいていく。
「リック、トオル。すまない。私のせいで……」
ミリアが諦めて目を閉じた。
そして、彼女にめがけて敵の剣が振り下ろされようとする。
ずっとそれを眺めていた僕の感想は、たった一つだ。
――遅い。あまりにも遅すぎる。
ミリアを囲いながら近づいていく敵の集団も、その敵が振り下ろそうとしている剣も、まるで遊んでいるかのようにスローモーションなのだ。
その理由は簡単だ。
体を切断された今の僕の体には、『底力』の効果が大きく発揮されている。
体力が残り5というのは、これまでで一番のダメージだ。
その分だけステータスの上昇量も大きくなる。
かつてないほど超強化された素早さは、周りがあまりに遅く見えてしまうほどの感覚に陥ってしまったのだ。
敵の攻撃が、本当にゆっくりと、ミリアに向かっていく。
「くくく、はははははは!」
そしてもちろん、既に『僕』は『俺』へと切り替わっていた。
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