第43話 胴体が切断されてしまった!!
「トオル、起きろ。朝だぞ」
「…………ああ、ごめん」
ミリアに起こされる。
今日はいよいよハイドラのアジトに奇襲をかける日だ。
「…………千奈」
あんな夢を見たせいで、余計に千奈が恋しくなってきた。
絶対に今日の作戦で助け出してみせるぞ。
「よし、いくぞ」
そうして、僕たちは再びハイドラの根城の近くへ向かった。
ついに作戦開始である。
この場所は、周りが茂みに囲まれており、奇襲を仕掛けるにはもってこいだろう。
「情報によると、今日は奴らのアジトの守りが手薄になっているらしい」
ミリアの親友がスパイとしてハイドラのアジトに侵入してくれているとの話だ。
その情報から、今日は奴らのアジトの警備が手薄という事が分かったのだ。
メンバーは僕とミリアとリックの三人だ。
十分に味方の人数が揃っていないかもしれないが、攻め込むならアジトの守りが手薄な今しかない。
「ハイドラと戦う際には、奴の必殺技である『
以前の戦いでハイドラが僕に向かって繰り出そうとした技だ。
「
「その名の通り、真空の刃を飛ばす技だ。かまいたちのようなものと思っていい。恐ろしいのはその威力だ。その刃はどんなものでも切り裂くという」
どんなものでも切り裂く真空の飛び道具。
しかも、かまいたちというからには、速さも相当なものだろう。
確かに注意しなければいけない。
レベルが1で初心者の僕にうまく対応できるだろうか。
「さて、準備はいいか?」
ミリアが僕たちに最終確認をする。
その瞬間、茂みの更に奥から、キラリと光るものが僕の目に入った。
「なっ!」
ミリアもそれに気づいたらしく、驚いて目を見開く。
「こ、これはハイドラの
ミリアが叫んだ瞬間、茂みの奥から、透明の刃が放たれた。
「くっ!」
いち早くミリアがその場に伏せる。遅れてリックが横に避けた。
「……えっ?」
しかし、僕は反応するできない。
素人同然の僕には、とっさに避ける反応速度などなかったのだ。
「……あっ」
そうして僕の腹部にはゆっくりと、切れ目のようなものが入っていく。
「トオル! くっ、ダメか……」
一瞬、ミリアが僕の方を見るが、すぐに諦めるような悲しい表情となり、目を背けた。
それから、少しずつスライドしていく僕の体。
「あ…………ああ……」
そこで僕はようやく認識してしまった。
――僕の体は上半身と下半身、真っ二つに切断されてしまったのだ。
「た、助け……」
言い終わる前に、ズルリと音を立てて、自分の上半身が地面に落ちるのが分かった。
下半身は立ったままだ。
慌てて自分の体力を確認すると、残りの体力は5だった。
あ、危ねえええ!
さすがに今のは即死したと思った!
このゲームは首が弱点なので、攻撃を当てやすい胴体は、切断されてもわずかに体力は残るようだ。助かった!
もっとも普通の人間なら、この時点で激痛により発狂死するか、気絶してしまうだろうが。
「うああああああ! 手が……手がぁぁぁぁ!」
リックは横に避けたのが良くなかったのだろう。
運悪く手首に
激痛でのたうち回るリック。
彼は冷静な方ではあるが、さすがに手を切断されてしまったら、パニックになってしまう。
普通の人間にとって、これは仕方ない。
直接のダメージが大したことなくても、手の切断というのは、精神的ダメージがあまりに大きすぎる。
「リック! 駄目だ! 気を失うな! 意識をしっかり持て!」
ミリアが必死にリックに声をかける。
気を失ってしまったら、もう完全に戦力にならないのどころか、大きな的となってしまう。
ちなみに僕の方がリックより重症なのだが、ミリアは僕のことは諦めているようだ。
それはいい。僕は痛みによる精神的ダメージが無いから、気にかけてもらう必要はない。
ただ、問題なのは、状態異常『胴体切断』のアラームが頭の中に鳴り響いている事だ。
つまり、下半身が無い。
これでは『機動力』が大きく下がってしまう。
とはいえ、僕にとって幸運だったのは、
このおかげで両腕の方は無事だった。
手があるなら、何とか戦う事はできる。
しかし、腰に刺さっていた剣の方は真っ二つに割れてしまった。
武器は無いので、素手で戦わなければならない。
「くそ、どうしてこんなことに……逃げるぞ!」
ミリアが撤退しようとしたが、茂みの奥から大量の人影が飛び出した。
それはハイドラの部下だった。
彼らが間髪入れずにミリアに襲い掛かる。
「ひゃはは! 死ねぇぇ!」
「くっ!」
ハイドラの部下は集団でミリアを攻撃するが、彼女は上手く攻撃を防いでいた。
ミリアは戦闘力が高い。
そう簡単にはやられないが、あまりにも多勢に無勢だ。
それ以上にまずいのが、これ以上に時間をかけていたら、リックの精神が持たない。
「うう……ぐふ」
「リック! くそっ!」
恐れていたことが起きてしまった。
リックが気を失ってしまったのだ。
更にミリアがその事に気を取られているうちに、敵に囲まれてしまった。
「ふ、チェックメイトだ」
茂みの奥から最後の人物がゆっくりと姿を現す。
「ハイドラ!」
それはハイドラだった。
奴が僕達を不意打ちしたのだ。
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