第40話 やっと千奈を見つけた!!

 僕たちは猫の戦士、ミリアと共に行動する事になった。


「改めて、二人ともよろしくな」


「はい! 私の名前がヒカリで、こちらがトオルさんです。よろしくお願いします!」


 僕たちの方も問題なく自己紹介を終える。

 僕と違って、ヒカリは社交性があるみたいだから助かる。


 ミリアに関しては、女でありながらその物腰にはまるで隙が無い。

 間違いなく上級者だろう。


「ハイドラは定期的にこの町に来て、召喚されたばかりで戸惑っている女性の新人冒険者をさらっていくんだ。その時には必ず犠牲者も出る。奴を倒さない限り、この町に平和は無い」


 分かっていたことだが、本当にハイドラは最悪な奴だ。

 しかも奴の『恐怖』は町の人々の心すら荒ませる。


 やはり、できれば奴は倒しておきたい所か。

 そうすれば、町の人々の僕を見る目も変わるはずだ。


 ミリアの後に続いて山岳地帯に入る。

 そこには禍々しい雰囲気に満ちていた。

 これは確かに魔王軍のアジトがあってもおかしくない。


「あそこが奴らの根城だ。遠くから見るだけだぞ。ほら、双眼鏡だ」


 少し高い崖の上からミリアが指さす方角を双眼鏡で見ると、そこは倉庫のような建物が見えた。


「もっと城のような場所を想像していたけど、意外と規模が小さいんだね」


「ああ、奴らの規模自体はそれほど大きくはない。数十人といったところだ。そこに付け入る隙があるはずだ」


 問題なのは誘拐されて奴隷になっているという冒険者だ。

 何としても状況を確認したい。


「ちょうど、誘拐された人達が移動させられているぞ」


 目を向けると、たくさんの人々が一列になって歩いてきた。

 皆、それぞれみすぼらしい格好となっており、手には拘束具をつけられている。


 そして見張りと思われる奴が鞭を持って、その様子を眺めていた。

 時折、歩くのが遅い人に鞭による制裁を与えている。


「ひ、酷い……」


 ヒカリはその光景を見ていられないらしく、目を逸らした。


「あ!」


 しかし、僕は気付いてしまった。

 


 その奴隷とされた人達の中に千奈の姿があったのだ!



「千奈……やっと見つけた!」


「え? 妹さんがいたのですか?」


 ようやく千奈を見つけ出すことができた。

 だが、それは嫌な予感が当たってしまったともいえる。

 奴隷として捕らえられている状況は、お世辞にも良いとは言えない。


 そして千奈の表情をよく見てみると、その目からは光を全く感じられなかった。

 まさか……酷い目にあっているのか?


「む? ハイドラだぞ」


 奥からハイドラが出てきた。

 そしてまっすぐ千奈の方へと向かっていく。


 そして次の瞬間、奴は千奈に対して平手打ちをした。


「あ、あいつ! 千奈を殴りやがったっっ!」


「ト、トオルさん? 落ち着いてください!」


 危うく飛び出しそうになるところをヒカリに抑えられる。

 確かにこの場で飛び出しても多勢に無勢だ。


 くそ! 千奈が目の届くところにいるというのに!

 殴られて倒れた千奈は、まるで魂が抜けているかのように、ゆっくりと起き上がる。

 やはり、千奈の目からは、完全に目の光が消えていた。


「千奈……っ!」


 いつの間にか自分が大きく歯ぎしりをして拳を握りしめているのが分かった。

 本当なら、今すぐ助けに行きたい。


「だ、大丈夫です。まだあれ以上酷い事はされていない……はず」


 ヒカリが僕を安心させるように気遣ってくれている。

 それでも平手打ちを受けている時点でもうすでに『酷い事』をされているんだ。

 『それ以上』のことなんて…………考えたくもない!


「あの中に妹がいたようだな。だが、まだ悲観することはない。奴も下手に奴隷を失うようなことはしないはずだ。今は奴隷の数も少ないからな」


 言い換えれば、奴隷の数が揃えば、何をされるか分かったものじゃない。


「安心しろ。明日には私と、『もう一人の仲間』で奴らのアジトに奇襲をしかける。その時に妹を助けてやればいい」


「明日か。ちょうどいいタイミングだね。僕もその作戦に乗るよ」


 本当ならもっと早く乗り込んでもいい。千奈を一秒でも早く救い出したい。


「いいだろう。今度は私たちのアジトを紹介する。こっちだ」


 ミリアの後に続いて、元来た道に戻る。

 千奈、もう少しだけ耐えてくれ。必ず助けてやるからな。

 去り際に、ちらりと千奈の方を見る。


「っ!?」


 すると、ハイドラと目が合った気がした。

 そして奴は僕を見て、ニヤリと笑ったのだ。


 いや、気のせいだろう。この距離で気付かれているはずがない。

 僕は少し不安な気持ちを残したままその場を去った。

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