第39話 商人の正体は猫耳戦士でした

 僕の事はさておき、せっかくハイドラを撃退したんだし、ヒカリの報告を聞いてみよう。


「ごめんなさい。私の方は有益な情報は得られませんでした」


「そっか。こっちも同じだよ。どうしよう」


 ヒカリも空振りだったか。

 町の人達がほとんど逃げてしまったので、情報収集が難しくなってしまった。



「見ていたぞ」



 すると、どこからともなく声が聞こえる。

 声のする方向を見ると、さっきハイパーボードの体験会を開いていた猫耳お姉さんの姿があった。

 その声からはさっきと違って、凛とした気高さのようなものを感じる。


「私は、君のような人を探していたんだ」


「えっ?」


 そして、彼女は服に手を当て、強引に脱ぎ捨てた。

 すると、次の瞬間、目の前には鋭い目つきの女剣士の姿があった。


 どうやらこの人、販売員に変装していた女剣士だったらしい。

 猫耳の姿は変わっていないが、纏っている雰囲気から、彼女はかなりの実力者だという事が分かる。


「私は猫の戦士、ミリアだ。一緒にハイドラを倒して、この町を救ってくれないか?」


 猫の戦士……獣人タイプのプレイヤーだな。

 つまり、同じ人間ってことだ。

 どうやら、ミリアは密かにハイドラに対して奮起を翻していたようだ。


 奴の恐怖も完璧では無かったわけだ。

 彼女は僕を見ても逃げ出さなかった。理解のある人だろう。

 だが……


「ごめん。僕たちにはちょっとやることがあって……この町に召喚されたかもしれない妹を探しているんだ」


 確かにハイドラを倒したい気持ちはある。

 それでも僕たちの最優先事項は、千奈を救う事なのだ。

 悪いけど、僕の事を化け物と呼ぶ人々を、千奈を見捨ててまで助ける気にはなれない。


「この町に召喚された妹を探している? なら、私達の目的は一致しているぞ」


「えっ? どういうこと?」


「この町に召喚された冒険者は、皆がハイドラに奴隷として捕らえられてしまっている。もしかしたら、その中に君の妹もいるかもしれない」


「なっ? それは本当か!?」


 とんでもないことを聞いてしまった。

 それはつまり、千奈が奴隷となっている可能性もあるって事じゃないか!


「トオルさん。これは確かめた方がいいのかもしれません」


 ヒカリの言う通りだ。

 そこに千奈がいると確定したわけではないが、もしそうだったら一刻も早く助けなければいけない。

 そう考えると、さっきハイドラを逃がしてしまったことは手痛い。


「とりあえず、ハイドラのアジトを覗きに行ってみるか? ここからそう離れてはいない」


 できるなら、千奈はそこにはいてほしくない。

 奴隷として扱われている千奈なんて、見たくない。


 それでも、確かめないわけにはいかないだろう。ミリアの後をついていこう。

 本当に千奈がいるかどうかを確認しなければ……

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