第28話 中二病は自らを変人と自称する

 なぜヒカリはリックの言うことを否定しないのか。

 それは、死神ヒーラーの話が嘘偽りのない事実だからだ。


「このイカレ女と組んだパーティーには決して死者は出なかった。ただ、そのパーティーのメンバーは、ことごとく精神崩壊をおこして廃人になったという」


 詠唱破棄を習得しているヒカリは、回復魔法を唱えるのが異常に速い。

 味方のうちは頼もしいが、それがモンスターに向けられた場合はたまったものではない。


 モンスターにいくら攻撃を与えても、詠唱破棄により瞬時に回復させられてしまう。いずれ反撃を食らうだろう。

 そして、この世界のルールではダメージを受けると激痛が走る。

 体のダメージと同時に痛みという『心のダメージ』も受けてしまうのだ。


 体のダメージはヒールで回復できるが、心のダメージまでは回復できない。

 いつまでも終わらない戦い。蓄積される痛みという名の精神的ダメージ。


 ああ、なるほど。これでは確かにそのうち気が狂ってしまう。


「危なかった。このままパーティーを組んでいたら、確実に俺達は廃人となっていたぞ」


「死神ヒーラーめ! 何が楽しいか知らねえが、人を廃人にして喜んでいるなんて、お前は人間のクズだ! この『化け物』め!」


「っ! わ、私は……」


 アモンドの言葉に何かを言い返そうとしたヒカリだが、うまく言葉にならなかったらしい。


「二度と俺達の前に現れるんじゃねえ!」


 そう言って、アモンドとリックは足早に去っていった。

 取り残された僕とヒカリ。


 まさか僕ではなく、ヒカリが原因でパーティーが解散することになるとは……

 死神ヒーラーのヒカリ。

 確かに話を聞く限りでは、もう彼女とは関わらない方が得策なのだろう。

 でも……


「ヒカリ。元気出しなよ。こうなったら、二人だけで頑張ろう」


 気が付けば、僕はそんな言葉が口から出ていた。

 僕はどうしてもヒカリに対して負の感情を持つことができなかった。


 リック達の行動は正しいと思う。

 ヒカリのしたことは迷惑なんてレベルで済まされるものではない。

 それでも、僕は彼女に対して、怒りはおろか、嫌悪感すらまるでなかった。


「ト、トオルさん、正気ですか? 私、死神ヒーラーですよ?」


「まあ、変なのはお互い様だし」


「……う」


 以前にヒカリが僕に言った言葉をそのまま返した。

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