第24話 普段の僕は最弱です
巻き込まれ組であるリックとアモンド。二人は中二病ではないので、良識的な会話ができる。
妙に新鮮な気分だ。
「ちなみに、誰か一人でも魔王ネビュラを倒せば、全員がこの世界から脱出できるらしいぞ」
新しい情報が入ってきた。
そうだとしたら、リルあたりに魔王を倒してもらうのを待っていた方が得策かもしれない。
だが、それでも千奈を見つけるのは決定事項だ。
それまでは、この足を止めるわけにはいかない。
「まあ、俺たちは早く帰りたいから、自身でクリアーしたい派だな」
「僕も事情があるし、ロックガルドまでは行きたい」
「皆さん、それぞれ事情はあるみたいですね。力を合わせて頑張りましょう~♪」
何故かテンションの高いヒカリ。
相変わらず気分よく先頭を独走中だ。
というか、ヒーラーがそんな前に出ていたら、危険じゃない?
「って、ヒカリ! 危ない!」
「なんですか? ひゃあ!?」
楽しそうに歩くヒカリの目の前には一匹のゴブリンが立ちふさがっており、彼女に向かって鋭い爪を振りかざしていた。
ヒカリは町から出て、すでにかなりの距離を進んでいたことに気付いていなかったようだ。
とっくにモンスターの出現範囲に入っていた。
「ヒカリは下がっていろ!」
涙目で後退してきたヒカリを最後尾まで下げる。
後はアタッカーの二人に任せよう。
「ありがとうございます。ではトオルさん、やっちゃってください!」
「そうか! こいつはあのレオンとかいう魔人を退けた実力者。トオルに任せた方が安定するだろう」
「…………え?」
皆が僕に期待の眼差しを向けている。
「さあ、トオルさんの強さを皆さんに見せてあげてください!」
「う、うん」
僕はゴクリと唾を飲んで、ゴブリンの前へと立った。
僕がやるしか……ないのか?
「う、うおおお!」
やぶれかぶれでゴブリンに突撃して、剣を振り下ろす。
しかし、その剣はゴブリンには当たらなかった。
避けられたのではない。『外れた』のだ。
おまけに僕の剣からは、まるで『へなへな』という効果音が見えるかのように、鋭さが全くなかった。
「グガァ!」
「ぐわ!」
ゴブリンの反撃を受けて、僕は豪快に吹っ飛んだ。
「きゃああ! ト、トオルさん? ヒール!」
ヒカリが即座に回復魔法をかけてくれる。
特に痛くはないが、この程度では底力も発動しないし、回復しておいた方が無難だ。
「なんだ? このトオルって奴、使えねーぞ。やっぱりこの前のは、ただのまぐれか」
アモンドが僕を見て、悪態をついた。
二人の目は『失望』の感情に満ちている。
しまった。せっかくパーティーを組めたのに、このままでは解散となってしまうかもしれない。
「でも、ヒカリは即座に回復魔法をかけたぞ。すさまじい手際だ。こっちの子は使えるな」
ヒカリの回復魔法の腕は絶賛されているようで、これで解散の危機は免れた。
だがこれは、下手をしたら、僕だけが追放されてしまう可能性もあるのでは?
そうなったら、どうしよう。
いや、それならそれで、受け入れよう。迷惑はかけられないし、一人でも頑張ればいい。
「ご、ごめんなさい。ハードルを上げすぎました。トオルさんは、緊張してしまったんですよね?」
「あ、いや、別にそういうわけじゃ……」
ヒカリはまだ僕が上級者だと思い込んでいるようだ。よほど人が良いのだろう。
「ふう。何とか倒せたか」
声が聞こえた方を見てみると、そこにはゴブリンの死体があった。
いつの間にかアモンドとリックが敵を倒してくれたようだ。
さすがにレベル5は強いな。
この人達ならパーティーを組まなくても、余裕で進めたかもしれない。
「ん?」
ふと、ヒカリの方を見ると、彼女が小刻みに震えているのが見えた。
「はぁ、はぁ、ううっ。い、いけない。このままではいつもの『発作』が……」
息が荒い。苦しそうにしており、何かをブツブツと呟いている。
心なしか、顔も赤い気がする。
どうしたんだ?
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