第21話 いざ、ロックガルドへ!
千奈の事を説明すると、ヒカリは思った以上に真剣に話を聞いてくれた。
「なるほど。確かに妹さんがこの世界に来ている可能性は高いですね。一つ聞きますが、妹さんは初心者なのですか?」
「い、いや。プレイ期間は短いが、腕は上級者レベルだ」
「では、いきなりやられてしまっている事はないでしょう。妹さんも、きっとうまくやっていますよ。私達は落ち着いて情報を集めましょう」
まるで自分のことのように考えてくれるヒカリ。
「ひょっとして、千奈を探すことを手伝ってくれるのか?」
「もちろんです! トオルさんは命の恩人なのですから。恩を返させてください!」
これはありがたい。仲間がいるのは非常に心強いものだ。
気持ちが落ち着くと、かなり冷静に物事を考えられるようになった。
まず、千奈は絶対に無事だ。
天才のあの子が、そう簡単にやられるとは思えない。
きっとこの世界の仕組みを理解して、うまくやりこなしているはずだ。
ヒカリの言う通り、じっくりと情報を集めて、千奈を探した方がいいだろう。
「では、作戦を立てましょう」
ヒカリが地図を広げて説明を始めた。
この世界の地図を持っていたようだ。
地図を入手するためにこの町へ来たが、図らずともその目的は達成できた。
「今はこの『モース』という町にいます。トオルさんがこの世界に来た時は、この町からスタートしたのですか?」
ヒカリが小さめの町を指さした。
モースというのが、この町の名前らしい。
「いや、僕が召喚されたのは、もう少し離れた場所だったな。この辺かな?」
「なるほど。どうやらスタート地点にはかなり誤差があるようですね。では、この『ロックガルド』という町に行ってみませんか? この町は、世界で最も大きな町ですし、ここからスタートする人は多いと思います」
ヒカリが指さすロックガルドという町は、このモースの倍以上は大きい。
世界最大の町か。
そこなら、たとえ千奈とは会えなくとも、たくさんの情報を得ることができそうだ。
「よし、ロックガルドへ行こう!」
「はい! ですが、問題もあります。ロックガルドまでは少し距離があるため、道中でモンスターと出くわす危険が多いでしょう」
確かに……モンスターはまずい。
「でも、トオルさんならモンスターなんて楽勝ですよね! あんな強い魔人を圧倒できたのなら、この辺りのモンスターなんて敵ではありません!」
「……う」
安心しきっているヒカリ。
でも、それは大きな勘違いなんだ。
本当の僕は初心者なんだよ。それどころか、最弱なんだ。
『底力』が発動すれば、確かに僕は最強になれるだろう。
だが実の所、話はそう簡単ではない。
底力の効力を最大限に発動するには、相応の『リスク』が発生する。
底力は体力の減少具合によって、効果が上昇する。
逆に言えば、ちょっと怪我をしたくらいでは、大して強くはなれないのだ。
初心者の僕だと尚更だろう。
『強烈なダメージ』を受ける必要があるのだが、その調整が難しい。
やりすぎると死んでしまうからだ。
レオン戦ではたまたまその『調整』が上手くいった。
だが、次も同じように行くとは限らない。
自分で自分を傷つけられたら、話は早かったのだが、このゲームは味方の攻撃では傷つかない。
『自分』も『味方』であるため、自傷ダメージは無効だ。
当然、味方に攻撃してもらって、底力を発動させるのも不可である。
なんとかして、敵からの攻撃で体力を『1』にできれば、それこそ誰にも手が出せない最強の戦士になれる。
だが、そんな調整をするのは、事実上は不可能で、机上の空論と言ってもいい。
更に言うならば、あの時みたいに強くなるには『中二病ブースト』を発動させる必要もあった。
そして、その為には『俺』が出てこなければならない。
それはちょっと勘弁だ。できればもう二度とヒカリの前で『俺』にはなりたくない。
「トオルさん? どうしましたか?」
「あ、いや……ヒカリ強さはどれくらいなのかな? 特技とかはある?」
僕は誤魔化すようにヒカリについて話を振った。
今、本当の事を話して、ヒカリを不安にさせるのもよくない。
『俺』を含めて全てを話すのはもう少し後にしよう。
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