第17話 戦いの後はいつも虚しい

 結局、レオンは逃走してしまったので、『俺』が真の力を発揮する前に戦いは終わってしまった。


「やれやれ。中二心の足りない奴だ。だが、まあいい。久々に楽しめた。満足したし『戻してやる』か」


 そうして体の主導権は再び『僕』へと移った。

 まあ、これだけやられたら、さすがに満足してくれるか。


 とりあえず、敵の撃退には成功した。

 正直、信じられない。


 だって、あの僕がボスキャラであるレオンを退かせたんだぞ?

 まるで夢を見ているみたいだ。

 今の僕は、ヒーローと言っても差し支えないのではなかろうか?

 この世界こそが僕の生きるべき居場所なのかもしれない。


「う、う~ん」


 美少女が目を覚ました。

 よかった。無事みたいだ。


「大丈夫かい?」


 ちょっとカッコつけて、キラリと歯を光らせながら、美少女に声をかけてみた。

 ヒーローなんだし、それくらいしてもよかろう。


「あ、はい。……ひいいいいいい!?」


 しかし、次の瞬間、美少女は再び気絶してしまった。


「ん?」


 いったい何が起きたんだ。

 この美少女の目は、まるで怪物を見るような目だったぞ。


 そこで僕はあることに気が付いた。

 周りにはたくさんの人だかりができていたのだ。


「え? こんなに人がいたの?」


 この町はNPCばかりと思っていたが、どうやらプレイヤーもたくさんいたらしい。

 彼らはヒソヒソと耳打ちをしている。


「お、おい。あいつ、なんだよ? 化け物か?」


「というか変態だぞ。切られながら笑っていた。今も凶悪な笑みを浮かべている」


 皆が僕の方を見ながら、恐怖に怯えていた。

 もう一つ、気付いてしまったことがあった。


 僕の周りにはとてつもない量の血だまりができている。

 体からは未だに大量の血が流れ続けていたのだ。

 僕は血だまりに映った自分の姿を見る。


 そこには体中から血を流しながら、悪魔のような笑みを浮かべて、キラリと歯を光らせている自分の姿が映っていた。

 しかも、手に持っているのは、切断された自分の腕だ。


「あ、いや、これは……その……違うんです」


 僕は慌てて言い訳を述べようとするが、恐怖に震えている男の一人が叫びだす。


「このトオルって奴は魔王の手下だ! 人間のフリをしているぞ!」


「え?」


 にわかっぽい顔をした男が急に叫びだした。


「マジかよ! 捕まったらどうなるんだよ! 俺はまだ死にたくねーぞ」


「捕まったが最後。身も心も骨の隅々まで犯される。女だろうが男だろうが関係ない。奴はそういう男だ。俺には分かる」


 いや、なにが『俺には分かる』だよ。

 全然分かってないから。こいつは何を言っているんだ。


「キャー! 助けて~! 犯される~!」


 頭の悪そうな女の一人が、大声で叫んで駆け出した。

 それをきっかけにその場にいた人間が一斉に逃げた。


「気を付けろ! この町に化け物がいるぞ! 悪魔がいるぞ! 名前はトオルだ! みんなに知らせるんだ!」


 それぞれ全く根拠のない台詞を叫びながら逃げていった。

 残されたのは僕と気絶している美少女の二人だけだ。

 僕は皆から変態で、化け物で、悪魔だと思われてしまったらしい。


 というか『みんなに知らせろ』とか言ってたよね?

 その歪んだ噂を止めることは不可能だろう。


 僕はこの世界で負け人間ではなくなった。だが、ヒーローにもなれなかった。

 僕がこの世界で新たに得た称号。それは……


「化け物で、悪魔で、変態のトオル……か。ふ、ふふふ」


 自然と乾いた笑い声が出る。

 そして僕は誓った。

 決めた! こんなクソゲーは、とっととクリアーして元の世界へ帰ってやる!

 ここは僕の居場所ではない!

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