第16話 底力&中二病ブースト!!
今の僕たちは底力の発動により、大幅にステータスアップした。
おかげで魔人であるレオンを圧倒できている。
「ち、こいつめ。生意気に痛みに耐えているのか? だが、腕が切断された痛みをいつまでも我慢できるはずがない!」
しかし、レオンの方もまだ闘志は消えていないようだ。
「集中力が切れた時が、てめえの最後だ!」
レオンは『俺』が痛みを我慢していると思いこんでいる。普通はそう思うだろう。
だが、残念ながら『俺』は我慢どころか、むしろ痛みで絶好調だ。
こいつは痛みを受けるほど、喜んで興奮する。
だから、何年経っても集中力は落ちないぞ?
今の状態の『俺』なら、ひょっとして、レオンに勝てるのではないか?
「いや、まだ足りないかもしんねーぜ、ご主人様」
だが、『俺』が異を唱えた。確かにその通りだ。
体力の減少の割合から考えて、現段階での僕のステータスはそこまで高くはないだろう。
体力が減るほど、底力の効果により、『俺』はさらにステータスアップをしていく。
『俺』は恐らく、もっと体力を減らして強くなっておきたいと考えているのだ。
それは僕としても賛成だ。
しかも、ちょっとワクワクしてきた。
もし、これ以上体力が減って、底力の倍率が上がれば、僕は誰も手が出せない最強の戦士となれるのではないだろうか?
それだけではない。
今の『俺』は恐らく『中二病ブースト』も適応されている。
こいつ……いや、今の『僕たち』は完全に中二病だ。
『底力』と『中二病ブースト』。
この二つを混ぜ合わせて、最大限に効果がはっきしたら、それこそ究極とも言える強さとなるだろう。
そして実は、この痛みこそが僕にとって最大の『治療』だったのだ。
なんでも僕の体は事故の影響で『痛みを忘れている』状態らしい。
だから、強烈な刺激……つまり、『痛み』を受けたら、それで体が痛覚を思い出す可能性があるのだ。
現実世界ではむやみに体を傷つけるわけにはいかない。
でも、この世界なら体力さえ残っていれば、どれだけ体に『痛み』を与えても問題ない。
だって、この世界は痛みが支配するゲーム世界なのだから。
この世界は僕にとって、最高の『リハビリ』なのだ!
「来いよ。レオン」
「なにぃ?」
さらにテンションが上がっていた『俺』は、レオンを挑発していた。
「どうした? 人を殺すのが怖いのか? サイコパスだとか言って、お前はただのヘタレか?」
「な、なめるなぁぁぁぁ!」
いい感じに乗ってきた。
レオンの怒りの一撃が『俺』に向かってくる。
「直撃を受けると、さすがに死んじまうか」
『俺』が軽く身を引いて、だが致命傷にならない程度に、その攻撃を『受け入れる』。
「いいぞぉ。いい痛みだ。そして、いい刺激だ!」
掠ったため、それほど深い傷ではないが、それでも剣という刃物で切られたのだ。
大量の血が噴き出し、『痛み』が全身を駆け巡る。
「そうだ! もっとだ! もっとぉぉぉ!」
「うおあああ!」
『俺』の叫びに反応するように、レオンが連続攻撃を繰り出す。
すさまじいコンボだ。ある程度の上級者にしかできない芸当。
だが、あまりに遅い。
底力が発動中の『俺』にとって、その全ての攻撃を回避することは容易だろう。
だが、それでは意味がない。
もう少し自分の体力を減らさなければ、底力の効力は完璧には発揮できない。
『俺』は全ての攻撃をギリギリ剣の切っ先が当たるように、自分の体にヒットさせていた。
理想は体力を1まで減らすことだ。
だが、それは調整が難しい。
一歩間違えたら死んでしまうので、それだと、本末転倒になる。
「ああ、少しずつ。そう、少しずつがいいんだ。なあ? レオン?」
「ぐ……おおおおお!」
次々と襲ってくる剣戦が、『俺』の中の喜びの感情を刺激していく。
切り刻まれていく『俺』。
減っていく体力。
増えていく激痛。
そして『歓喜』。
「その調子だ! 素晴らしい! もっと俺を喜ばせろぉぉ!」
『俺』は人目も気にせず叫ぶ。
まったく、恥ずかしいんだよ。
だが、あいつの気持ちも分かってしまう。
抑えきれない高揚感が体の奥から湧き上がってくる!
『俺』の意識が流れ込んできているせいか。
痛みという刺激が最高の喜びになっている僕もここにいるんだ。
ああ、完全に中二病だ。
そして、この心は更なるステータスアップへと変換される。
二人の中二病が一つになりつつある。
これはあのリルと同様……いや、それ以上の『中二病ブースト』となっているのかもしれない。
「はあ、はあ」
『俺』とレオン、両者とも息が荒い。
『俺』は喜びの興奮のため、レオンは疲れのせいで息が荒れている。
「レオンさんよ。お前、人を切りたいと言ってたよな。どうだ? お前が望むサイコパスに、少しは近づけたんじゃないか?」
望みを叶えられたレオンは、浮かない顔をしていた。
それどころかその顔は驚愕、恐怖すら浮かべているように見える。
『俺』の方はというと、この上ない『笑顔』だ。
体力を確認した。
すると、残りは15だった。
最大とまではいかないが、今が『底力』の恩恵を十分に生かせる時だろう。
いい感じにテンションも上がって『中二病ブースト』の効果も高まっているはずだ。
地面には、剣を握ったままの自分の腕が落ちていた。さっき切断された腕だ。
『俺』が残った手でその腕を拾い上げて、更に笑う。
「よし、今度はこっちの番でいいよな? レオンンンン?」
そんな『俺』を見たレオンが恐怖の顔のまま口を開いた。
「こ、こいつ、本物の化け物だぁぁぁぁ! ひいいいいい!」
「ここからは俺の反撃だ! ……って、おい!?」
満を持して攻撃に移ろうとした『俺』だが、その前にレオンは逃げ出してしまった。
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