第14話 あいつが目覚める!!

 魔人となって生まれ変わったレオン。

 恐らくその実力は通常のモンスターを遥かに凌ぐものだろう。


「俺はなぁ、つまらん人間だったよ。だから、俺はサイコパスになりたかった。自分をサイコパスだと思い込んで、安心させていた。だが、もうそんな事をする必要も無くなった」


 レオンがその狂気の瞳を美少女へと向ける。

 その瞬間、美少女の顔はビクリと怯えた表情へと変わった。


「俺はその女を殺す。そうして俺は『本物』となるのだ!」


「なっ! そんな下らない自己満足の為に、女の子の未来を奪うつもりか!?」


「俺にとっては、重要な事さ」


 駄目だ。もう話が通じそうにない。

 これも彼が魔人になってしまった影響だろうか。

 それとも、最初からそういう性格だったのか。


「ちなみに魔人に転生すれば、痛みは十分の一になるんだぜ。俺はもう痛みを恐れずに済む。そして、今度は俺が人間に痛みを与えてやるのだ!」


 魔人は痛みが十分の一になるらしい。

 これは明らかに魔族側が有利だ。

 ダメ―ジを受けてもデメリットは無し。

 ただし、魔族に『底力』が適応されないので、そのメリットは消え去ってしまう。


 とはいえ、この世界で底力を使いこなすのは、『痛み』のせいで不可能みたいなものだ。

 やはり魔族側の優位性が強い。


「や、やめて。近づかないで……きゃあ!」


 レオンが女の子を殴りつけた。

 そのまま女の子はぐったりとして動かなくなってしまう。

 おそらく、気絶してしまったのだろう。


「くそ! やめろ!」


 気付いたら、僕は鞘から剣を抜いていた。

 これ以上は見過ごすわけにはいかない。


「なんだ? お前みたいな雑魚が、俺とやる気か?」


 相手は完全に余裕ぶっている。でも、それは正しい。

 初心者の僕では奴に勝てるわけない。実力の差は明白だ。


 レオンがジリジリと近づいてくる。

 間合いに入ってしまえば、その瞬間が僕の最後だ。

 その前にやるしかない! 先制攻撃だ!


「うおおおおおおお!」


 全身全霊を込めて奴に剣を叩きこむ!

 そうだ。僕がこの女の子を助けるんだ!


 今までは何もできない最底辺の僕だったけど、この世界では違うはずだ!

 僕はこの世界で……ヒーローになるんだっっ!


「………………え?」


 だが、次の瞬間、異常な違和感が僕を襲った。

 いや、違和感じゃない。

 これは……『喪失感』だ。

 そして、僕は気付いてしまった。



 ――腕が……無い。



 僕の攻撃は全くレオンに当たらず、逆にカウンターで放たれたレオンの剣技によって、僕の腕の肘から先は切り飛ばされてしまったのだ。


 切断された腕は、まるで玩具のようにクルクルと回って地面へと落ちた。

 その手は、剣を握ったままだった。


「うわあああああ!?」


 やはり、ダメだった。

 僕ではレオンに勝てない。

 最弱人間の僕は、ヒーローになんてなれなかった。


 もう終わりだ。

 僕はこのまま為す術もなく殺されてしまうのか。


「ははは、やったぜ! 腕を切り飛ばしてやった! これで俺も、サイコパスだぜぇ!」


 遅れて、僕の腕からは大量の血が噴き出す。


「う、腕が……僕の…………腕」


「くくく、自分の腕が切断されるってのはどんな気分だ? 『痛い』だろ? だってこの世界は、『痛み』がダイレクトに伝わるからなぁ!」


 痛い…………痛い?

 しまった。まずい。

 僕は『大事な事』が頭から抜け落ちていた。


「いい感触だったぜ。だが、まだ足りない。俺はもっと人を切りたいんだ!」


 レオンが笑いながら、僕の方へ近づいてくる。


「だ、ダメだ。やめろ………来るな。僕に……近づくな」


「いいや。お前は殺す。俺の逆らった愚かさを思い知りながら、地獄へ落ちろ」


 痛み……強烈な『刺激』。

 血が沸騰する。

 体中から熱い感覚が沸きあがってくる。


 意識が遠のいてくる。

 これは、痛みのせい?


 違う。『反転』だ。

 この感覚は『入れ替わり』なんだ。

 こんな強烈な『痛み』を受けたら『あいつ』が目覚めてしまう!


 ああ、ダメだ……もう……限界だ。抑えきれないっっ!



「くくく、ははは」



「…………え?」


「はははははははははは!」


 ついに……僕の中の『あいつ』が目覚めてしまった。

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