第13話 魔人となった男

 リルと別れた僕は、彼女が言っていた町へ入ってみた。

 この町は、あまり栄えていない町らしく、辺境の静かな所みたいだ。


 町というより、村と言った方がいいのかもしれない。

 ここにはたくさんの人がいたが、全員の目に光が無い。

 恐らくNPCなのだろう。


 僕のようにこの世界へ送られてきたプレイヤーは、いないのだろうか?

 とにかく、人に会いたいところだ。

 後は地図だな。まずは世界地図を手に入れて、この世界の地理を知りたい。


「きゃああああああ!」


 む? 女の子の叫び声?

 NPCが叫び声など上げるはずがない。

 そうなると、間違いなくこの世界へ来た人間の叫び声となる。


 ちょっと危険な予感はするけど、人がいるのなら会いたい。

 叫び声が聞こえた方へと向かってみよう。


「はあっ……はあっ」


 女の子が息を切らしてこちらに走ってくる。

 これは……とてつもない美少女だ!


 美少女は後ろを見ながら走っており、このままだとぶつかる。

 僕は声をかけようと思ったが間に合わない。


「きゃっ?」


「おっと」


 ぶつかってきた美少女を受け止めてしまった!

 おお、美少女と触れ合う事ができるとは。

 これが異世界ラッキーか!?

 いや、アホな事を言っている場合ではない。何があったのか聞こう。


「ご、ごめんなさい」


「あ、いや、大丈夫だよ。それより、何かあったの?」


 会話のニュアンスから、やはり相手は人間だということが分かる。

 この町に着いて誰にも会えていなかったので、少し安心感が出てきた。


「そうだ。『あの人』が来ます! 早く逃げないと!」


 あの人? 誰かに追われているのか?


「どこへ行くんだ?」


 軽快な声が聞こえてくる。彼女を追っていた奴か。

 いったいどんな奴なのか……。

 あれ? でもこの声、どこかで聞いたことがある。


「見つけたぜ」


「お、お前は!?」


 追手の正体を知って、僕は驚きを隠せなかった。


「レ、レオン!?」


 それはさっき消えてしまったレオンだった。

 無事だったのか!

 体には傷一つ無く、どうやら怪我は治ったらしい。


「あ? お前はトオルか? そうか。お前もこの町に来たのか」


 な、なんだ?

 レオンから妙な違和感を覚えた。

 なんだか、様子がおかしいぞ。

 でも、さっきまで一緒にいたんだ。話せば分かるに違いない。


「よかった。君なら話は早い。何があったのか知らないけど、相手は女の子だ。トラブルなら、事情を話してくれるか?」


「近づいちゃダメ! 逃げてください!」


 事情を聴こうと近づこうとしたら、美少女の鬼気迫る声が耳に入ってきた。


「ひゃはははぁ!」


「うわっ」


 僕は直感で後ろに飛びのいた。

 瞬間、レオンの剣が僕の目の前を一閃する。


「な、なにするんだよ? 遊んでいるのか!?」


 少しドキドキするが、大丈夫だ。

 なぜならこのゲーム、模擬戦を除いた場合、基本的には『味方の攻撃ではダメージを受けない』というシステムである。


 当たり判定はあるのだが、ダメージは無効なので、どれだけ切られても体力は減らない。

 僕とレオンは人間。

 同じ種族なので、同士討ちは起きない。

 そのはずなのだが……


「…………え?」


 でも、僕の頬からは血が流れていた。

 さっきの一撃が僕の頬をかすめていたってことか?

 でも、問題はそこじゃない。


「ど、どうして? 僕たちは味方だぞ。なんでダメージが?」


「ダメです! その人はもう味方では……いえ、人間ではありません!」


 目を凝らして見てみると、レオンの周りからは黒い邪気のようなものが出ていた。


「ああ、そうだ。俺はもうただのレオンではない。ネビュラ様の腹心の部下、魔人レオンなのだ!」


 レオンの目は赤く染まり、完全に狂気に満ちていた。

 つまり、レオンは魔族になったのか!?


 そうだ! ネビュラはあの時に言っていた。

 『彼の望みを叶えてあげる』と。

 そして、レオンはネビュラに向かってこう言ってなかったか?


 『あなた様の部下になります』


 ネビュラはその願いを聞き入れた。

 つまり、レオンはネビュラの部下となり、魔族へと転生してしまったのだ。

 しかも『腹心の部下』だって?

 レオンはいきなりボスクラスの魔人となって、生まれ変わったというのか?

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