第12話 中二病神ゲーマーVSゴブリン

 この世界は中二病ほど強くなる。

 ある意味では、リルの言動は理に適っているのだ。


 本当にネビュラの言う通り、恐怖に負けない心の強い人間が生き残る世界なのかもしれない。

 まあ、リルがそれを狙ってやっているのか、ただの素なのか、それは怪しい部分だが……

 個人的には後者な気がする。


「終末なる炎! いでよ、ファイアーボール!」


 リルが炎の攻撃魔法を放つ。

 巨大な火球がゴブリンに直撃した。


「おお!」


 その威力は中二病ブーストで威力が増幅しているらしく、大きな火柱が上がった。

 初級魔法を仰々しく呼んでいると思ったが、あながちハッタリでもない。

 ただのファイアーボールでも、中二病の心で強烈な魔法へと変化するのだ。


 だが、それでもゴブリンは死んでいない。

 やはり、レベルが1では火力が足りないようだ。


「ウガアア!」


 反撃でゴブリンの腕がリルに振り下ろされる。

 当たれば致命傷だ!


「無駄だ!」


 しかし、リルはステップを使って、ゴブリンの攻撃を素早く躱した。

 これは……『無敵時間』を利用した回避方法だ!

 動画などでよく見た上級者だけが使えるテクニックである。


 しかも、リルは後ろでも左右でもなく、『前』へ向かって相手の攻撃を回避していた。

 ステップの慣性で回り込んで、ゴブリンの背後を取っている。

 さすがは狂気の神ゲーマー! 攻防一体のテクニックである。


「甦れ! 煉獄のファイアーボール!」


 無防備なゴブリンの背中に再びリルの魔法が炸裂する。


「遊びは終わりだ! 泣け! 叫べ! そして死ねぇぇぇ!」


 更にゼロ距離による魔法連射。

 最後は相手の顔を両手で掴んで、直接燃やしたぁぁぁ!?


 この子、とある格闘ゲームに出てくる中二病キャラになりきっている!

 もうこれは、魔法使いの戦い方じゃないぞ!


「そこまでだ! 馬鹿め! クズが! まだだ! フハハハハハ!」


 まだ追撃してるし!

 やりすぎ! 色々な意味でやりすぎですからっっ!!!!


「ギャアアアア!」


 ゴブリンは消滅。

 あれだけ燃やされたのだから、当然である。


「そのまま死ね!」


 そして、決めポーズ。もう完全に中二病キャラそのものだ。

 とんでもないものを見てしまった。

 これが中二病ブーストの効果なのだろうか。


「へえ、やりますねえ」


 ネビュラは感心するようにリルを眺めていた。


「ゴブリン程度なら、何匹こようがノーダメージで倒すことができるのさ」


 リルは何事も無かったかのように普段通り(?)に戻っている。

 ずいぶんとスイッチの切り替えが早い子だ。


 まあ、元ネタの中二病キャラも、クールかと思ったら、いきなり叫びだしたりするし。

 しかも、嫌いなのは暴力らしい。好きなものは肉だとか。


「なるほど。あなたとなら面白いゲームができそうです。いつか魔王城にいる私に会いに来てください。その時に決着をつけましょう」


 ずいぶんと楽しそうなネビュラ。本当に僕達とゲームをしたいだけなのだろうか?


「それでは、私は魔王城に帰らせていただきますね。…………おっと」


 ネビュラが何かを思い出したように指を鳴らす。

 すると、ずっと命乞いをしていたレオンの体が消えた。


「レオン? 彼をどうしたんだ?」


「なに、私はこう見えて、律儀な性格なのです。彼の『望み』を叶えてあげるだけですよ」


 そう言ったネビュラも、光に包まれて、幻のように消えていった。

 レオンの望み? どういう事だろう。


「ククク、魔王ネビュラか。面白い。さっそく向かってやろう」


 リルの方は、今すぐにでも魔王と戦うつもりらしい。


「こっちはこれから最短で魔王城を目指すつもりだ。トオルはどうする?」


「僕は…………」


 一緒に行く……と言いたいが、今の戦いを見て、明らかに自分がお荷物なのが分かってしまった。

 きっと一緒に行っても、足手まといにしかならない。


「そうか。ま、無理することも無いさ」


 リルが僕の心中を察してくれた。

 中二病だけど、そういった気遣いができる子なんだろう。


「ククク、それにボクみたいなキモいのと、一緒にいたくはないだろう?」


 レオンに言われた事を、本当は気にしていたのだろうか。

 レオンが言っていた『キモい』という言葉は、常識的な観点から見ると、正しいのかもしれない。


「僕は、リルを気持ち悪いと思ったことは無いよ」


 でも、僕は最初から常識なんて御大層なものは持ち合わせていない。

 そもそも、僕自身が常識を語れるほど褒められた人間じゃないのだ。


「…………む」


 気が付いたら、リルの頭を撫でていた。


「だ、だから、頭を撫でるなと…………いや、まあいいか」


 リルもまんざらではない様子で、俯きながらも嬉しそうに笑っていた。


「どうやら、お前もかなり変な奴らしいな」


「よく言われるよ」


 そうして、リルは西に向かって指をさした。


「あそこに町が見えるだろ。もしかしたら、ボクたち以外の召喚された人達がいるかもしれない。その人達とうまく隠れて暮らせれば、死ぬことはないだろう」


 確かに町が見えた。リルは既にこの世界の地理を把握しているらしい。

 だが、僕はそんなことはないので地図が必要だ。

 とりあえず、地図を入手するためにも町へ向かってみるとしよう。


「あの町でじっくりとレベルを上げるのも、いいと思うぜ」


「なるほど。ありがとう。レベルが上がって、自信が付いたら、その時はパーティーを組もう」


「ククク、いいだろう。その時を楽しみにしているぜ」


 いつか、僕がもっと成長して、彼女と肩を並べられる日が来たら、リルとも一緒に冒険したいものだ。

 ここでリルとはお別れとなるが、またいつか会える。そんな気がする。

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