第11話 中二病のゲーマー美少女、ついに動く!
ここは痛みがリアルに伝わる恐ろしいゲーム世界だった。
だが、それでも動揺しない僕を魔王は気に入らないらしい。
「ねえ、もっと泣き叫んでくださいよぉ。そこのレオンさんみたいになってほしいです」
ネビュラはレオンの方に親指を向ける。
「た、助けてください! なんでもします! この痛みを、止めてくださいぃぃ!」
レオンは全てを忘れて、ただ懇願していた。
さっきまでの面影はまるでない。
「この人、何も持たない哀れな人間ですよね。自分をサイコパスとか言ったり、他人を無能とか打たれ弱いとか言って、本当は自分が無能で打たれ弱いのを誤魔化している。恥ずかしくないんですかぁ?」
「ごめんなさい! 許してください!」
「ね? 面白いでしょ? だから、中二病の人間を召喚するのです。イキっている奴ほど、簡単に崩れる。最も打たれ弱かったのは自分だったわけですね。はははは!」
「人をオモチャ扱いか。性格の悪い奴だな」
「だって私、『魔王』ですから。ですが、あなたたち二人は、少し特殊のようですね?」
ネビュラは僕と、もう一人、リルの方に目を向けていた。
「ククク、困った魔王さんだ」
不敵に笑うリル。この状況で笑っていられるのはまともでない証拠だ。
「トオル。お前もボクと同じか?」
「…………ノーコメント」
世にも恐ろしい魔王を目の前にして冷静な僕。
笑っているリル。
泣き叫んでいるレオン。
いったい誰がまともで、誰がおかしいのか。
「言っておきますが、あくまで私は対等なゲームを楽しみたいだけです。プレイヤーの皆様も、心ゆくまでこの究極のゲームを楽しんでほしいです」
どうだか。この魔王は、僕たちを使って遊ぶことしか考えていないように見える。
「底力の強化や中二病ブーストは、皆さんを有利にしたいと思ってのサービスですよ?」
「ククク、効果が数十倍で強くなっても、全く使えなきゃ意味がない。これは罠だな」
「いえいえ、このシステムは『痛み』に耐えられる真に意思の強い人間だけが使いこなせる究極のシステムじゃないですか。あなた方に試練を与えているだけです」
「よく言うぜ」
リルの言う通り、このシステムが罠なのは間違いない。
ネビュラは僕たちに使いたくても使えない苦しみを突き付けて、楽しんでいるのだ。
底力の効果が数十倍なのは本当だろう。
『中二病ブースト』というのも確かにあると思う。
しかし、この世界で体力が減ると、その分の『痛み』が発生する。
簡単に説明すると、体力が減る度に強くなれるが、その代わりに例えようもない『激痛』に襲われるというルールだ。
これはとんでもないジレンマと言える。
痛みでまともにプレイができなくなるから意味が無いし、そんな状態で中二病でいられる人間なんて、存在するはずがない。
結果的には、やはりダメージを受けてはいけないという事になる。
「ククク、恐ろしいデスゲームだな」
「ふふ、ここは『痛み』が支配する世界です。この世界では、『痛み』こそが絶対の正義なのです!」
痛みが支配するゲーム世界。まさしく悪夢のゲームだ。
くそ、『あいつ』が喜びそうな、くだらない世界だ。
「面白い。この闇のゲームは、ボクがクリアーしてやる。狂気の神ゲーマーの血が騒ぐぜ」
包帯を巻いている手で右目を抑えながら、リルは更に笑う。
「大した度胸です。大抵の人は、ここでビビり倒すものですけどね」
「ククク、ボクにクリアーできないゲームは無い。ワンミスで死ぬような難易度のゲームなんて、いくらでもやってきた」
「いいでしょう。貴方はまだ中二病の心が失われていないみたいですね。そうでなくては面白くありません。気に入りましたよ」
この状況で恐れないのは、正真正銘の中二病と言うべきか。
ある意味では頼もしい。
「ネビュラ。魔王のお前を倒したら、元の世界に戻れるって話は本当か?」
「ええ。私はゲームのルール関して絶対に『嘘』はつきません。まあ、黙っている事は多いですけどね」
確かに今の所はルールに関して『明確な嘘』は無かった気がする。
だとすれば、ネビュラを倒したら元の世界に戻れるというのも、信じていい。
「ネビュラ様、助けてください! わたくしは、あなた様の部下になりますぅぅ!」
レオンの方はひたすら命乞いを続けていた。
とにかく現状から助かりたいらしい。
「やれやれ、それでも中二病ですか? 情けない男ですねぇ。ま、そこのお二人は、もう少し頑張ってくださいよ?」
ネビュラの目が細まったかと思えば、ゴブリンがこちらに襲い掛かってきた。
「うおっ! や、やばい」
そういえば、僕たちはゴブリンと戦闘中だった。
ゴブリンはさっきまで止まっていた。どうやらネビュラが待機させていたようだ。
解説中は敵を止める……か。
確かにネビュラはゲームに対しては、律儀な部分があるのかもしれない。
「くそ。どうする?」
とはいえ、今のこの状況は、非常に危険である。
そもそも、ただでさえ僕の腕ではモンスターには太刀打ちできないんだった。
「いいだろう。ボクが相手をしてやる。ノーダメージで倒せばいいんだろ?」
「よ、余裕だね。勝算はあるの?」
「任せるがいい。すぐ楽にしてやる」
ほ、本当に大丈夫か? ちょっと余裕すぎない?
でも、リルの体からは、本当に漆黒のオーラのようなものが出ていた。
これは……そうか、これが『中二病ブースト』というやつだ!
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