第5話 中二病ほど強くなれる世界
異世界召喚された僕の前に現れたのはサイコパスと中二病の女の子だった。
「おいおい、こいつ、中二病かよ。キモいなぁ!」
「ククク、闇に呑まれよ!」
男の言い方はかなりきつかったが、魔法少女(中二病)は、まるで気にしていない。むしろ、自分の世界に浸っていた。
しかし、なんというか。これでは余計に僕のモブっぽさが目立ってしまう。
僕だけ個性が無い。
せっかく夢のゲーム世界に来たのに、いつもと変わらない気がする。
しかし、中二病……か。僕にしてみれば、この男の人だって同じことが言える。
いや、もっと言えば、僕だって『そう』言われてきた人間だ。
つまり、この三人には『ある特徴』が一致しているのだ。
「ふふふ、さっそくいい感じですね」
そんな僕たちを見たお姉さんは、悪戯っぽい表情で頷いている。
「ああ? 何が言いたいんだ?」
「実はこの世界、基本的にはゲームを1000時間プレイした『中二病』の人間が召喚されるルールがあるのです」
やはり、そうだったか!
この世界に召喚される条件。その一つが『中二病』だった。
二人が特殊なのは、ある意味では必然だったかもしれない。むしろ、ここでは僕の方が異端と言える。
「てめえ! ふざけんな! この俺が中二病だとぉぉ!?」
サイコパス剣士はブチ切れている。顔が真っ赤だ。
いや、というより、これは『恥ずかしさ』の赤面だろう。
まあ、中二病って言われたら、この人は自分でサイコパスという『設定』を作っているだけの痛い人って事になる。
「そう怒らないでください。特別サービスとして、この世界では『中二病ブースト』というシステムを適応させていただきます」
「中二病ブースト?」
「ええ、これは皆様の『中二病の心』がそのまま力となり、ステータスがアップするシステムです」
なんと! この世界では『中二病が重傷なほど強くなる』らしい。
「そしてこの世界は、皆様の中二病の心が増幅するようにできております。だから、恥ずかしがる必要はありません」
しかも、中二病の心が増幅される。
例えば、サイコパスも魔法少女も、普段は自分を抑えているかもしれないが、この世界は、その制御が効かなくなる。
もちろん、それは僕も同じだろう。
「ええ。そうです。だから、そこのあなた。我慢しなくていいんですよ? あなたも存分の自分の心を開放してくださいね」
確かに僕の中には、今は眠っている『もう一人の人格』がある。
それは周りから見れば、誰よりも中二病に見えるかもしれない。
僕のこの体質が、中二病だと認定されてしまったようだ。
そして、この世界では中二病がそのまま『力』となる。だったら『あいつ』が目覚めたら、かなり強いのかもしれない。
とはいえ、奴が目覚めるのは強烈な『痛み』という条件が必要だ。
「それでは、冒険を開始しましょう! 皆様の中二病をこの世界に見せつけてやるのです! 楽しいゲーム世界の始まりです!」
楽しい異世界生活。
だが、僕の心はワクワク感だけに支配されはしない。
ちょっと気になる部分もある。
「あの~。すいません。一つ聞きたいんですけど、いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「とりあえず、元の世界へ戻してくれませんか?」
やっぱり退路を確保しよう。
人生において、安全性を重視するのも大事である。
「あ、ごめんなさい。魔王を倒すまでは、元の世界に戻れません。頑張ってくださいね!」
は? 今、なんて言った?
「けっ、面白れえ! その気になりゃ、いつでもクリアーできる。このゲームで俺に勝てる奴なんていねーんだよ」
「クククク、ここが終末の地。ラグナロクだったか。いいだろう」
二人とも全く気にしていない!?
魔王を倒せるまで帰れないって、結構やばいと思うんだけど!?
「素晴らしい! この世界では、そういう狂った価値観を持つ中二病だけが生き残れるのです! むしろ、いきなり帰ろうとするチキンな凡人野郎は、最初に死ぬタイプですね」
なんか僕が間違っているみたいにされてしまった!?
くそ、誰がチキンな凡人野郎だ!
いいよ。分かったよ。やればいいんだろ。
僕だってずっとモブみたいでいるのは、ごめんだ。せっかく夢のゲーム世界に来たんだ。
どうせなら、思い切り楽しんでやろう。この世界でヒーローになってやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます