痛みが支配するゲーム世界

第4話 異世界召喚されたと思ったら、サイコパスと中二病がいました

「ううっ」


 ようやく、感覚が戻ってきた。いったい何が起きたのだろう?


「ん? ここは……」


 周りを見渡すと、まるで見知らぬ場所であった。


「なんだこの場所。……草原?」


 周りに見える景色は、どう見ても草原にしか見えなかった。

 さらに広がる地平線。

 少し見渡すと、後ろには大きな山も見える。


 ここで問題なのは、僕はまがいなりにも都心に住んでいる。

 近くのどこを探してもこんな草原は無い。

 いや、待て。この場所はどこかで見たことがある気がするぞ。


「1000時間プレイおめでとうございます! ようこそ、夢の世界へ!」


 声が聞こえた方を振り向くと、そこにはガイドみたいな姿の女性がいた。

 年齢は僕よりも年上のようで、朗らかなお姉さんといった雰囲気だ。

 そして、彼女の口から衝撃の発言が飛び出す。


「ここはゲームの世界。そう、皆様がプレイしていたダメージワールドの中の世界なのです。皆様は、この世界へ召喚されました!」


「なんだって!?」


 そうだ! どこかで見たことがあると思ったら、ここってゲームのダメージワールドにある場所じゃないか!

 確かゲームでも、こんな感じのフィールドがあったぞ!


 つまり、僕達はゲームの世界の住人になっているという事か?

 よく見ると、僕の服装は、ダメージワールドで使っている自キャラのトオルそのものだ。


 プレイ時間が1000時間を超えると、ゲームの世界に行けるという都市伝説は、本当だったのだ!


 これは……僕のモテモテのハーレム異世界生活が始まる!?


「よっしゃああ! 異世界転生だぁぁ!」


 僕は思わず歓喜の叫び声をあげてしまった。

 まあ、厳密には転生じゃなくて、召喚みたいだけど。



「ひゃっはぁぁ! 異世界転生だぜぇぇぇ!」



 そんな事を考えていると、もう一人、男の声が聞こえてきた。


「…………え?」


 よく見たら、僕とお姉さん以外にも他に人が『二人』いる。

 荒々しい剣士風の男。もう一人は、可愛らしい魔法少女だ。


 男の方は僕よりも年上で、成人しているようだ。

 社会人をやっているみたいな雰囲気を漂わせていた。

 その割に言動はちょっと子供っぽい気もするけど。


 逆に魔法少女の方は、見た目の幼さが目立っており、千奈よりも年下に見えた。

 この二人はなんだろう? 召喚されたのは、僕だけじゃないのか?


 しかし、よく見ると、二人とも『独自』のファッションをしていた。

 全体的に闇っぽいというか、ドクロみたいなアクセサリーが目立つ。


 このゲームは始める時に見た目を自由にカスタマイズできる。二人なりに拘ったキャラメイクをしているというわけだ。

 ちなみに僕はキャラメイクとか苦手なので、見た目はほとんど初期状態のままゲームを始めていた。


 こうなると、僕だけ剣士Aみたいな感じで、凄くモブっぽいぞ。

 僕も少しはキャラメイクを頑張ればよかったか。


「ククク、なるほど。ここが闇のゲーム世界……か」


 ちなみに魔法少女は、何故か右目を抑えて笑っていた。

 なんか可愛いけど、独自の雰囲気を漂わせている子だ。

 闇のゲームってなんだ!? 遊戯の王様的なやつか?


「今の皆様は、ダメージワールドの自キャラと同化しております。さあ、皆様で協力して、このゲーム世界を楽しみましょう!」


 とりあえず、この二人は僕の仲間ということでいいか。

 確かに、異世界の冒険に仲間は付きものだ。


「えっと……よろしく」


「けっ! なんだよ! 俺一人じゃねーのかよ!」


 僕は男の人に挨拶をするが、彼はそれを無視して、悪態をついていた。


「おい。そこのお前!」


「え? は、はい」


 しかも、いきなり睨み付けられる。



「最初に言っておくけど……俺さぁ、『サイコパス』なんだ」



「ええっ!?」


「人を殺すのが好きな快楽殺人者なんだぜ!」


 突然のカミングアウトに、僕は思わず後ずさってしまう。

 そんな僕を見て、男が満足げに笑っていた。

 この人、いったいどうなっているんだ??


「だから、気をつけろよ。俺に舐めた真似をすると……死ぬぞ?」


「は、はい。気を付けます」


 もしかして、危ない人なのか?

 異世界召喚は、こんなヤバい人も選ばれるのか?


 でも、なんだろう。同時に大きな『違和感』も覚えた。

 サイコパスの人って、自分から大声で『アピール』するものなのか?


 なんかこう、うまく言えないけど、『演技』っぽいような?

 まるで自分で『設定』を作っており、それに従って動いている。これって……


「クク、ククククク」


 今度は、魔法少女がいきなり面白そうに笑い出した。

 いったいどうした!?


「おいガキ! 何を笑っている! 死にたいのか? ああんっ!?」


 それに激昂するサイコパス。

 それでも、魔法少女は楽し気に笑ったままだ。


「ククク、悪いが、ボクはお前の事なんて怖くないぜ」


 そうして、今度は魔法少女が妙な『決めポーズ』をした。



「なぜなら、ボクは闇に魅入られし者、混沌の世界の住人だからさ!」



「…………」

「…………」


 こちらもまさかのカミングアウトだった。

 ちなみにボクっ子らしい。


「ククククク……うぐっ!? 右手の封印が!? こ、こんな時に……目覚めるんじゃない!」


 しかも、いきなり右手を抑えて苦しみだした!?

 抑えている右手には、包帯が巻かれている。


 そしてよく見ると、この子、目に眼帯のようなものを嵌めていた。

 キャラメイクによるアクセサリーだろうか。


 ドクロマークの眼帯は、絶妙な可愛らしさを感じさせる作りで、全体的に魔法少女の服装は、闇っぽくはあるが、ゴスロリな衣装だった。

 痛さと可愛らしさのちょうどいいボーダーラインと言えるセンスである。


 とりあえず、一つ確定した事がある。


 目の眼帯に右手に巻かれた包帯。痛々しさがあるファッション。

 この子は……『中二病』である!

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