第3話 異世界転生したいと思っていたら……?

 圧倒的な美貌を持つ妹の千奈。 

 彼女はその容姿だけではなく、全てが完璧だった。


 勉強、スポーツ、どの科目においても千奈は常にトップだ。

 さらに料理や家事も人並み外れた能力を兼ね備えている。


 もちろん、その才能はゲームにおいても発揮されている。

 このゲームを始めて半月ほどの千奈だが、その腕は既に達人級と言ってもいい。


 千奈はこのダメージワールドを始めて五分で僕を追い抜いてしまった。

 以降、彼女には一度も勝ったことがない。


 恐ろしいほどの戦闘センスである。

 何においても勝つことができない最弱人間の僕。

 逆にどんなことでも負けたことのない勝ち組の千奈。

 僕らは対極の存在だ。


 しかし、それでも僕たちは仲がいい。

 千奈に対して、嫉妬という感情を持ったことは無い。

 それどころか、この子は僕の自慢の妹だと自信をもって言える。


「さすがだよ。千奈みたいな完璧な妹を持つことができて、僕は嬉しいよ」


「ふふ。ありがとう。それじゃあ、お昼にしましょうか」


 最弱人間で、情けない兄である僕。

 千奈はそんな僕にいつでも優しくしてくれる。


 それだけではない。こうして美味しい料理も作ってくれるし、朝は欠かさず起こしにも来てくれる。


「千奈、どうして僕のために、そこまでしてくれるんだ? 僕が気持ち悪くないのか?」


「兄さんが、私の命の恩人だからよ」


 僕が痛みの感じない体質になってしまった原因は、事故だった。

 飲酒運転の車に轢かれそうになった千奈を、僕が庇ったのだ。


 それは、かなり酷い事故だったようで、生きているのが奇跡だったと聞く。

 その時、心が壊れてしまうほどの強烈な激痛に襲われた僕は、その痛みから心を守るために、この体質になってしまった可能性もあるらしい。一種の防衛手段だ。


 ちなみに『あいつ』が僕の中に宿ったのもこの時だ。これも逃避の一つなのだろうか。


「兄さん。それと、後で『お楽しみ』の時間もあるから、覚えておいて」


「…………う、うむ」


 千奈は僕の体質を治すために、色々と『治療方法』を模索してくれている。

 それが彼女の言う『お楽しみ』なのだが、これが中々に『過激』だったりする。


「ふふふ。今からワクワクしてきたわ」


「お、お手柔らかにね?」


 その内容については……今は伏せておこう。


 でも、もしその治療が上手くいって、まともな体質になれば、きっと僕にも友達が出来るに違いない。

 この体質を治すのが、今の僕の人生の目的である。


「兄さん。そろそろお昼ご飯ができるから、ゲームを切ってもらえるかしら」


「ああ、そうだね…………ん?」


 電源を切ろうとすると、プレイ時間に目が行った。

 プレイ時間はちょうど1000時間を超えたところだった。

 まあ、3年もやり続けたら、それくらいになるか。


 それでも、モンスターを一匹も倒していないのは、僕くらいのものだろう。別にいいけど。


「そういえば、兄さんはこのゲームに都市伝説があるのを知ってる?」


「都市伝説?」


「プレイ時間が1000時間を超えたら、ゲームの世界に行けるという噂があるのよ」


 ゲームの世界……か。


「それはいいね! 僕は現実では最弱人間だけど、ゲームの世界に行けば、ヒーローになれる気がする」


 現代の娯楽に通じている人なら、一度くらいは『異世界転生』というのを聞いた事があるのではないだろうか。


 よくあるのは、ゲームの世界へ転生して、そこでチート能力を手に入れて、ひたすら無双プレイをする内容だ。


 特に現実が最悪な人ほどその恩威を受けやすい。僕みたいなぼっち人間には、ピッタリであろう。


 そして、その世界でモテモテになって、美少女ハーレムを築くのである!

 そうさ、僕にも人並み(?)に、そういった夢はある!


「いや、兄さんはゲームの世界に行けたとしても、弱すぎるからヒーローにはなれないわ」


「い、異世界転生したら強くなるんだよ! チート能力を手に入れるの!」


「…………ふ」


 笑われた! くそ、馬鹿にしているな?


「まったく。それじゃあ、今度こそゲームを切るよ…………あれ?」


 僕はそこでコントローラーの操作が受け付けないことに気が付いた。


「なんだ? フリーズしたか?」


 さらに画面が点滅し始めた。くそ。完全にバグだな。


「ちょっと。なにこれ?」


 千奈が珍しく少し怯えた表情をしていた。無理もない。

 フラッシュが異常と言えるレベルで、どんどん強くなっていくからだ。


「くっ」


 目を開けていられないくらい画面の点滅がひどくなってくる。そして……


「うわああああ!」


「兄さん!」


 急に平衡感覚が失われた。さらに謎の浮遊感。

 その後、僕はまるでテレビ画面に吸い込まれるような不思議な感覚に襲われた。

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