第2話 妹は天才で最強の完璧美少女
「はい、準備ができたよ」
僕はゲームのコントローラーを千奈に渡した。
「さあ、始めましょう」
これから僕たちの楽しいゲームが始まる。
ゲーム名は『ダメージワールド』。アクションRPGである。
生産数が少なく、かなりマニアックなゲームだが、一部でカルト的な人気があり、僕のお気に入りでもある。
『ワールド』はともかく『ダメージ』という名前がついているRPGは、珍しいかもしれない。
だが、このゲームにおいて『ダメージ』とは重大な意味を持っているのだ。
なんとこのゲーム、『体力が減るほどステータスが上昇する』というシステムである。
つまり、敵から攻撃を食らって、ダメージを受けると、どんどんパワーアップしていくのだ。
死にかけるほど強くなれるし、ピンチはすなわちチャンスにもなる。体力の減り具合によって、強化の倍率が激しく上昇するシステムだ。
逆転要素の強いこのシステムは、実にロマンがある。それだけでなく、様々な戦略に使うことができて、ゲームの面白さを引き上げていく。
このシステムは、さるゲームのスキル名から『底力』と名付けられていた。他のゲームでは『火事場力』などのスキル名として使われることもあるようだ。
死にかけるほど強くなる。そう思えば、超かっこいい!
しかも、『底力』はモンスターに適応されない。プレイヤーだけが使える有利なシステムなのだ。
「よし、ゲームスタートだ」
僕の分身となるキャラクターが動き始めた。名前は『トオル』。本名である。
「トオルか。あまり自分の本名をキャラ名にしない方がいいと思うのだけど」
「そういう千奈だって、本名じゃないか」
「それもそうね」
千奈のキャラクターの名前も、本名の『センナ』である。
ちなみに勉強も運動もできない僕だが、ゲームの腕だけは人並み以上……かといえば、残念ながらそんなことはない。
僕は何をやってもうまくいかない。それはゲームにおいても例外ではなかった。
このダメージワールドを始めてすでに3年目になるが、腕の方はからっきしだ。
正直に言うと、超がつくほどのド下手である。
どれくらい下手なのかというと、モンスターを一匹も倒したことがない。おかげでレベルが初期のままである。
でも、ゲームは好きなので続けている。
最近になって見かねた千奈が、特訓という名目で対戦をしてくれるようになった。
このゲームはキャラクター同士で練習として模擬戦をすることも可能なのだ。
最近は毎日千奈と模擬戦ばかりしていて、まるで進んでいない。
しかし、このゲームの特徴として、RPGではあるが、アクション要素も非常に強い。
いや、むしろそちらがメインと言ってもいい。つまり、練習をして腕前を上げるのは大事なのだ。
「行くぞ! 千奈」
「兄さんの成長を見せてもらうわ」
模擬戦が始まった。僕も千奈もオーソドックスな剣士のキャラだ。共に初期レベルである。
「たああ!」
僕の自キャラであるトオルが、千奈の操るキャラに突進して剣を振り下ろす。
「攻撃が単調よ、兄さん」
しかし、千奈はあっさりと僕の攻撃を避けて、流れるような動きで反撃をする。
その一撃は見事に僕の喉を掻っ切った。クリティカルヒットだ。
開始一秒で我が分身であるトオルは、瀕死状態となった。対して千奈の体力は全く減っていない。
早くも勝敗は決してしまった。
そう思うのが普通のゲームなのだが、このゲームだけは違う!
「まだだ! 勝負はこれからだ!」
そう。勝負はこれからなのだ。『底力』の発動である!
傷ついて大きく体力が減った今の僕は、恐らくステータスが千奈の倍くらいまで跳ね上がっているはずだ。
これはもう、逆に有利と言っていい。
このまま一撃で勝負を決めれば逆転勝利だ。
僕の操作するトオルが、千奈の倍近いスピードで彼女の背後に回り込む。
「うおおおお! 終わりだぁぁ!」
勝機! 渾身の一撃を食らえ!
「うぎゃあああああああ!」
そうして、断末魔がゲーム内に響き渡った。
それは『僕』のキャラであるトオルから発せられたものであった。
「…………へ?」
僕の操作するトオルは、千奈の剣によって刺し貫かれていたのだ。
「単調……と言ったはずよ。兄さん」
なんと千奈は僕の動きを完全に先読みして、前を向いたまま後ろに剣を突き刺していたのだ。
結局、僕のパーフェクト負けであった。
「つ、強すぎませんか?」
僕は忘れていた。
千奈という人間は『天才』だったのだ。俗にいう完璧人間だ。
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