第1話 痛みを感じない中二病


 まずは僕が高校一年にもなって、友達が一人もいない事への言い訳を聞いてほしい。

 確かに僕は勉強も運動も最底辺のダメ人間だが、それでも悪いのは僕じゃない。

 僕の『体質』が悪いんだ。



 僕は『痛みを感じない』体質なのだ。



 例えばいつの間にか大怪我をして、体中が血だらけになっても、それに気付かず微笑んでいたら、もうそれは完全に変人だろう。

 そんな奴に友達ができるか?

 答えはノーだ。


 そしてもう一つ、決定的な理由は、僕の中にもう一人、『凶暴な人格』が眠っている事だ。

 ガサツで野蛮で頭が完全にイカレている『あいつ』は、強烈な『痛み』に反応して目覚める。


 僕は痛みを感じないのだが、その代わりと言わんばかりに『あいつ』は痛みを『喜び』として餌にするんだ。

 だから、例えば軽い痛みが走った時。具体的に言えば、いじめられて殴られたりした時に、僕は右手を抑えてこう言う。


『や、やめろ。僕の中の『あいつ』が目覚める!』


 すると、周りは僕の事を『中二病』と呼び始めた。

 あまりに気持ち悪かったらしく、関わりたくなかったのか、おかげでいじめはなくなったのだが、その代わりに大切なものも色々と失った気がした。


「はあ~」


 そんなわけで僕は一人、自室でため息をついていた。

 完全に変人扱いされるようになった僕は、きっとこの先も永遠に友達などできないのだろう。


 言っておくが、僕は嘘をついていない。

 『あいつ』は本当に僕の中で眠っている。

 『あいつ』が目覚めたら、どれほど悲惨な事になるのか、皆は分かっていないのだ。



「兄さん? ため息なんてついて、どうしたの?」



 そんな時、妹の千奈(せんな)が僕の顔を覗き込んできた。

 その中学生とは思えないほど大人びた美貌に、思わず戸惑ってしまう。

 同年代でこの子より整った顔立ちの子は、見た事が無い。


 まあ、強いて弱点を述べるとするならば、ほんの少しだけ……いや、かなり『目つき』が悪い部分か。


 目に光が無いというか、常に無表情なのだ。そのせいでいつも周りから機嫌が悪いと勘違いされている。


「兄さん、ずいぶんと落ち込んでいるみたいね」


「まあ、いろいろと考える事があって……」


「なら、忘れないで。私だけが兄さんの味方よ」


 だが一つ、確実な事実は、千奈は僕の事をとても良く思ってくれている事だ。


「落ち込んでいても、いいことなんて何もないわ。そんな時はスッキリするのが一番よ」


 そうして、千奈が妖艶な笑顔をこちらに向けてきた。


「兄さん。私と『気持ちいいこと』をしてスッキリしましょう」


 誘うようなその目。一瞬、ドキっとしてしまう。

 だが、僕はこのオチを最初から分かっていた。


「ゲームの事だよね?」


「そう、ゲームよ」

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