第79話 目覚めたら病院で、戦争中だった件
猫妖精、ウィンディーネを打ち倒したジンとエキドナは、最奥での戦闘場所に向かって走り始めていた。
戦っている三名の魔力や邪力には身に覚えがある。一名は今回のジンの主人であり、恋人でもある花唄未亜だ。次の一名はブーファス。ジンが拾ってきた義息子である。最後の一名は呪詛魂霊罪禍降臨システム。ジンが生み出したシステムである。
見事なまでにジンの密接的な関係である三名が争い合っている現状である。出会う場所が違えば仲良くなれたかもしれないのに、と考えてしまったのだが、呪詛魂霊罪禍降臨システムだけは無理だな、と認識を改める。
「エキドナ」
「はいはい、了解したよ」
そんな簡素な会話をした後、両者は自身の愛刀を亜空間倉庫から取り出していく。ガチャ、という音を立てながら鞘から抜き、同じ柄をし、同じく紫黒に輝いている刀、『死見堕礼』と『無形雷鼓』を持って大きく振るう。
同じ身から生まれた二人。その斬撃が交わり、敵である呪詛魂霊罪禍降臨システムとブーファスに襲い掛かる。
その双斬撃が二名に直撃をした瞬間、今回二度目の転移を発動する。
「親父とエキドナさんか……随分と早いな。最低でも何万年は掛かると踏んでいたんだがな?」
「スーパーウルトラ頑張ったからね」
「右に同じく」
迫ってくるブーファスの魔法をジンは斬撃で切り裂き、エキドナは攻撃を仕掛けるもう一名、呪詛魂霊罪禍降臨システムを投げ飛ばして、自身との距離を遠ざける。向い打っても良かったのだが、背後には片腕、片目が欠損し、横腹に穴が空いている重傷の未亜が居る為、避けるに避けれない。
そんな未亜を回復させる為、意識が朧げになっているであろう未亜の頭部に、ジンは手で触れる。撫で慣れた感触、未亜の隣に立ちたいから、という理由で気にかけた匂いが未亜の鼻をくすぐる。時が戻るかのように、未亜の傷は癒えて行く。
「じ、ジン……?な、何で」
「後で言うから。今は泣かないで。だから、立ってよ。アホやらかしてる俺の馬鹿義息子を止める為に」
「分かったよ、ジン。後でいっぱい泣かせてもらう。後でいっぱい無茶した事を叱らせてもらう。だから、今この瞬間は立つよ」
手と手で音を奏でる。一方的に追い詰められていた女王が、王と共に牙を添えて立ち上がる。風が世界を揺らし、二人の瞳が獰猛に輝く。
未亜とジンはブーファスを向き、エキドナは二人の背後を背負う。最初から全力全開で挑む為、素手で構える。虚空の一瞬、二人は地面を蹴り上げ、ブーファスに向かって走り抜ける。
キュッ、と走りながらジンの腕は掴まれた。少し驚く感情が内心に生まれたが、すぐさま消えた。未亜に完全に身を任せた体を、吹き飛ばされる。その方法なのか、と納得をし、ギアを全開にした事で得た力を拳に集中させる。
飛ばされた勢いのまま、隣を通り過ぎる。拳で頬に打撃を与えながら。
「……!次は受けれねえなあ!」
「それを俺がさせるとでも?俺はお前を知ってる。この世の誰よりも。それは、お前よりもな」
ジンが使用した術は糸で拘束する事。開発した魔法、『秘めたる未知』との混合魔法である『
固有魔法と同じ格である『秘めたる未知』であったとしても、混合したての『阿胡羅』では練度が足りない。だからか、拘束可能な時間は甘く見積もって一秒。けれど、問題は存在していない。人間にとって一秒は正に一瞬。ジン達のような並外れた実力を持っている者からすれば、無限の一瞬。そしてそれは未亜も同じ事。
『
「意味は無く、意義は無く、価値も無い。我等が歩んできた、歩み続けてきた歴史は虚無。誰もがソレを認める事など無く、あるのは根もない否定。けれど、止まらない。止まる訳にはいかない。苦しみ、嘆き、弱言を吐いたとしても、それが道なのだから」
『
『番外章:
未亜が唱えた詠唱、発動しようとしているのは正規な固有魔法では無い。ジンが生み出したのは第五章まで。そして今未亜が単体で可能なのが第三章まで。ジンかエキドナの力を借りれれば第四章が可能なのだが、一人では可能な可能性が低い。
ならば、と生み出したのが『因果絶望戦争血潮歴史譚』の『番外章: 粉塵打破希望乃剣』だ。難易度で言えば第三章と同じになるが、威力で言えば第四章と同レベルかそれ以上である。まあ、ジンやエキドナは使う気が起きないが。…いや、正確には使えないの方が正しいだろう。
幼児の頃からジンを宿しており、どの主人よりもジンに寄り添おうとした未亜だから可能な固有魔法。ジンが真の意味で主人とも、相棒とも違う。隣で歩く事を選ばれた未亜だからこその固有魔法。
「やっちゃえよ、未亜!」
「そうだよ、思いっきり!頑張れ、未亜ちゃん」
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