第80話 ここが終幕
「いっっっっけぇぇぇぇ!!」
未亜の一撃が放たれる。強烈な威力と同時に、それは証明していた。ジンと歩んできた絆の数々を。それにブーファスは認めるしかない。目の前の少女、花唄未亜は間違いなく英雄の資質であると。
その現象に感じるのは認めるモノだけじゃない。自分にはたどり着けなかった境地、自身が夢にまで見た英雄の姿、過去の自分の中心だったジン。その三つが同時に重なり、ブーファスの心に嫉妬という心を生む。
「妬いちゃうじゃねえかよ。ほんと、悔しいねえ」
「ブーファス…」
「まるで親父みたいなヤツだよ。花唄未亜。その善性が、親父を惹きつけたのか?それとも、親父が選んだだけか?だから、知らねえだろうが。憧れに全く届かないこの苦痛が!」
ブーファスは吐く。父親であるジンにも、側近である猫妖精にも吐いてこなかった確かな本音を。その言葉で、想像ができる。生きた年が短い未亜であるが、理想と現実の差に苦しんできた事が。
ジンに聞いた民衆の内容も付け加えれば、あまりに辛く、闇深い人生である事も想像できる。だからと言って、理想と現実の差に苦しんで来なかったと言われるのは癪である。
「ブーファス。貴方が歩んできた道、歩んできた苦痛は相当辛いものだったんだろうね。でも、私はそれが分からない」
「なら、口を…!」
「分からない?私が貴方をわからないように、貴方も私を分からない。つまりね」
__知ったような口で語らないでもらえるかな?イラっとくるからさ
その言葉と共に、周囲の風は舞う。その発生した原因はブーファス。ブーファスの言葉が未亜の怒りに触れ、怒りから発した言葉が自然を怖がらせる。その影響は全世界に渡っていた。
「直せっつったろ。その思い込みの癖」
「親父…!」
「俺と未亜が同じ、ねぇ…。俺的には未亜の方が幾分か明るく見えるが?例え同じに見えようとも、他と同一なんて事はありえない。超越なら知っとけって、前に言ったよな」
怒っているのは断じて未亜だけではない。その伴侶であるジンだって怒っている。それに昔の言葉を乗せつつ、抱く。心の中で、いつの間にか曲がってしまったブーファスに寂しさを。それを自分の知らない範囲でさせた自身の嫌悪を。
だから、決意をする。馬鹿の義息子をぶっ倒して憑き物を晴らしてやると。
「未亜、ちょっと付き合ってくれ」
「良いよ。ジンの為なら、どこまでも」
二人は静かに構える。それは無音であり、その姿は世界に認知されていないと思わせる程に。
そんな時間は、一秒と持たなかった。だが、ブーファスの意表を突くには充分であった。
二人は走る。同じタイミングで、同じ速度で。それから始まり、それに続くコンビネーションは、ブーファスの隙をこれでもかと狩る。確かな牙を持って、血が垂れながら。
「親父…、花唄未亜…」
圧倒的なコンビネーション。それにブーファスは見入っていた。運命と運命が合致したような息が合った完璧なコンビネーション。
それに美しく感じるのと同時に、深い絶望も感じていた。ブーファスにとって、一生届かない領域なのだから。そうでなくても、捨てた領域である。
その考えが巡り、過去に輝かしい光が舞う。だが、後悔はしない。超越は人を不幸にし、滅ぶべき存在。その思想に嘘はなく、今更撤回する気もない。ジンが共存の道を選んだように、ブーファスは人間の可能性に賭けた。
それに覚悟を決めたと思っていたが、まだだったようである。
今、ブーファスの覚悟は誓われた。滅んでも目的の為に突き進む覚悟を。
「俺は、何をやっているんだか。俺の役目は、親父に固執する事じゃねえ。超越を消し去る事だ。この世から、全て!」
ブーファスの言葉に、ジンは覚悟を強める。家族をこの手で殺める覚悟を。
「その為に、まずは親父だ!アンタを、勇気を殺す!」
「それは私がさせない!」
「あぁ、分かってる。だから、花唄未亜、お前も一緒に潰す!」
真の覚悟を決めた超越は強い。それを成せれば、超越は一つ上の段階に登る事ができる。その現象はジンの頭に入っていた。故に、ジンは普段から警戒をする。
だが、今この時は入っていなかった。…否、頭に入っていたが、想定はしていなかった。ブーファスがまだ登っていない事など。
「強いな…!一手を確実に、素早く消すのは俺の真似をしてくれてるのか!」
「そりゃそうだ。アンタは、俺の師だからな。真似くらいする!」
未亜とジン。最強格の二人が揃って、ようやく互角なブーファス。
出来上がっている超越が一段階上に登る。その現象は随分と非情らしい。
だが、攻略できない事はない。二人のアドバンテージはコンビネーションだけじゃない。対応を遅らせれる事。
「意味は無く、意義は無く、価値も無い。我等が歩んできた、歩み続けてきた歴史は虚無」
未亜が番外章の詠唱を唱えていれば、ブーファスの体は自然と反応をする。威力を身を持って知っているから。
それに、ジンは賭けた。ブーファスなら、この選択をするだろうと。
「親父っ!?」
「言ったろ。俺はお前を知っている。この世の誰よりも。そして、お前よりも」
ジンは体を使ってブーファスを捕まえる。逃がさない為に。例え、自身の肉体が大打撃を喰らったとしても。
「誰もがソレを認める事など無く、あるのは根もない否定。けれど、止まらない。止まる訳にはいかない。苦しみ、嘆き、弱言を吐いたとしても、それが道なのだから」
『
『番外章:
技が、体を焼く。捕まえているジンの体にも、捕まえられているブーファスの体にも。
超越の体すら焦がす超絶の威力が。それに二人の超越は弱音を吐き、倒れそうになるが、耐えて、飲み込む。
一人は目的の為に。
一人は破滅の道を歩もうとする家族を止める為。
根性の果てに、一人は耐え抜いた。
「こ、これで……!」
二度目の超絶威力な魔法を、ブーファスは耐えたのだ。
「残念だ。俺もまだ、立ってる」
そして、もう一人も立っていた。止めるために。
『天地人魔竜愛福音』
『第零章:幸福乃祝音』
「ジン、大丈夫?」
「あぁ、問題ない。結構体力削られたけど、瀕死とかの話じゃないからな」
それでも中々にボロボロな事には変わりないが、ジンの意識はブーファスに向いていた。
「ブーファス、ごめん」
「何の話をしてんだよ。バカ親父が。俺たちは考えが違った。だから、これは当然の結果だ」
そうではない。ジンが言いたい事は、そうではないのだ。ジンが言いたいのは、罪の話である。ジンが疎かにしたから、ブーファスは堕ちた。
「そういう話じゃねえんだよ。アンタがどんな選択をしようとも、俺はああなってた。アンタのせいじゃない」
心を読んでか、ブーファスを先に答える。呆れるような声質。それは過去に何度も聞いていたもの。それが戻ってくる事。どんなに願ったか、覚えていない。
「いつかは死ぬと思っていたが、ここか。俺は夢半端で倒れる。まあ、親父の腕の中で死ねるんだ。悪くはないな」
「花唄、未亜…。すまなかったな。俺の意思がコレをした。謝礼だ、受け取っておいてくれ」
荒れた世界は蘇り、死体となっていた人々は生を取り戻す。
「親父……最後の最後まで、迷惑、かけて、ごめん」
光の粒子となり、完全に死したブーファス。それに、静かにジンは涙を流していた。
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