第73話 竜王帝(炎)VS八咫烏&ユニコーン

ジンが半分発言した後、空気を蹴り飛ばして鴉の懐に移動をする。『無王龍』によって炎皇竜に変化したジンの身体能力は先程と比べれば大幅に上がっており、速さも桁違いになっている。


ジンが握った拳には、赤い鱗と炎が纏っており、強烈なダメージが鴉に渡るのは想像に難く無い。


鴉の腹に打撃が渡った時、鴉はその攻撃の速さと威力に碌な反応ができず、鴉の体は吹き飛んでいく。その吹き飛びの強さは、ビルを幾つ貫通させても勢いが止まる事はない。


しかしただ吹き飛ばされるだけの鴉では無い。鴉は自身の羽毛を展開し、魔力、妖力などの力を込めて放射する。


ジンはその放射攻撃に堪えることなど無く、ただ冷静に技を発動する。この羽毛攻撃だけに集中した炎の技を。


緋炎乖プロミネンス


「あ、やべ」


ジンとしては、羽毛を消す目的で技を発動させたのだが、目の前のビルが数個消し飛んだ。何十、何百の人間が死んでしまったのかもしれない。しかしジンにとってはそんな事実、心に影響を与えない。むしろ鳥からの糞を落とされる方が心的には大ダメージである。


ジンが少しやらかしたかなあ、と思いながら、鴉を見つける為に視線を回していると、鴉は地上に降りており、駅の中に入っている所だった。ジンが撃てないと考えたからだろう。


ジンは勝利の為ならば犠牲も仕方ないと考えるタイプであるが、必要以上に犠牲は出さない。必要以上に犠牲を出すのであれば、それは害だ。


ジンはそう考えながら、炎皇竜の翼で高速移動を開始する。




ジンは駅に入った途端、翼による飛行の減速をした。あの速さでこの狭い駅を動き回ったとしても、ただ動きづらいだけであるからだ。


ジンは鴉が何処にいるのか、そう思って顔を上げた途端、顔が驚きに染まった。駅に存在している人が異形に変えられていたからだ。人語を喋っていない辺り、理性は欠片も残っていないのだろう。


その異形の姿とは、元々あった顔の位置には、鳥の嘴が何十も広がっており、上半身は人の腕が山ほど生えている。足には鳥の脚が気色悪いくらいに広がっていた。ジンは直ぐに勘づいた。人間がこの異形の姿に変化した理由としては、鴉が変化させたのだ、という事に。


だから彼奴の事があんまり好きじゃ無いんだよな、ジンはそんな事を考えながら異形に変化した人間の隣を通り、破裂させる。異形に変化したからなのか、黒色の血がジンに付着するが、ジンはそんな事気にせずに他の異形に向かっていく。


異形を破裂させる度に血が付着する。




「521体、割とキツかったな」


ジンはそう言いながら最後の異形を倒した時に千切った首を投げ捨てながら口にする。521、それはジンが殺した異形の数である。


「相も変わらず、君は化け物だな。アカ」


目の前に黒鳥の翼を広げて大変だと思ったんだけどなあ、と溢す鴉が其処には居た。鴉から見れば楽勝そうに見えたのかもしれないが、ジン本人からしてみれば大変そのものだった。いや、面倒くさい、というのが正しい言葉だろうか。急所が別々にあるので、それを的確に潰すのに時間がかかった。急所が全体の硬さならば、時間はあまり掛からなかった。しかし急所という存在がある事で、面倒くさくなり、時間が特段に掛かったのだ。


ジンは鴉を睨みつける。人を異形に変化させたから……では無い。昔から見てきたのだ、そんなつまらない事で怒るジンでは無い。ならば何故睨みつけているのだろうか。それはジンが殲滅をしている間、鴉は何をしていたのか、と言う疑問からだった。


ジンからしてみれば、あの程度の戦闘は消耗の範囲内にすら入らない。だからそんな疑問がジンの頭を駆け巡ったのだが……その疑問はすぐに解消された。


ジンが吹き飛ばされ、壁に衝突した事で。


「【夢幻の皇帝】ユニコーン!」

「ゲハハ!おいおい、俺の事は馬王帝って呼べよな!」

「断る!」


ジンはユニコーンの言葉を否定した後、手繰られたお返しと言わんばかりに、拳を握り、愚直なまでの一直線に殴る。しかしユニコーンは鴉と同じように吹き飛びはしない。ユニコーンは片手で防御をし、防御をしなかった方の手でジンの服を掴み、投げ飛ばす。


ジンは吹き飛びながら一回転をし、駅の柱に足をついた後、力を込めてユニコーンの方向に突っ込む。ユニコーンはジンのその行動に対して、純白な尖った角を降臨させた後、向かわせる。ジンはその角に対して、角に乗り移りながら避けていく。


そしてジンはある程度ユニコーンに近づいた後、一気に力を込めて前進をする。そして蹴りを喰らわせようと目論み、脚を出すのだが、ユニコーンの腕で防御をされる。


「コッチも無視しないでくれるかな!」


真横から鴉の声が聞こえるので、その方向を向くと、鴉がジンを蹴る一歩前の状況が目に入ってきた。ジンはユニコーンを蹴っている無防備な状態、そんな状態でジンが防げるかと言われれば、ノーだろう。


ジンは鴉に思いっきり蹴られ、壁に対して大きな音を鳴らし、衝突感を感じながらぶつかる。思っていたよりも大きな攻撃だったのか、頭から血が流れ出る。


久しぶりに血が流れ出る感覚に、ジンは高揚感を覚える。心象世界で未亜と戦った時とは違う、確かなる痛み、確かなる危機。その事実がジンの闘志を、興奮を沸き立てる。


ジンの力のボルテージが急上昇をし始める。


原初の時代に降臨していた最強の力に近くなっていく。


「マジか……!上のステージに到達する昇華しやがった!?良いねえ、俺はこういうのに最高に燃えるタイプだぜ。ああ!ああ!最高に燃えようじゃないか!」


ユニコーンは心底嬉しそうに叫ぶ。その気持ちは鴉も同じ事。鴉はジンに対して戦闘狂だと罵っていたが、それは鴉も同じだ。むしろ、ジンが半分である分鴉の方が酷いであろう。


鴉の瞳はギラギラとした視線で溢れ、戦闘意欲を示している妖力は膨大だ。それはユニコーンも、ジンも同じ。膨大な力の圧のぶつかり合いで、あたり一帯が揺れているような、そんな錯覚に襲われる。


「第二ラウンドだ」

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