第72話 небытие幹部VS竜王帝
2326年・1/16・4:45
山上市にて史上最高の激戦が刻まれる。
「なんの用件だ」
ジンは目の前に居る少年に顔を歪めながらそう問う。
黒い髪をしており、鴉のような羽を広げている少年はジンの言葉にニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「【知謀なる黒鳥】八咫烏」
「おいおい、フルネームで呼ぶなよ。仲間なんだから鴉で良いんだぜ?」
「今は敵だろ」
ジンは歪めた顔を治めながらそう言った。ジンの言葉に鴉は笑みを深めた後、ジンに突っ込み、一撃をお見舞いしようとする。
「いきなりかよ……!」
「攻撃するのに態々言うとでも?」
ジンは鴉の拳による打撃攻撃に対して、左手で防御を取り、鴉の腹に蹴りを喰らわせる事で遠ざける。
鴉はその程度の攻撃ではものともしないらしく、手を地面に引っ掛けた後、縮地を使用する。ジンは背後に気配を感じ取り、『無王竜』に内包されている能力、障壁竜の効果を利用し、竜力で完成した障壁を展開する。
しかしその障壁が鴉の攻撃に当たる事は無かった。鴉は既にジンの右に移動しており、回し蹴りを喰らわせようとしていた。しかしそれに反応できないジンでは無い。ジンは魔力、邪力、竜力を腕に集中させ、防御をする。
しかしそれでも、ジンが受けた攻撃は、強烈そのものだった。
(咄嗟とは言え、集中させる事が可能な力全てをやってこれか)
鴉もジンも力は完全では無い。そして幸と言うべきか不幸と言うべきか、両方の実力は同じだ。しかしならば何故ジンが一方的にダメージを受けているのか、それは準備の差にあるだろう。奇襲を計画に入れている鴉と、いきなりの奇襲にあったジン。その二人に格差があるのは当たり前と言っても良い。
しかしジンは怯まない。勝てる可能性が少しでも、ほんの少しでもあるのなら、戦い続ける。いや、ジンは例え可能性がゼロだったとしても、戦い続けるであろう。
「
ジンは手を振り、鴉に斬撃が襲う。しかしその斬撃が鴉に当たる事は無い。鴉は自身の黒羽を散らし、斬撃を防ぐ為の防御壁へと変化させる。
数秒後、鴉はこの攻防を無くし、切り替えようとしたのか、鴉は右手を前に翳す。そうすると、先刻までジンの斬撃とぶつかり合っていた鴉の羽が爆発をし始める。幾ら自身の体毛だったとしても、此処まで離れた位置からの爆発は相当親和性が高く無いと成り得ない。
ジンは理解をする。準備で自身の翼に魔力などの力を流し込んでいたのだと。
「何度も殴られるだけに済ますかよ!」
ジンは爆発によって生じた煙に向かって拳を振るうと、拳が届く先には同じくして拳を振るっていた鴉が居た。拳と拳、それがぶつかり合う時、暴風が生じ、爆発から発生した煙が吹き飛ぶ。
鴉は煙の中から来る事が当てられた事に驚きながらも、次の攻撃に移行する為に一度拳を離す。
鴉が離れた途端、ジンは鴉に近づく。拳を握り、特段の竜力を込める。
(俺は竜だ。幾ら負けようとも、最後に勝つという信念を持った幻獣。力を込めろ、心の底から限界を引き出せ。いや、限界以上のパワーを!)
ジンが鴉の腹に当てた拳は、特段の竜力を込めた事もあってか、鴉は大きく吹き飛ぶ。
鴉はその吹き飛びを不味いと思い、立て直そうとするのだが、限界以上のパワーを引き出した事で壁を乗り越えたジンにとっては、遅いしか言いようが無い。
ジンは魔力、邪力、竜力などの力を脚に込め、移動をする。周囲に被害が出ない縮退とは違い、ジンが行ったのは周囲に被害が出るタイプのものなので、周囲に被害が大きく出る。
ジンは鴉の吹き飛んでいる背後に移動した後、鴉の右腕を掴み、大きく上に吹き飛ばす。鴉は空を飛べる。初代鳥王帝である八咫烏ならば、他の鳥系の超越達よりも上手く、自由に空を駆け回る事ができる。それはジンは把握済みである。一時期共に戦ってきた仲間であるのだから。
『
ジンは空にいる鴉の近くへと移動し、手をピストルの形にして魔法式を展開する。ジンの属性性質から見れば、この魔法は苦手中の苦手と言っても良い。事実として、ジンはこの系統の魔法は苦手だ。得意な魔法の属性である闇、邪悪とは真反対だからだ。しかしできないと言う事では無い。
(この魔法、鴉に撃つにしては威力が無さ過ぎる。そして何より、この魔法は殺傷力、攻撃力が他のと比べると格段に少ない。だけど……今はそれで良い!)
ジンが魔法を発動させると、魔法式を展開している人差し指を中心に光が溢れ、視界が全面白に染まる。ジンはこの景色あまり好きじゃ無いんだよな、と考えていると、衝突音が聞こえた。
ジンが放った魔法の効果だ。あの魔法は光、純魔法の属性にしては攻撃力が低い。しかしその分、衝撃能力が異常なまでに高いのだ。それは得意では無いジンが行使しても同じ事。
「炎」
ジンはそうボソッと呟くと、何も無い空間から魔法が出現した。ジンは言霊を短略化したとは言え、言霊は言霊。普段魔法を発動する時よりも威力が高いのは間違いない。その証拠として、ジンが発生させた魔法の炎は轟轟と燃え盛っていた。
ジンが出現させた炎を身体に纏わせる。そうすると、ジンは熱い塊に包まれる。まるで小さな太陽なような、そんな存在へと昇華する。
炎の塊から出てきたジンは、炎に包まれた鱗を纏っており、翼と角からは赤黒く染まっている。
「もっと楽しもうぜ、八咫烏」
この姿に変身した事で、燃え盛る闘志を宿したジンはそんな事を口にすると、鴉は舌打ちをし、不機嫌さを露わにした。
「この戦闘狂が!」
「違えよ、半分だ」
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