第74話 竜王帝(炎)VS八咫烏&ユニコーン2

ジンはそんな事を呟いた後、ユニコーンの方向に向かう。


ジンの打撃攻撃の初手は避けられた。しかしこれもジンが予想していた事。昔共に戦った戦友の身体能力を信じての事。空撃ちした右拳の攻撃。それを裏拳に利用し、ユニコーンの頬を撃つ。『無王竜』の衝撃竜を用いて当てた裏拳。


例え身体装甲が硬いユニコーンだとしても、意味はない。この衝撃竜の効果は、衝撃をダメージ関係なく強制的に付与するというものであるからだ。


ユニコーンが衝撃竜で吹き飛ばされた後、ジンに続いて闘志の牙を見せたのは鴉だった。


鴉は基本的に戦闘が得意では無い。肉弾戦も、刀術も剣術も槍術も。鴉にとっては苦手以外何者でも無い。しかし一つだけ、一つだけ得意なのが武術がある。


「『偏愛クリファ・レーミルトン』」


鴉は亜空間倉庫からスカイブルーの棒を取り出す。その棒はジンにとって見覚えがあり、心当たりがある。鴉の愛棒であり、愛武器であり、ジンが鴉の為にと造った武器であるのだから。


その棒で幾つもの命を葬ってきた。血を数えきれない程に被ってきた。だからこう言われるのだ。【知謀なる黒鳥】とかけて。


【血暴なる黒鳥】と。


ジンは鴉が棒を取り出した事に冷や汗をかく。鴉の棒術がどんなに異常なのか、知っているからだ。『偏愛』を所持しており、武器として使っている時の鴉がどんなに強いか、知っているからだ。


瞬間、鴉が動き出す。一閃、愚直なまでに真っ直ぐな攻撃だった。ジンは両腕をクロスして防御をするのだが、ダメージを抑えられていない。



「どう?効くか!」


鴉はニヤッとした笑みを浮かべながら、ジンの腕に当てている棒を離し、今度はジンの顔に向かって突きをする。ジンは危機を感じ、咄嗟に顔を横に動かす。そのお陰で顔に直撃する事は防げたが、ジンの片耳は欠損してしまった。


ジンは耳が欠損した痛みに怯む事無く、クロスしている両腕を解き、鴉の頭を掴んだ後、その掴んでいる手で魔法を発動する。


暴撃の太陽ボルゲルド


その魔法をもろに受けた鴉は、頭部どころか上半身全てが無くなっていた。しかし分かっている、この程度で鴉が死ぬわけが無いと。


ジンがそんな事を考えながら鴉を睨みつけていると、鴉の上半身からニョキニョキと新しい上半身が生えてきた。


「相変わらず早えな、再生」

「そりゃどうも。流石にヒドラには劣っちゃうけどね。それよりさ、良いの?後ろ」


鴉がそんな事を口にすると、突如背後から打撃が襲ってきた。ジンが感じた感触から、蹴りなのだろう。この蹴りを喰らわせてきた者の検討はついてある。この場で、ジンを蹴る者なんて一人しかいない。


「ゲハハ!俺も混ぜろよな!」


ユニコーンの攻撃に立ち直る。そしてジンはその言葉に応えるように、ユニコーンに対して攻撃をする。


毒蘭アルメンド


ジンは片手を翳し、様々な力を込めて撃ち放つ。今可能な出力を全て注ぎ込んだ能力。


その魔法が放たれる。紫色の光線が、毒が頂点の一種。初代馬王帝であるユニコーンに牙を剥き、噛み付く。


毒の能力を撃ち終わった後、毒煙が辺りを舞う。ジンが発生させた毒なのだが、ジンとしてはこのまま広がらせる訳にはいかないので毒煙を吸収する。そうすると、毒の能力を喰らったユニコーンが居た。片腕を欠損しているユニコーンが居た。


「おい!ユニコーン、治せないのか!?」

「治せない。あの撃ったやつの効果だろうな。毒か何かが侵食して再生する邪魔になっている」


鴉とユニコーンはそんな事を話している。英雄だった時のユニコーンと鴉とでは考えられない程の隙。そんな隙を見逃す筈が無い。


鴉はユニコーンに集中していたからなのか、ジンの蹴りをもろに受けた。続いてユニコーンにも攻撃を喰らわせようと思ったのだが、それは欠損していない片腕で止められる。


欠損したままで毒が全身に回っている。そんな状況、動きにくい筈だ。それなのにも関わらず、ユニコーンは動いて防御をした。辛さ以上に戦闘での楽しさが体を動かしたのだろう。


「はっ!?」

「おいおい、確かに俺は治せないと言ったぜ?だけど治さないとは言ってないだろ!」


ジンはそのユニコーンの言葉に心底理解ができなかった。


ジンはユニコーンの言葉が理解できなくとも、ジンの脳内は理解が及ぶように思考し続ける。しかしその答えはいつになっても答えはやってこない。


ジンは固まっている。その言葉が自身の理解に追いついていないから。その隙を見逃すユニコーンでは無い。


ユニコーンは再生した手でジンの腹に手を当てる。


ユニコーンの再生した手を中心に、小規模な爆発が生じる。いや、正確には小規模に収束させた爆発、と言った方が正しいのだろう。


ジンはその爆発で腹の中身、胃が消し飛んでいく。ジンが竜などの人外だと言っても、流石に竜も生物。臓器が無くては相当に不味いだろう。ジンがただ竜だったのであれば、になるが。


ジンは竜であるが、概念でもある。概念と竜が半分半分、5:5ならば少し辛いかもしれない。しかしジンは9:1と言っても良いくらいには概念に偏っている。


(こんな事、余裕中の余裕だ)


ジンは心の中でそんな事を考える。そして再生をしながらユニコーンの顔に力を込める。


「ようやく身体が暖かくなってきたな!」


魔力、竜力、邪力、そんな様々な力の他にもう一つ。ジンの権能である勇気を込めて殴られたユニコーンはダメージを大きく喰らっていた。


「権能開放」


『概念システム。権能開放システム起動。望みの権能をどうぞ』


「天の勇気」


『天の勇気。了承、権能開放天の勇気』


ジンが概念システムとの交信が終わると、ジンの体には黄金のオーラが纏っていた。身体能力、出力が格段に上昇している事を実感する。


「これで終わらせてやるよ」

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