第70話 鬼と竜

「いやあ、ごめんな。ついついやり過ぎちまった」

「いえ、そんな……俺としてはこの位でちょうど良かったですよ」


未亜からお仕置きの拳骨を喰らい、たんこぶが出来たジンが謝ると、陽太はあわあわしながら自分は大丈夫だから、ジンは気にしなくて良いという意味を持った言葉を口にする。


「それで、どうでしたかね。俺達の強さは」

「もし俺が敵だったら、厄介、その言葉に尽きる。もちろん強かった、だけどそれ以上に厄介だ」


陽太、紫苑はジンの厄介、という言葉に理解があまり出来ず、首を傾げる。


陽太、紫苑はそんな事を言われた事が無いのかもしれないが、ジンからしたら厄介しか言葉が出ない。紫苑の圧倒的魔力センスによる『怪籙狗死』の援護、『死ノ番人ノ大鎌』の鎌術。特異能力であるミナの生命、それによって自他の回復が可能な点。


陽太の特典である災害、ジンが見たのは炎、火災しか無かったが、他にも様々な災害があるので、色々な攻撃に対応出来るだろう。特典による厄介さは対応力だけでは無く、膨大な出力もあるだろう。そして何より厄介なのは、特異能力であるルアの力、欲望だろう。


欲望とは自由な形をしている。


つまり欲望の力とは変幻自在なのだ。


「まだまだ成長途中だとは思うけどな」

「そうなんですか?」

「紫苑は特典である番人、特異能力である死、生の力。陽太は特典の災害、特異能力の欲望。能力とかだったら其処ら辺だ。陽太の肉弾戦のセンス、紫苑の魔力センスは目を見張るものがあるけどな」


多分お前らは強くなるよ、今よりも更に。ジンは二人の足りない事を言った後、頑張れと応援の言葉を贈る。


そしてジンは考える、先程挙げた点はこれから努力をすれば何とかなる点だからだ。しかしどんなアドバイスをしたとしても、すぐに到達出来るようになるだろうから。


「一つ、アドバイスをするとさ、お前ら固定概念に縛られ過ぎなんだよ」


アドバイスとなっていて、前からジン自身が気になっていた事。それは二人の固定概念になってくる。もっと工夫をすればより良くなるのに、くだらない固定概念に縛られてしまい、本来陽太や紫苑が出せるであろう全力を出せなくなっているのだ。


その点に関しては優香も花音も同じと言えるだろう。


「紫苑、お前は番人の特典をなんだと思っている。番人とは守るものか?見張りをするものか?」

「へ?それは……分かりません」

「そうショボンとするな、責めてる訳では無い。ただ、特典というのは本来自由なんだ」


そういう種類の系統ならば全て出来るしな、とジンは追加の言葉として発する。昔の時代は固定概念で特典の自由を縛る、などそんな事はなかったのだが、今の時代の人間はこんな事しか出来ない、と己を縛り付けているのだ。


紫苑で例えるならば、番人は守るもの、見張るもの、などの守護関係、監視関係の能力しか使えていない。本当はもっと様々な能力があるのにも関わらず、だ。


「今俺が思いつく中でも、牢獄、統括管理、伝達思考、法典創造、条件結界、事象収束、高確率未来予測、地脈操作、神秘管理、影闇支配。まだまだあるぞ」

「そんなの、できるんですか……?」

「特典ってのは己の考え方で大きく変わる。だけど出来ると思わないと、その変化は起きない。陽太、それはお前にも言えるからな」


自身の実力把握は戦闘に身を置く者にとっては必須、しかしできると思う事、それもまた必須である。


出来ると思わなくては、今其処からの進歩は見込めない。否、むしろ退化する可能性の方が高いだろう。


「別に戦闘に身を置かないのならば、それは大して必須じゃない。だけど、覚えておけよ。戦闘に身を置いているのならば、それは必須だ」


ジンはアドバイスできる事を言い終わった後、ふうと息を吐く。


「俺がアドバイスできる事なんてそんくらいだ。他は魔力の循環とか、出力を上げる方法とか、技術とか、其処らへんになってくる」




「どう?あの子達の事、気に入ってくれた?」

「まあ、そうだな。やっぱり直で見るのと心象世界から見るのとでは全然違うな。あんまり魅力を感じない、と言った過去の俺をぶん殴りたいくらいだぜ」


ジンは軽そうにそんな事を言うのだが、内心は陽太と紫苑の事を重く考えていた。


(陽太と紫苑のあの強さ……異常過ぎる。確かに陽太と紫苑の特典、特異能力は強力だ。しかしだからと言っても強過ぎる。数百年生きているから?もしそうなっていたら今この世界は強者で溢れかえっている。転生をしているから?いや、あの二人の魂を見るに最初の世界は戦闘の世界じゃなかったみたいだ。この世界よりも遥かに戦闘の臭いが少なかった。ならば特異点の仕業か?いや、あの二人の波長と特異点の波長が合って無さ過ぎる)


ジンは頭を回転させ、考えを巡らすのだが、答えは一向にやってこない。原初の英雄と呼ばれたジンだとしても、あの二人の詳細な情報は一切やってこない。


(最後の考えられる可能性としては、並行世界なんだが……。厄介過ぎる。そもそもどうしてこの世界に並行世界が関わり出したんだ。原初の時代から今まで、今まで関与してこなかったじゃないか)

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