第68話 無垢であり、欲望でもある鬼帝

「頼み事?未亜が俺にって、結構珍しいね」

「確かに珍しいかもね。普段はお願いとか、あんまりしないし」


ジンと未亜は探索者協会山上支部から出た後、そんな会話をしながら何処かに向かっている。ジンとしては家に帰るつもりだったのだが、未亜から寄りたい場所があるから、と言われ、家に帰らずに未亜と共に向かっている。


「ゲームとか、そんなんじゃないだろ?」

「まあそうだね。私はそんなのでジンにお願いをしない。してもしなくても、ジンはそれを聞いてくれるでしょ?」


ジンは未亜のその言葉を聞き、宿主で恋人の頼みなのだから当たり前だ、と心の中で頷く。


だとしたらどうして俺にお願いをしたのだろうか、そんな疑問がジンの頭の中を駆け巡る。そして考えて数秒後、ある答えに辿り着いた。


「会って欲しい奴が居るのか?」

「そうだね、会って欲しい人が居る。だけどジンは見てるんだよ?私からだけどね。それにジンは多分だけど、気にいるよ」


その未亜の言葉にジンは頭の中に広がっている記憶を探っていると、未亜が気に入ってそうで、ジンが気に入りそう。


僅かなキーワード、しかしそれは正確な人物を当てはめる為には十分だった。


「域外陽太、色白紫苑、か」

「おっ、分かってるねー。あの子達は強いから」


それはジンにも分かってはいる。陽太、紫苑、あの二人は途轍もなく強い。転生しているのは分かっている、転生前でも数百年生きている事も。


そしてその年数を何となく生きている、それだけでは絶対に得られない強さを持っている事も。努力出来る才能も、力を使える才能も存在している事も。


「俺はあの子達にあんまり魅力を感じないんだよね。なんていうか、自身の特典とか、特異能力をうまく使用できていない感じ」


ジンはあの二人に対して思っていた事を未亜に言い放つと、未亜はその言葉に苦笑いを浮かべる。そしてそれを浮かべながら「会ってみたら分かるよ」と自信満々に言葉を発する。ジンは未亜の言葉を懐疑的になりながらも、未亜が言うから、と一度は信じる。


「あ、此処だよ。此処」


未亜は大きな家を見つめた後、そんな事を口にし、インターホンを鳴らす。







「よろしくお願いします!ジンさん」

「私もお願いします、ジンさん」


陽太、紫苑の家にある特訓場に、戦闘服である黒衣と狐の仮面を被ったジン。そして同じくして戦闘服に着替えた紫苑、陽太が居た。


先程の礼は、戦闘をよろしくお願いします、という事だ。何故こんな事になったのかは、ジンの提案から始まった。


これは自身が魅力を感じない者を鍛えたくない、というジンのプライドから来ているものだ。


「好きな方から来て良いぞ」


ジンはその言葉と共に、人差し指と中指を内側に押し込み、挑発をする。それに陽太、紫苑は一気に冷や汗を流す。


「それじゃあ俺から」


陽太は自身の亜空間倉庫から自身の愛刀、滅刀『宙』の柄を持つ。


『欲妖武闘流:惨烈』


鞘から即座に抜き、一直線にジンの首を狙う。それに対してジンは、自身の愛刀『死見堕礼』でその攻撃を防ぐ。


「それだけ、か?」

「どうです、かねえ!」


陽太はそう叫びながら、逆手に刀を持ち、それをジンに向かって振おうとする。ジンはその行動に、少し期待をしてたんだけどな、と呆れのため息を吐きながら自身の刀で防ごうとしたのだが、当たらなかった。


(さっきは全然力を込めていなかったのか……!つまり次の一手の為のブラフ!だけど無意味だ。そんなのは探知で解決す……!?)


ジンは砂煙の中で、ある事に気付いた。探知が一切出来ないということに。そしてこの砂煙に探知不可が付けられている事も。


「やっぱりだ、ジンさん。アンタは俺達の事を甘く見過ぎだ!」


ジンは陽太の声を聴覚が広い、幻聴だとすぐに気づく。幻聴も、砂煙も、全て吹き飛ばそうと思い、魔法を発動しようとするのだが、発動が止められる。魔法による鎖だ。そしてこれはジンにとって心当たりがある。陽太の中にいる、ルアがよく使っていたものだ。


「だから、一手遅いんだよ!」


輪廻の命砲撃リンカーネーション・フル・カノン


拘束されているジンに紫苑の魔法が直撃する。





「どんなパワーをしてるんだよ、紫苑」

「マジか、アレで無傷なのかよ!?」

「いや、無傷じゃない。体全体に魔力回復特有の魔力の残滓がある」

「正解」


ジンは余裕そうにそんな事を言うのだが、実は内心、体中から冷や汗が流れそうだった。そしてそれと同時に高揚感も。ジンは此処まで強かったとは思わなかったからだ。


ジンは二人を睨む力を強めながらも、警戒心を大いに上げる。欲望の化身であり、災害の特典、困難の概念であるルアを所持している陽太。死の特典を持ち、番人の化身にして、生命の概念を持つミナを所持している紫苑。


様々な時代を歩いてきたジンにとっても、この二人が厄介だった。そしてそう思うと同時に、これが模擬戦で良かった、味方で良かった、などの安堵の気持ちが溢れてきた。


「紫苑、俺アレをやる」

「そう、燃えてるね。陽太」

「たりめえだろ、こんな強え人が俺たちと戦ってくれている。こんな状態、燃えなきゃ侍じゃねえ」

「魔法とか使ってる時点で純粋な侍じゃないと思うけどね」

「それは言うなよ!?」

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