第65話 夜恋両想

「なあ、不詳くん」

「僕は不詳くんじゃなくてピースだって言ってるでしょう」


ジンの言葉に、詳細不明の能力改め、ピースはそうツッコむ。何度言っても聞いてくれないジンに呆れを込めた息を吐きながら。


「不詳くん、相談があるんだよ」

「だから……まあいいですよ。それで、相談というのは?」


ピースはジンに向かってそう言った後、今自身が展開している心象世界を不満に思ったのか、ピースは指を鳴らして心象世界を変化させる。真っ暗な世界から花に溢れた花畑の世界へと変わった。


「綺麗だな……それで相談なんだが、好きなやつに告白するのはどうしたらいいかな」

「それで、ですか。あまり僕ってそういう関係のことに詳しくないんですよ?転生する前も恋人とかが一人もいませんでしたから」

「そうなのか?モテそうな気配にしたんだが」


ジンは自分の勘が外れたか、と思っていると、ピースは本日2回目のため息が出る。勝手に自身のことをモテ男扱いしていたことでは無い。明らかにイラついているような、そんな怒りの感情を感じられない。



「英雄として培った勘でしょうか。本当にとんでもないくらいの勘ですね。……そうですよ、僕は生前モテていました。恋人を作らなかったのなんて、あまりに付きまとわれて煩わしかっただけです。作ったらうるさいのは見えてますから」

「わお、割と毒舌だね」

「それ、貴方が言いますか。ジンさん、貴方の方が僕よりもさらに毒舌でしょう」

「痛いところを突いてくるなあ。……そんなことよりも、アドバイスとか、何かないかな」

「悪いですけど、女心はあまり……告白方法ならば、こんなのがいいのでは無いですか?」


ピースはジンの耳元に近づき、囁く。この心象世界にはジン、ピース以外には居らず、盗み聞きなどをする輩など存在しないといのに。






「未亜、今日の夜、少し出かけに行かないか?」


ピースから告白方法を聞いたジンは、ピースの心象世界から現実世界に戻り、未亜に夜遊びを提案していた。未亜はスマホでネット小説を読んでいたのだが、人の言葉に驚いてしまって顔を上げた。


「夜遊びって……私たちはまだ中学生だよ。見つかったらどうするの」

「それは透明魔法を使えばいい。だから、今日は俺と悪い子になろうぜ」


未亜はそのジンの言葉に二度目の驚愕を露わにする。当たり前だろう、いつもは早めに寝ろと言っているジンが、夜更かしを、夜に外に出よう、と提案をしてきたのだ。


「珍しいね、ジンがそんなことを言うだなんて。まあ、いいんじゃ無いの?ジンと一緒に、私も悪い子にならせてもらうよ」

「そうか、あんがとな」


ジンは未亜のその言葉に、へにゃっと顔を緩ませる。ジンはその顔をすると同時に、安堵の気持ちに包まれた。未亜がこの提案を断ってしまえば、ジンが告白する事自体叶わないからだ。


「それで、何処に行くの?あまり遠いと寝不足になっちゃうけど」

「緑縁山」

「割と大きい山が来たね」


未亜は許可したのは私だから良いけど、という言葉を漏らした後、ジンに手を引かれ、家を出る。


ジンは玄関前に出た後、昔にテュポーンから教えてもらった物体憑依術で透明魔法を付与させた紙札を地面に叩きつける。


「よし、透明になったな」

「なったけど……どうして小声なの?」

「バカ、見た目は透明になって見えなくても、声は聞こえんだよ。だから話す時もせめて小声だ」


ジンの言葉に、未亜は確かにという感情を表に出しながら頷いた。








「やっと頂上、だね」

「そうだな、怪物が発生して襲いかかってきたからな」

「可笑しくない?何であんなに居たんだろ。軽く数えても五百はいたよ」

「多分だが、特異点のせいだと思う」

「また出たよ特異点。厄介だね」


本当に面倒くさかったなあ、とジンは昔を思い返しながらも、今度の特異点は前回よりも激しくなりそうだ、と心の中でため息を吐く。


ジンはこれからの未来を考え、憂鬱になりながらも、今は未亜の事を考えようと、そんな思考を振り切る。


「星、綺麗だよな」

「そうだね、本当に綺麗だ。雲が一つも見当たらない。ジンってこの天候だから私を誘ったの?」

「どうだろうね」


ジンは未来予測をし、この天候になると知っていた、その事実を隠す。


「本当に星って、良いよね。どんなに遠く離れていたとしても、少量の光だったとしても、己で輝き、人々を照らしている」


ジンは星に向かって手を伸ばしながらそんな事を言う。


そして同じくして、未亜も手を伸ばし、二人の手が触れる。


「同じ、だね」

「ああ、本当に同じだ」


ジンと未亜は似たもの同士だ。届かないと分かっていても、希望を抱いてしまう。極小の光を見つけてしまったら、何処までも足掻いてしまう。


ジンは幸せを。未亜は心の底から暖かくなる人。


この二人だったからこそ、此処まで来れたのかもしれない。


例えジンの周りに未亜以外にも居たとしても。


ジンにとって、未亜が一番なのは変わらないだろう。


「未亜、月が綺麗だね」

「……!ねえ、ジン」

「未亜、ただひたすらに君が好きだよ」

「私も、私も好きだよ。ジン!」


両者の恋がぶつかり合った。


そして生まれたのだ。愛という、美しく、鮮やかなものが。


新たな時代の始まりだ。概念である超越『勇気』が人に歩み寄り、愛に堕ちた。


原初の英雄であるジンだろうと、セアだろうと予想できていなかった、時代が始まった。

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