第64話 臆病な世界&始原の概念『勇気』

「■■■■、■■」

「人界に慣れてしまった貴方は深淵を言いにくいでしょう。人語でいいですよ」


暗闇と言うには禍々しすぎている深淵が地平線の奥まで広がっている世界に存在しているのは二人、二体、二柱。


「それで?何かの要件できたのでしょう。その要件とはなんですか」

「まあそうなんだが……」


ジンはそんな事を口から発しながらも、この、深淵とも混沌とも取れるであろう世界を見渡す。ジンの概念は『勇気』となっているのだが、正竜となる前には邪竜であり、属性は闇や邪悪となっているため、この世界がとても心地よく感じる。


「本当に暗いよな。混沌と言うか、深淵というか」

「不満があるのですか?貴方の場合、適応していて心地良いと感じる筈ですが」

「そりゃあ俺はな。セア、お前って他の奴らが来ても変える様子を見せんだろ」


ジンがこの世界に関して不満を持っている事と言えば世界セアが他の英雄たちが来ても変える様子を見せないという事だ。いや、元から展開しているのがこの世界であり、ジンとこの世界の波長が合っているだけなので、当たり前かもしれないが。


「何故合わせる必要があるのですか?私はそんな面倒臭い事を好んでしたくありません。本当にしなくてはいけない時以外は」


世界セアはジンの言葉に対して、心底理解ができないと言わんばかりにそんな言葉を言い放つ。ジンはその発言に対して、本当に自己中だなあ、という考えを抱く。しかしそれだから着いていきたいと思った。綺麗事をほざいている馬鹿より余程いいから。


「何故笑っているのですか?」

「いや、ただ……本当に変わらねえなって、そう思っただけだ」


ジンのその言葉に世界セアは何故そんな事を口に出してきたのか、そんな疑問が身体を巡り、不思議そうに首を傾げる。


「まあ良いです。そんな事は置いといて、本題の話をしましょう」

「ん?ああ、そうだったな。本題としては、俺と宿主との恋人関係になりたいなって。だから許可を求めに来たんだ」

「……!?正気、ですか。何を言っているのか、分かっているのですか?」

「正気じゃなきゃこんな事を言ってないよ。若い超越みたいな、自身の影響力を分かっていない事なんてない」


世界セアはジンの言葉に驚愕し、問う。分からなかったから。原初の世界の始源から生きている自身よりかは短いが、それでも原初の英雄と呼ばれているのだ。並大抵の超越よりも、更に長生きのジンが、そう言ったのだ。


「貴方は!分かっている……いるのなら!どうして、どうしてそんな選択をしたのですか……。アカ、あなたは原初の英雄だ。だから、分かっているはずなのに。私達、超越が不幸を撒き散らす事を」

「ああ、知ってるよ。俺達超越はどんなに努力をしたとしても、不幸を撒き散らす。それは英雄の時に沢山と言って良いほど経験している。だけど、それで諦めるのは違うだろ。昔から憧れていた夢を」


昔から、心の底から憧れていた夢を。いつの日か、閉じ込めてしまった夢を。未亜に開放してもらった夢を世界セアに言う。


「ゆ、め?」

「ああ、そうだ。幸せになる、それが夢だ。だから、その為に俺は俺を貫く。超越が人間じゃ無いとか、そんなのどうでも良いんだよ」


『ねえ、アカ。私は君が何に苦しんでるのか知らないよ。同じ身体から生まれたとは言え、もう別人だ。それでも言える事がある。君は人間だ。愚かで、儚くて、美しい、人間だ』


『はあ?超越?だからどうしたんだよ。そんなのにお前が気にする性格タチか?それにお前は人間だろうが』


『俺さあ、超越とか、そんなの知ったこっちゃ無いんだよ。お前がピンチだったら俺が。俺がピンチだったらお前が支えるんだ。だから、離れずに一緒にいよう。人間みたいに苦しんで、バカ騒ぎをしよう!』


『ねえジン、ジンって何者かが分からなくなってるんじゃないの?元人間で、竜で、能力で。だから明確にわかっていた要素、英雄の部分を強く出した。だったら今、私が断言してあげるよ。ジン、君は人だ。何処まで行っても、どんなに強くなっても、今を変える為に足掻いている。それは人間だよ』


「体が超越という人外であろうが、心は人だ」

「違う!私達超越は生きる資格を捨てた時点で人では無い!」

「違わない。もし違うんだったら、どうしてお前は世界を尊んでいる。世界と同化して、人を捨てたお前が、どうして人の特徴を持とうとする。【永久なる世界】世界セア


世界セアはジンの言葉に身体が震える。ジンは考えていた、世界セアは人に憧れていると。元々が人だったから、人に憧れていると。ジンが心の中に夢を閉じ込めたように、世界セアも閉じ込めていると。


「なあ、セア。人って愚かだって思うか?」

「……!……思いますよ。人は欲望や、思い、考えが違うという事だけでぶつかり合う」

「けど、それは俺たちも同じ事だ」

「なれるのでしょうか。私達超越が、人みたいに」

「なれるかなれないかの話じゃない。なるんだよ」

「そうですね……そうですよね。結論を言いましょうか。貴方が人と恋人になるのを許可します」

「ありがと、セア」

「しかし!子供を作るのは待ってくださいね?どんな事になるか分かったものではありません」

「やんねえーよ!」


ジンは、セアが真剣そうな顔をしながらそう言ったのに対して、顔を赤くしながら返答をした。

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