第63話 休日は寝日の時もある

「起きろ、未亜」


前まではマスターと言っていたのに、学校や外での未亜呼び、それで未亜というのが定着してしまい、家でも未亜と呼ぶようになってしまったジンが、寝ている未亜を起こす。


「うえー、もうちょっと。五分だけだから」


未亜はジンの言葉に対し、寝起きだからなのか、滑舌悪く言って毛布を頭まで被って寝ようとする。しかし、ジンはそんな事は知らんとばかりに毛布をずらし、未亜を揺らす。さすがに寝すぎだからだ。日々溜まっている披露とかがあるだろうから、といつもの時刻には起こさず、そのまま眠らせてあげていたのだが、10時になっても起きてこなかった。これでは朝と昼が被ってしまうと思い、起こしに来たのだ。


「ご飯食べないのか」

「食べる、食べるけど……ほんのちょっとで良いから、それだけ寝たら行くよ」

「それは絶対に行かねえやつだろ」

「ちがうよ〜」


未亜はそんな事を言ってはいるが、瞼が完全に閉じていて、起きる気を全く感じさせていない。これで数分後に起きる気を感じる方がおかしいだろう。ジンが未亜の体を揺すっても起きる気が感じない。


「もうちょっと寝たいんだって」

「もう十分寝てるだろ。……未亜、お前昨日何時に寝たんだ?」

「夜3時」

「馬鹿!シンプルに馬鹿!なんでそんなに夜遅く寝てるんだよ」

「魔術解析に励んでて」

「ええ……何やってんのよ。俺たち高位存在、超越の上位層、概念ですら一割どころか1%も解明できていないのをなんで……」

「全然解明できなかった」

「当たり前だよなあ!」


ジンは未亜の言葉に驚愕する。当たり前だろう、なぜ魔術と呼ばれているのか、魔力以外にも代えは効くのか、それら全てが未知と歪に満ちている謎の何かなのだから。


「うぅ……おはよ、ジン」

「おはよ、未亜」




「あむっ、うむうむ……美味しい」


ハム、チーズ、マヨネーズをパンで挟んだ後、良い感じにカリカリ焼いたパンを齧る。ジンは美味しそうにパンをむぐむぐと食べている未亜を見て、少しほっこりした様な、そんな幸せな気持ちになれた。


「未亜、魔術解析をしてたって言ってたけど、どのくらい出来たの?」

「あれ、あるでしょ?前にジンが私に魔術の基礎が載ってあるらしい本。元々解析されて分かっていたのを含めると、2.5%ぐらい」

「それでも十分にやばいんだよなあ」


ジンは未亜の言葉に驚愕し、少し引いた様な視線を未亜に向ける。そしてそれと同時に実感と確信を再び持つ事が出来た。ジンはやはり未亜の特典オールギフトとはあれか、と。


「『幻愛ノ法則レビス』」

「なに、そのレビスってのは」

「未亜の特典の名前だよ。とは言っても、名前は今付けたんだけど」

「そうなんだ……それってどんな特典なの?私ってその特典の持ち主なのによく知らないんだけど」

「幻愛ノ法則は簡単に言うと解析系の特典だ。まぁ、他にも内包している能力はあるみたいだけど」

「なんで?前にジンから聞いたけどさ、特典の種類は一つなんでしょ?」


未亜が言った通り、本来特典とは一人一つまでだ。特典保持者がその能力を拡張し、効果の幅をは広げる事はあるのだが、複数の種類の能力を持ち合わせる事は無い。


「未亜はなんか特別っぽいんだよな。特異能力の俺に目覚める前も目覚めてから少し経っていても魂に色とか無くて、無色だったみたいだからな」

「それ、おかしいの?」

「ああ、バチコリおかしい。本来なら、付いていないとおかしいんだ。それは特異能力が目覚めて無い者達とかでも、魂に色は持っている。なのに無かったんだ」


未亜はジンの言葉に、驚愕をするのと共に、同時にそれならおかしいと納得をする。


「ジン的には心当たりとか無いの?」

「……無いな」


ジンは少し沈黙を置いた後、そう答える。しかし未亜は瞬時にこれが嘘なのだ、という事が分かる。ジンの言葉は知らないと否定をしているのだが、ジンの顔は苦虫を噛み潰したような表情をしているのだから。


「……そう。分かった」


未亜はそれを聞かない選択をした。ジンが昔、苦しい事を経験したのを知っているから。態々そんな苦しい事を聞くべきではない。


「ありがと、未亜」

「何のことかよく分からないよ」


ジンは未亜のその気遣いに対し、感謝を伝える。そしてジンは自身の側に置いてある牛乳を飲んだ後、本当に未亜の能力で良かった、そんな考えを抱いた。





「その幻愛ノ法則の能力ってどんなのがあるの?」


ホットサンドを食べ終わった未亜がジンに対してそんな事を問い掛ける。ジンなら分かっているだろう、という考えからだ。


「未亜の中で今発現しているのは解析能力が中心だね。内包されている能力は他の特異能力とかにもあるんだけど、効果は段違いだ」

「ふーん、そうなんだ。てことはさ、私は無自覚に特典を使ってたっていう事でオーケー?」

「いや、ノーだね」

「え?違うの?」

「違う。未亜がやっていたのは、能力を使わずにの自身だけの技術だ」


ジンがそう言うと、未亜はほへー、という声を洩らした。そして今度やってみようかな、という思いも抱いた。


(未亜の魂が無色で、特典の種類が一つではないのは、俺のせい、だよな。ったく、いつまで眠っているんだ。さっさと起きてこいよ、■■■■)

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