第52話 要望:放課後デート
「マスター、マジで言ってんの?」
「私は大真面目だよ!」
「いや、大真面目でそれは流石に怖いんだけど。何で暗殺されかけたその日にデートをするんだよ」
「だって……ジンとデートをするの、夢だってたし!」
俺は何でそんなのを夢にしてんだよ、と思いながらも、マスターはこうなったら頑固だからなぁ、と思い、渋々頷く。マスターは俺が了承したのを確認した後、自分の部屋へと急ぐ。うーん、何を着ていこうかな。流石に制服じゃ不味いし……でもそんなに服を持ってないからなぁ。しゃあない、私服で行くか。
「お待たせ、ジン」
「別にマスター、いや、未亜を待つのは苦痛じゃ無かったよ」
「へ?そうなの?何で?」
「だって待ってたら可愛い未亜が来てくれるでしょ?それにほら、証拠としてマスターは可愛い姿で来てくれた」
「……ジンは何でこうも可愛い可愛い言うかな。多分ジンの事だから本当に思った事を言ってんだろうけど。そんなに言うから私は耐性が出来ちゃったよ」
「本当?」
俺は髪で隠れている未亜の耳を髪を手で退かしてから見ると、未亜の耳は赤く染まっていた。確かに耐性は付いたみたいだね。前ならもっと耳が赤くなってたし。俺はその赤くなっている耳に唇を触れさせる。そうすると、未亜は驚いて身体を震わせた後、俺に向かって鋭い視線を向けてきた。
「私はデートしたくて着替えたんだよ?ジンに可愛がられる為じゃないよ」
「そうか、分かった。それは帰ってからにしようか」
俺がそう言うと、未亜はえっ、という顔で固まる。見ただけで分かる、十中八九動揺している。いやぁ、動揺している未亜も可愛いなぁ。俺はそんな事を思いながら未亜の手を繋ぐ。
「ねぇ、未亜。何処行こうか」
「食べ歩きとかしたいなぁって思ったんだけど……なにその笑顔。驚くぐらいに満面の笑みだよ。そんなに私を可愛がりたいの?」
「そうだよ」
俺がそう言うと、未亜はため息を吐いてから、まぁいつもの事かと呟いて歩き出す。酷くない?いつもの事ってなによ。俺ってそんなに未亜を可愛がった事なんてないよ?……あれ?可笑しいな、未亜を可愛がらなかった日が見当たらない。未亜の言ってる事、間違いじゃ無いかもしれん。
「まぁいっか」
「……?何がまぁいっかなの?」
「俺って未亜の事いつも可愛がってるじゃんか。でもいつもの事だからいっかって。まぁ俺は悪く無いよね。可愛すぎる未亜が悪いんだから」
「酷い責任転嫁を見た気がするんだけど……」
「俺は責任転嫁なんかしてないのになぁ、酷いね」
言った俺自身でさえ、どの口が言っていると思うのだが、未亜は俺に対してジト目を向けるだけだった。むふふ、役得だねぇ。未亜のジト目、ご馳走様でした。俺はそう心の中で感謝をしていると、未亜が大きなため息を吐いた。
「どったのよ、未亜」
「ただジンが心の中で変態発言をしてるんだろうなって思っただけ」
「酷くない?勝手に決めつけられて俺泣きそう」
「よくもそんな嘘をペラペラと……変態発言、してないの?」
「未亜のジト目ご馳走様、とだけ」
「やっぱり変態発言をしてるじゃんか」
未亜はそんな事を言った後、呆れの顔を隠そうともせず、俺を見つめた。
「ふふ、やっぱり……」
「やっぱり、なに?」
「やっぱり未亜は可愛いなぁって。シンプルに顔が良いのもあるけどさ、仕草とか、表情とか、その全てが可愛いと思わせるよね」
「可愛いって流石に言い過ぎだよ。そんなに私を照れさせたい?」
「まぁ、それもあるけど……俺の未亜が可愛いって気持ちを未亜自身にも伝えたいなって」
「もう十分に受け取ってるよ」
「まだ言い足りない、伝え足りないよ」
「何食べようかなぁ」
「好きに選んでくれて良いよ。最近は探索者業で結構儲かってるから」
「てか、良いの?未亜は食べ歩きがしたいって言ってたけど……」
「流石にあんなに目をキラキラさせてたら通り過ぎれないって」
「えっ、そんなに……?」
俺はそう言いながら、魔力で鏡を作る魔法を展開させ、俺の目の前に作り上げるのだが、俺の目は特にキラキラした様子は無い。今はキラキラしてないけど……もしかして未亜だけが見えてるのか!?
「まぁいいや。俺はモンブランにしようかな」
「そっか……だったら私はチョコのショートケーキにしようかな」
俺と未亜はこの店の店員さんにそう注文をする。
いやぁ、めちゃくちゃワクテカだなぁ。ケーキってのは作り手の繊細っていうので結構変わってしまうのだ。だから自分の作るケーキとは味が違って来る。だから他人のケーキは積極的に食べたいのだが、俺の周りはケーキを作ろうとはしない。作るとなっても、ルアのような料理下手組だけだ。ミナのも美味しいんだけど、あんまり作ってくれないしなぁ。今度心象世界に遊びにいってお願いをしようかな。
「お待たせしました、チョコのショートケーキと、モンブランです」
俺がそんなことを考えていると、店員さんがケーキを持って来てくれた。むふふ、それでは一口いただくとしますかな。むっ!?もう少しドガッと甘みが来ると思ったんだが……甘いは甘い。しかし、甘味料が全部なのではなく、栗としての甘み、濃厚さがよく示されてある。なるほど、コレは美味い。モンブランは試したことがなかったからな、今度試してみるか。
「美味しそうだね」
「あぁ、本当に美味しいぞ。未亜も食べてみるか。ほらっ」
「いや、この体勢にそれはちょっと……」
「なんでそんなに恥ずかしがってるんだよ……ほら、美味しいぞ?」
「はぁ、わかった、食べるよ」
俺が差し出したスプーンに乗ってあるモンブランを未亜は食べた。ふふふ、どうだ、美味かろう。
「美味しいね……ジンも食べて」
未亜はそう言って自身のチョコのショートケーキをスプーンに乗せて差し出して来た。俺はそれをいただこうと思い、顔を動かそうとするのだが、あることに気づく。これ、俗に言うあーんと間接キスになるのでは?俺がその真実に到達してしまうと、顔がいきなり熱くなって来た。うぅ、これはやらなくちゃダメかな。俺がやったんだからやらなきゃダメだよな。
「あむっ……ありがと」
「どう?美味しかった?」
「多分、美味しかった」
「多分って……もっと具体的な言葉はないの?」
「……恥ずかしくてあんまり味が分からなかった」
「だよね、知ってる」
俺は未亜のその言葉に睨みつけることしかできなかった。赤くなった俺の顔で睨みつけても、未亜をさらにニヤニヤさせるだけだと知りながら。
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