第50話 友人将軍・海原千里

ピーンポーンパーンポーン


そんなチャイムがこの教室全体に響き渡る。俺は体感時間はまぁまぁ長いな、そんなことを思いながら自分自身のシャーペンをくるくると回していると、クラスの男子たちが俺に向かって話しかけてきた。


「おーい!竜白、話があるんだ。良いか?」


なんだコイツ、なんか急に俺に話しかけていたけど………………コミュ力バケモンかよ!?いや、それは未亜もそうだったな。俺は生粋のコミュ強じゃないってのに、この時代はコミュ力の才能だらけだな。俺が目の前の奴に怖えと思いながらも、目の前の男の言葉に返事を返す。


「あぁ、良いぞ」

「そっか………それで聞きたいのは勉強の事何だが、ちゃんと着いていけたか?ウチって普通の中学よりも勉強難易度が高いからな。それなのに入学条件が普通のと同じなんだからタチが悪いよな」


いや、めっちゃ良いやつやんけ!ごめん、すっごく誤解をしていた。俺が心の中でそう謝りながら次の言葉を口にする。


「いや、問題なくついていけた。自分で予習をしていたのもあると思うが………………未亜に勉強を教えてもらってたのが大きいだろうな」


嘘である。いや、全てが嘘なわけではないか。俺自身で予習をしたのが嘘なのである。本当にに未亜にはありがたいなぁ。多分未亜が教えてくれなかったらついていけなかった。一応俺は元地球の人間ではあるが、それは原初の英雄時代よりも前の話だ。覚えてるわけがない。と言うか覚えてたら怖いだろうが。


「すっげえなぁ、俺は予習とか自分からできねえや。と言うかさ、思ったんだけど………………花唄とは何の関係なんだ?無関係というわけじゃないだろ?」

「未亜とはただの友人だよ。それ以外はありえない」

「いや、あれは絶対にただの友人じゃあないと思うんだけどなぁ」

「なにか言った?聞こえなかったけど」

「あぁ、いや、何でもないぜ。そんじゃあはいこれ!」

「なにこれ」

「握手だよ!握手!これからよろしくなって言う合図?仕草?動作?みたいなもんだ。てことで、よろしくな、竜白」

「嗚呼、よろしくな…………そういえば何だけど、俺はお前の名前を知らないな」

「あ!確かに言ってなかったな。俺の名前は海原千里だ!」

「そんじゃ、改めてよろしくな、海原」

「おう!」





ジンが友達を作っていた頃、未亜の方はどうかと言うと……………




「未亜、ジンさんの言葉が気に入らなかったらって、そんなに頰を膨らませないでよ」

「膨らませてない」

「いやいやいや、花唄さんってば、膨らませすぎてフグみたいになってますよ」


私の周りに集まっている優香と女子たちがそんなことを言う。うぅ、仕方なくない?あんなに私に独占欲をいだいてて、私が告白されるのを見てて殺意を抱いてるジンが普通の友達なの!?何で、何で…………もしかしたら友達で入れるのが奇跡なのかな。こんな私が恋人になりたいだなんて、夢を見すぎちゃったのかな?


「なんかすっごいどんよりしてますけど…………助けてください!神道さん!」

「出た、ジンさん関連になると偶に出てくるどんよりモード。……………大丈夫だって。ジンさんは未亜にすっごいくらいに信用してるんだから。まだまだチャンスはあるって」

「うぅ………………そうかなぁ。ねぇ、優香。私って本当にジンに信頼されてるのかな」

「いや、あれで信頼されてないはおかしいでしょ。ジンさんは未亜に全面的に信頼をしてるんだよ?それにあの人は…………」

「優香?何を勝手に言おうとしてるのかな?」

「ジンさんと未亜が少し’、いや、かなり焦れったいから」

「んなことはやらなくても良いの。それにそんなことを言われても未亜が困るだけだろ」

「あぁ、あれは聞いてなかったのね。聞いてたら早かったんだけどね」

「早いって何が…………そもそもなんの話をしてたんだよ」

「未亜がジンに本当に信頼されてるのか、そんな話だったよ」


優香がジンに向かってそう言うと、ジンは誰がどう見ても不機嫌ですとわかるように顔を歪ませた。私はこれはまずいと思い、額に汗を浮かばせるのだが、私はこのジンの怒りを何とかするすべを持ち合わせてはいない。本当にどうしようかな、そう考え、迷っていると、ジンが近づき、私の頰に手を寄せる。


「今、未亜の体がピクッと震えたね。俺の手が未亜に触れたからかな」


ジンはそう言いながら、私の頰をスリスリと撫でる。ただ頰を撫でられてるだけ、それなのに心が安らぐ。なぜここまで気持ちよく感じてしまうのか。私は一瞬の間、そんな疑問が頭を駆けるのだが、そんな考えは一瞬で解決した。


「未亜って撫でられるといつもこうなるよね。撫でてくれるんだったら誰でも良いの?」

「ちがっ…………!ジンだから…………」


そんなジンのトゲが入った言動に対し、私は滑舌があまり回っていない、まるで寝起きのような声でそう言うと、ジンの私の頰に触れてある手の力が少し強まる。そしてジンが自身の唾液を飲み込む音が僅かながらに聞こえ、少しの疑問を抱えるのだが、ジンの撫でてくれる心地よさに、そんなものは消えさってしまう。


「ストーーップ!!!」


優香の大きな声、そして強烈な打撃音で朧気だった意識が覚める。


「いつつ、何をすんだよ…………思いっきりチョップを喰らわせやがって」

「目の前でイチャイチャしている方が悪いと思うんだけど。ジンさんは気軽に未亜に触らない!未亜も気軽に触らせない!恋人にもなってないんだから!」

「無理だぞ、未亜とある程度触っておかないと禁断症状が出る」

「そ、そうなの!?だから毎回寝る時に私の布団に来て、一緒に寝てるんだ」


私が人の発言に驚き、そう口にすると、周囲から視線がやって来た。それには私とジンを生暖かい視線で見つめるのもあれば、ジンを限定とした、トゲのような視線も存在していた。そして優香からは、私とジンに対して、呆れのような視線が飛んで来た。


「未亜、そう言うのは断らなきゃダメなんだよ。わかった?」

「でも私は好んでやってるんだよ?」

「そう…………私、ジンさんに用事ができた。良い?ジンさん」

「良いぞ」


ジンと優香はそんな会話をした後、二人とも歩いて教室を出て行った。







「告白するつもり、あるの?未亜のことが好きなんでしょう?」

「ねえよ。未亜が好きなのは事実だけどな」


私は目の前の男、未亜の能力であるジンにそう聞くと、そんな言葉が返って来た。私はその言葉に腹を立てた。告白をするつもりがないなら、恋人になるつもりがないなら、そんなに独占欲を出さないでほしいと。しかし、そんな言葉は私の口から出る前に引っ込んでしまった。ジンさんの心の底から辛そうな顔を見てしまったから。


「覚悟がないとでも言うつもりですか!?未亜はあなたのことを……………!」

「知ってるよ、マスターが俺のことを好いてくれてることくらい」

「だったらどうして!?」

「資格がないからだよ。いや、これは適してないな。俺がただ、マスターに背負って欲しくないだけだよ。俺の罪を。こんな、手も魂も血で汚れてしまった俺なんかと一緒に歩いて欲しくないだけなんだ。マスターにはきっともっと良い道があるだろうから」

「それで、それで未亜が幸せなわけないじゃないですか!!共に歩いて欲しくない!?未亜がそれを気にするとでも!?………………ジンさんのことはまだよくわかりません。私は未亜の話を聞いていただけなので。しかしそんな私でもわかったことがあります。ジンさん、あなたは未亜のことをわかってはいない」

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