第49話 山上中学転入

「うぅ、緊張するなぁ」

「何で緊張なんてしてるの?普段のジンならそんなことをしないと思うし、何で他人なんかに………………」

「転入なんて普段のことじゃないし、ますたーがいるから緊張してんだよ」

「ふーん、良くわかんないね。私、戦闘以外だと、緊張することは滅多にないんだよね」


ヤベェ、俺のマスター、マジでヤベェ…………!?どうなってんだよ、マスターの精神力は…………。俺はそう考えながらマスターに向かって引いていると、マスターから注意がかかった。


「一応言っておくけどさ、学校で私のことをマスターなんて呼ばないでよ?」

「何で?」

「何でって…………私もジンも気持ち悪いって思われるからだよ!!私はそんなことを言われるのは慣れてるけど、ジンはそんなことになって欲しくないから………………」


俺はマスターがそう言っている最中にもかかわらず、俺はマスターの頭に自身の手を置き、マスターの喋りを停止させる。


「俺だってな、そう言われんのは慣れてんだよ。俺が何年英雄をやっていると思ってんだよ。英雄ってのはな、活躍すればするほど、そんな陰口を叩かれる」

「で、でも…………!」

「それにな、自分のマスターが陰口を叩かれてんのに、マスターの能力である俺が見て見ぬふりとかできねえんだよ」

「じゃ、じゃあ!学校の時だけでも未亜って呼んでほしいなって…………ダめ?」

「いや、いいよ。それじゃあ、学校でもよろしくね。未亜」

「…………!うん!よろしくね!」


マスターはその発言とともに、自身の顔をふにゃりと顔を変えた。その表情の変化一つ、それなのに、それだけなのに…………どうしようもないくらいに心が騒いでしまう。


「どうしたの?すこし顔が赤いけど」

「いや、何でもないよ」

「そう?其れなら良いんだけど……」

「未亜、そろそろ行こうか」

「へ?もうそんな感じなんだ…………あ!ジンに一得ないことがあったんだった。その制服、すっごく似合っててカッコイイよ」

「似合ってるのは未亜もでしょ…………すっげえかわいいもん」

「…………もう!ジンは私のは見慣れてるでしょ?」

「其れでも可愛いもんは可愛いだろ」


俺が未亜に向かってそう言うと、未亜は顔を赤くして俯いてしまった。嗚呼、未亜のことを告白している男どもバカ野郎どもの気持ちが、少しわかった気がする。まぁ、其れを許容できるかと言われると…………死ねボケナスになるが。俺はそう考えながら玄関の扉を開け、外へ歩き出す。


「未亜、その赤面顔、収めてくれ」

「私が収めなかったら…………どうなるの?」

「嫉妬する」

「そう…………だったら収めないよ。私がこの赤面顔を収めなかったら嫉妬してくれるんでしょ?」


俺はその未亜の言動に少しの間固まってしまった。しかしマスターはそんな事は知らないと言わんばかりに、俺の腕へ未亜自身の腕を巻きつけ、抱きしめた。


「ちょ!?未亜!?」

「ジンの腕…………私のとは全然違うね。私みたいに細くなくて、むしろ厚い。やっぱりジンって頼りになるんだなって思い知らせてくれる」


………………………ずるい。そんな事を言われてしまったら離せなくなる。俺は自身の暴走しようとする熱を抑えながらも、中学校に行かなければならないので、歩き出す。俺の突然の動きに未亜は驚いたようで、体を震わせたのだが、それでも俺の腕を離すことは無かった。


俺が離さないという事が分かったからなのか、未亜は俺の腕に抱きつきながら上機嫌に鼻歌を歌っている。これは勘違いをされそうだなと思いつつも、未亜となら勘違いをされても良い、そんな感情を抱いてしまう。こんな感情を抱かれたって、未亜は迷惑なだけなのにな。


「♪〜〜♪」


俺は俺自身に嘲っていると、未亜の楽しそうな、そんな鼻歌が耳に入る。その鼻歌を聞いてしまうと、俺が考えていた事なんてどうでも良くなってしまう。俺の小さな悩みなんて吹き飛ばしてくれる。嗚呼、そうだったな。俺はこういう所も含めて、未亜を好きになったんだ。









「貴方達、今日は前にも言った通り、転入生が来ますよ!」

「佐藤先生!その転入生は男か女、どっちですか!?」

「男です、しかし喜びなさい。女子たちよ!イケメンですよ!それでは、来ていいですよ。竜白君!」

「どうも、竜白仁です」


佐藤先生がそう言った後、教室の扉がガラガラと開き、紫髪をしたイケメンの男子が入ってきた。そう、私の能力兼相棒であるジンだ。クラスの女子達はジンの顔面の高さにきゃーきゃー騒いでいる。ぶっちゃけ言って超が付くほどムカつく。ジンは私のなのに…………。


………………何を考えているんだろ、ジンは私のものじゃない。ジンはジンだけものだ。例えジンが私の能力だとしても、私が縛って良い訳がない。私は机の下に手を置き、力強く握る。そんなくだらない独占欲を忘れられるように。こんな感情をジンに見せないために、蓋を閉めるように。


私がそんなこと考えてると、机の下にある私の右手にぽんっと誰かの手が重なる。私は誰の手なのか、そんな疑問を心の中で抱き、俯いていた顔をゆっくりながらもあげると、そこには心配そうな顔をしたジンが私を見つめて待っていた。


「俯いてたみたいだけど………………大丈夫か?未亜」

「うん…………ありがとう。もう大丈夫だよ」


ジンが私の手を握ってくれた、そんな事実に私は落ち着いてくる。だから私は人に向かってそう言うのだが、ジンはその心配そうな顔を撤回しようとはいない。

むしろ更に心配そうな顔をしている。もう、私は本当に大丈夫なのに。


「あのねぇ、私は本当に大丈夫なんだよ?だからそんな心配そうな顔をしなくても………………」

「本当の本当に、大丈夫なんだね?」

「だからそう行ってるでしょ?」

「だったら良いんだけど………………一つ言っておくよ。未亜、辛い時はいつでも頼ってね?俺は未亜だけのものだから」

「………………!うん、分かったよ。その時は全力で頼らせてもらうよ」


嗚呼、本当に幸せだよ。ありがとう、ジン。私にこんな幸せをくれて。


これは私のただの独占欲なのに、こんなに心配してくれてくれて。


私がジンを好きになったのはそう言うところなんだよ。

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