第48話 山上市立山上中学校二年生竜白仁

「ふっふっふ、よく来たね、ジン君、花唄くん」

「よく来たって…………………白峰、アンタが呼び出したんだろ。というか、君付けをして呼ぶな。俺の方が年上なんだが」

「はいはい、落ち着こうね、ジン。それで?何で私達を呼んだんですか?」

「これには少し理由があってね。ジン君、君には山上市立山上中学校、略して山上中学に入ってもらいたい」

「入ってもらいたいって言われても、俺は戸籍が存在して居ないから入れないけど…………」

「それは安心してくれ、私が山上探索者協会支部の支部長として戸籍を作っておいた」


俺は白峰陽菜の言葉に驚き、目を見開く。いやマジで何をやってんだよ此奴。俺は呆れの視線を白峰陽菜に向ける。


「白峰さん、何が目的でジンに戸籍を?もしかして………………………」

「あのなぁ、花唄くん。私は半分遊びでジン君に戸籍を作った訳じゃあ無いぞ」

「だから君付けで言うなって………ぶわっ!?」


俺は白峰にそう言おうとしたのだが、マスターはこれでは話が進まないと思ったのか、マスター自身のハンカチを俺の口に押し当てた。むぐぐ、これじゃあ喋れないんだけど…………俺は何とか喋ろうとモゴモゴと口を動かしていると、自然とマスターのハンカチの匂いが俺の鼻に入ってくる。


「モゴモゴモゴモゴモゴ(マスターのハンカチってこんなに良い匂いだったんだ)」

「はぁ………………匂いを嗅ぐな、バカ!」


マスターはそう言った後、俺の頭上に脳天チョップを繰り出してきた。マスターのチョップ攻撃は魔力と邪力、竜力を練り上げ、込められたそれはちょっと、いや、ひじょーーに、痛かった。いや、全面的に俺が悪いのは理解してるんだけどね?それでも、強く叩きすぎじゃない?俺はそんなことを思いながら、マスターに抗議の視線を向けていると、白峰からゴホンッ!という咳払いの音が聞こえて来た。


「話お戻すとだな、なぜジン君の戸籍を作ったかだが、そちらの方が都合がいいからだ。別の探索者協会の支部長が花唄くんを煩わしく思い、花唄くんの命を狙っていると言えば分かるだろう」

「なぁ、一ついいか?そんな奴ら、マスターの強さなら関係ないと思うが?」

「それは此方の都合と言っておこうか」

「なるほど、そういう事か」

「嗚呼、そういう事だ」

「分かったよ、いつからだ?」

「12/3からだ」

「了解」


俺は白峰にそう言った後、マスターの手を引いて支部長室を出る。てか、今日は11/30だったよな………後三日しかねえじゃんか!?色々と準備が必要になるなぁ、と考えていると、マスターから声をかけられた。


「ねぇ、此方の都合って、なに?」

「大人たちのドロドロの事情だよ。簡単にいうと、白峰的には、まだマスターの強さを知られちゃ困るんだよ。でも、勘違いはすんなよ。その行動はマスターのことを思っての事だからな」

「ふーん、そっか。少し実感はないけど………………後でお礼を言っとかなきゃだね」

「嗚呼、そうだな」


本当にありがたいな。マスターは強いと言っても、まだ子供。強さはマスターよりも劣る。しかしそれでも、そのマスターの前を歩き、道を示し、守っている。お礼をするとともに、何かを持っていくべきなのだろうか、俺はそんなことが頭をよぎり、悩んでいると、少しの羨ましさが襲ってきた。俺も欲しかったな、あんな頼りになる大人が。





『おい、アカ。なんか様子がおかしいが、なにかあったのか?』

『ベルスとフェンが攫われたんだ。だから………………』

『一人で行こうってか?………………なんで分かったんだって顔をしてんな。お前が勝利の象徴と言われようとも、ガキには変わりないからな。年頃のガキなんてそんなもんだ。お前は俺に頼んで迷惑をかけるのを怖がってんだろうがな、大人の仕事にはガキの前を歩くってのもあるんだよ。だからお前はドーンと俺に任せやがれ』





いや、俺の側にも居たな。アンタは今、どこで、何をしてんだろうな。少し、ほんの少しでいいから、アンタと会いたいなぁ、ヤマさん。


「どうしたの?ジン」

「少し、昔のことを思い出して、会いたいなって、そう思っただけだよ」

「そう。それじゃあ、会えるといいね。その人に」

「………………!嗚呼、そうだな」

「あ、そうだ!ジン、もうすぐ学校生活なら、文房具を買っとかなきゃだよ!」

「へぇ、そうなんだ………………いや、俺は文房具の種類なんてよく知らないんだけど…………」

「なら私が選んであげるよ!来て!」


俺はマスターのその言葉とともに手を引かれ、文房具が売ってあるであろうデパートに進んでいく。




「ねぇジン!こんなシャーペンはどうかな。0.5mmのシャー芯だから、力を最低限度まで弱めれば折れにくなるから全然使えるよ!」

「なるほど…………あれ、このシャーペン、めっちゃ軽い」

「でしょ!?テストの時とかは慎重に書かなきゃ良けないからあまり出番は無いんだけど、自主勉の時とかは重宝するんだよ。あと、適当に書いてもいい時も活躍するんだよ。それに書き心地も素晴らしいんだよねぇ。そして何より、一番の魅力は値段の安さにあるんだよね。その安さなんと…………261円!税込ありでこれだよ!すごくない!?」

「あ、あぁ。すごいな……」


俺はマスターの熱気と勢いに押され、そんなはっきりしない返事になってしまった。しかしマスターはそんな俺の返事にきにすることなく、他の文房具の紹介を進める。


「この消しゴムはシンプルに崩れにくいし、消しやすいんだよ。それと比べて、最近の消しゴムは邪道ばっかりだよ。所持していると魔力操作力を上昇とか、消しゴムを媒体とした魔法陣作成とか、ふざけてるの!?」


それは俺もそう思う。

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