第38話 色白紫苑=死の番人

「この人達全部が隊長格なのかな?多いなぁ」


私は憂鬱そうにため息を吐く。しかし私の眼光は決して目の前の人達から外しはしない。


「気にする必要はありませんよ。貴方は気にする間も無く死んでしまうのですから」

「貴方は…………なるほど、貴方が【変わりの紫陽花】ですか。綺麗な花とは思えないくらいに真っ黒ですね。というか、私が死ぬと?ご冗談を、死ぬのは貴方達では?」


私は誰もが聞いたら煽りと分かるような言葉を口にする。自身の強さに強烈なプライドを持っているこの男、【変わりの紫陽花】ならば効果覿面だろう。


「そんなに死にたいなら直ぐに殺してあげますよ。とは言っても、殺すのは私ではないのだけど」


【変わりの紫陽花】がそう言うと、【変わりの紫陽花】の横に居た他の隊長格達が私に向かって突っ込んできた。なるほど、【変わりの紫陽花】が隊長の中でも代表格っていうヤツなのかな?


私がそんな事を考えていると、隊長格達が私に剣、槍、薙刀、色々な武器を構え、襲いかかってくる。


「ふっ、はっ…………危ないね。怪我をしたらどうするのさ。まぁ、しないけどね」


私はそんな事を言い放ち、私に向かってくる剣を腕で受け止める。私と向かってくる剣がぶつかり合う時、ガキンッ!と金属音が鳴り響き、私の腕を斬る事は無く、私にぶつかってきた剣が折れた。


「だから言ったでしょ、しないって」


私は魔力等を一切纏わず、少し力を入れて私に剣をぶつけてきた男の顔面に拳をぶつける。


そして次の瞬間、私が上に飛び跳ねると、私が居た場所に魔法の光線が通る。本当に遠慮が無いよね、私はそんな事を思いながら不静動魔法を行使して魔法を発動させる。思い描くは空想の魔法陣。


怪籙狗死かいろくくし


私がその魔法を発動させると、無透明で不可視である魔法が奥の隊長格へと突っ込んでいった。そしてその魔法がぶつかる時、肉を噛まれ、裂かれる生々しい音と、魔法を喰らった部分から血が吹き出す、気色悪い音が聞こえてきた。やっぱり、この音は慣れないね。


死ノ番人ノ大鎌デス・サイズ・アセンブリー


私は自身の特典に内包されている能力の一つ、『死怨具現』を使い、死怨武器の一つ、『死ノ番人ノ大鎌』を召喚する。


「構えなよ、じゃなきゃ、死んじゃうよ?」


私は目の前の隊長格達に向かってそう警告をした後、殴る時には使わなかった魔力を『死ノ番人ノ大鎌』に纏い、振るう。


私がその大鎌を振るった次の瞬間、【変わりの紫陽花】以外の隊長格は上半身と下半身が切り分かれてしまっていた。


「私は言ったよ?構えなきゃ死んじゃうって」

「何を馬鹿な事を………あれは例え構えを取っていたとしても、あの程度の実力者ではあの斬撃に耐えられなかった」

「確かにそうかもね。でもさ、私は貴方達を殺しにしたんだよ?態々忠告までして、本当に構えを取ったら耐えられる。そんな技を撃つ必要、ある?」

「…………っ!卑怯、卑劣、この言葉は貴方に似合いますね。力としての人間を捨てたどころか、精神としての人間も捨てているとは。本当に化け物ですね、貴方は!」

「その言葉、ブーメランになっている自覚ある?」


『バーカ!紫苑は英雄候補なんだからね!イカれてるなんさ当たり前だよ!』


あのさぁ、ミナ。私は英雄候補になるなんて言った覚えは無いんだけど?勝手に決めないでくれるかな。


『いや、それをアタシに言われても困るんだけど。紫苑を英雄候補と決めているのは世界だし』


ねぇ、ミナ、前に私の力になるって言ったよね。だったらさ、私のお願い、聞いてくれる?


『うーん………なんか嫌な予感がするからヤダ!』


ちょっとぉ!?前に言ったよね、私の力になってくれるって。私は英雄候補になるか考える、って言っただけだよね?なのに勝手に英雄候補にされてるんだよ?だったらミナも私の言う事を聞いてくれないと割に合わないよね?


『無茶を言わないでよ!そう簡単に世界が抗議を認めると思うの!?もし異議を出して一理あると受けられたとしよう。だけどそれを認めさせる為には戦わなくちゃいけないんだよ!?アタシだって紫苑には英雄になって欲しくはないけどさ。態々勝てない戦をして、紫苑に危険にするよりは良いと思うんだよ。だから、ね?』


ミナの明るそうな声、いや、明るいと偽った声が私の脳内に響く。まぁ、そうだよね。ミナって英雄が嫌いだもんね。身を滅ぼさせる、そんな体験をしたミナが私に勧める訳無いか。後で陽太と相談しなくちゃ。


私はミナとの会話を打ち切り、目の前に居る男、【変わりの紫陽花】を瞳に据え、構えを取る。私はと【変わりの紫陽花】は構えを取り、相手の様子を観察して止まっている。


数秒が経った頃、両方の脚が動き出し、私の大鎌と【変わりの紫陽花】の大剣がぶつかり合う。ガチガチガチ、と金属の武器が押し合っている音が聞こえてくる。


【変わりの紫陽花】はこのままぶつかり合っても埒が明かないと思ったのか、自身の大剣を私の大鎌から離す。そして【変わりの紫陽花】は大剣を突きの姿勢に持ってきた後、私に向かって突っ込んでいく。私はそれを横に避けたあと、【変わりの紫陽花】の腹に大鎌の柄を当てる。


「ゴバァッ!………………は、はら、が!」

「やっぱりだ。【変わりの紫陽花】、貴方は痛みを経験してきてない。強さが分かっていない。高みを見た事はあるだろうけど、経験はした事がない。だから私みたいな、相手が自身より高い地点に居ると、対抗の手段が分からない。まぁ、良い手だとは思うよ。生き残るならね。でも、常に自身の身に危険が降り注ぐかもしれない。そんな状況に身を置く者としては、悪手も悪手だよ」


私は【変わりの紫陽花】に向かってそう指摘をすると、そんな答えなど求めていないと言っているかの様に暴れ出した。


「なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!!!なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだよ!せっかく隊長になって、隊長六冠席の第二席になったのに!金もたくさん手に入れて、女も奴隷にしたい放題なのに!俺が何でこんな目に!」

「妥当でしょ。そんな事をやってるからこんな目に遭うんだよ」

「違う、違う!俺は悪くないんだ!悪いのは、悪いのは!目の前にいる、このクソアマなんだぁ!!」


【変わりの紫陽花】はそう叫ぶと、黒いオーラが溢れ出した。花唄さんの邪力と似てるみたいだけど………全然違う!というか、何でこんな急に!?こんなに急に力が上昇するなんて…………精神も変わってるみたいだし。ん?精神…………?


「そう言う事ね、そう言う事なのか…………随分と悪趣味な事をやってくれるじゃないか。【壊れてしまったアイビー】!!!!!」


私がそう叫ぶと、【変わりの紫陽花】は変化が完了したのか、咆哮をあげてくる。


『生まれてしまった。闇に生き、本能のままに堕天をする。このまま成長してしまったら、本格的にまずくなる。もしかしたら、ジンの暴走モードに並ぶかもしれない。やるよ、紫苑。じゃないと、この世に暴虐が生まれ堕ちてしまう』

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