第25話 英雄候補VS■王帝(ジン) 2

「ふー、危なかった。想像以上だったね」

「すごいね。あの魔法、結構本気で放ったんだけど?余裕そう」

「余裕そう?アホか、余裕なんか無いに決まってるでしょ。俺はあれだけだけじゃ無く、『悪天の誓い』を使っちまったんだからな」

「『悪天の誓い』?」

「説明する必要、ある?」


俺はそう言いながらマスターの近くに移動し、拳を振るう。俺が自身の身体能力を開放したからなのか、俺が拳を振るった後は大きく抉れた跡が残っていた。あーあ、戦いにノリがなってきたからかな。制限していたのに……………無意識に開放しちゃった。まぁ、良いか。


俺はそんな事を考えながら■の時代からの戦闘服である黒衣と狐の仮面を『魔装変換』で装着する。とは言っても、狐の仮面を全部被ってしまうと見えづらくなってしまうので、右額に掛けてあるだけである。


俺は大きく吹っ飛んだマスターの方向を見ていると、地面が俺に襲いかかってきた。これ、マスターのヤツか。ふぅん、良い練度と効果だ。俺はそう思いながら空に飛び、地面の攻撃を避ける。しかし避けても避けても追ってくる。やっぱりやばいな、マスターの魔力の増加速度は。いや、正確にはマスターの成長速度か?


俺は試しにその地面に魔力の弾を喰らわせてみると、壊れていく。しかし壊れた側から再生されていく。どんな魔力伝達速度だよ……………………なるほど、竜脈か。確かに俺の心象世界は竜と関係あるが、そう簡単には出来はしない。この竜脈、さっさと吹き飛ばした方が良さそうだな。


『戒玉弾』


俺は手元に黒い弾を作り、マスターが居る地面へと放射する。俺が放射した『戒玉弾』で竜脈は吹き飛んでいるが、マスターはダメージを喰らっていない。此処は精神が直接現れる心象世界だとは言え、アソコまで効かないか。魔力耐性、高くなってんなぁ。俺がそう考えていると、マスターが風魔法をぶつけてくる。


俺に直接当たることで暴風が生じるが、俺はダメージが来ていないので気にしない。身体能力を開放したからだろうな、魔力耐性も自動的に上がってる。まぁ、あの『時間地獄の鎮魂歌』は少し喰らうかもしれないけど。


俺がそんな事を思っている最中にも、マスターは魔法による弾幕を喰らわせようと放射している。それを俺は魔力の壁で止めている。とは言っても、少し変化をさせた魔力の壁だが。ただ魔法を止めるだけの魔力の壁。対象の魔法に干渉し、相手に放射する訳でも、対象の魔法を吸収する訳でも無い。


しかしこの魔力の壁はある魔法と組み合わせることで化ける。


『中魔操作』


俺がマスターの居る方向に手を翳すと、マスターが放ってきた魔法の弾幕がマスターに向かって発射される。この魔法は操作権を剥奪するとか、そんなんじゃ無い。魔法の操作権が破棄された魔法を操作する、そんな魔法だ。本来、魔法という物は生み出した者が操作権を持っている。


しかしこの魔力の壁に止められた場合、その操作権を破棄することになる。だからこそ、この魔法が生きるという物だ。ロッドと作ったこの魔法、最初こそ使い道が無いよなぁって言ってたけど、今となっては超が付くほどの優秀な魔法なんだよねぇ。


俺がこの魔法について考えていると、マスターは自身に向かってくる魔法を刀で全て切り裂く。あの毒蛇戦を見てたから分かるけどさ、マスターって本当に人間かな。いや、人間を卒業して人外になっていないのは俺が一番分かっているんだけど………それでもね、マスターの身体能力や魔法能力が人間とは思えないからね。


マスターは自身の魔法を切り裂くついでに此方へと斬撃を飛ばしている。邪力と魔力が結構込められてあるね。あれか、『時間地獄の鎮魂歌』で進化したパターンか。いやおかしいでしょ、何をどうしたらそんなハイペースで進化出来るんですかね。俺はマスターに呆れの視線を向けていると、マスターが手印を結んだと思ったら、マスターの魔力が乗ってある人造獣が召喚された。


召喚魔法の手印もだけどさ…………!いつの間に人造獣を造ったんですかね!?


「本当に、強いね。この子たち!」

「それを全く止まらずに、いとも容易く壊しているのは誰!?ジンでしょ!」

「ハハハ!当たり前でしょ、俺を止まらずには脆すぎるんだよ!」

「知ってるよ。だから、ね!!!」


マスターはそう言いながら俺に殴り掛かろうとしているので、俺はその拳を受け止めようとする。しかし俺は気づいた、その手に魔法陣が込められている事に。そして俺はソレを避けようとするが、身体が動かなかった。俺は急いで俺に掛かってある魔法を解析すると、『不自然な沈黙』というのが浮かび上がった。


『不自然な沈黙』!?アホか、それは隠している魔法を気づかれなきゃ意味がない。隠している魔法に気づかなきゃ、その隠している魔法効果が全部消えるんだぞ!?俺がこの魔法に気づくのを信頼して、という事なのか。あーあ、嫌な信頼だなぁ!?












「あー、クソ痛いな。■の時代に英雄になり、戦を沢山経験しているとは言え、腕欠損はしんどいって。いやまぁ、何兆年も戦っていなかったからって言うのもあると思うけど。しっかし、あんなに全力で放つかよ」


俺は痛みとマスターが放った容赦のない魔法攻撃に対して愚痴を漏らしながら、腕を再生させる。


「あれ喰らって腕欠損で済むとは………………つくづく化け物だね」

「化け物?………………………嗚呼、俺の事か。いやぁ、もしかしてマスターの事かなって思ったけど、違ったか。残念残念」

「何、煽ってるの?」

「でも、その通りだろ?」


俺がそう言うと、マスターは魔力の流れを激しくさせ、怒りを示しているかの様に、魔力圧を展開した。ふゅー、やっぱりマスターにこれは効くよなぁ。俺はそんな悪辣な笑みを顔に浮かべ、マスターの魔力圧に対抗するかの様に、魔力圧を同じく展開する。


俺とマスターの魔力圧がぶつかり合う時、周囲に強烈な魔力が襲いかかる。魔圧拡散か…………これをする気は無かったんだけどなぁ。ま、利用出来るし構わないか。俺はそう考えながら亜空間倉庫から己の愛武器、紫黒刀『死見堕礼しみだれ』を取り出した。


「さぁ、暴虐戦いの始まりだ」

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