第20話 ■■童子とジン

「よっす、久しぶり」

「何で貴方が此方に来ているのでしょうか」

「えー?同じ講義に参加している者が宿主同士だ。そんぐらい良いだろ?」

「貴方の宿主は初心者探索者講義の講師でしょうが!それに理由にはなっていませんよ」

「えー、別にそんなのどうでも良くない?」

「全然、良くありませんけど!?」


俺と域外陽太の能力であるルア■■童子は、真っ暗な空間で楽しそうに喋っていた。とは言っても、楽しそうに喋っているのは俺だけなのだが。ルアは俺のことを全開で警戒していた。変わらないな、ルアは。昔もそうだった、宿主の事を思い、宿主が危険な目に遭わない様に警戒をする。


「まぁ、そんな警戒しなさんな。俺の持ってきた菓子とか食べようぜ!」


俺はそんな事を笑顔で言いながら、中指と親指を合わせて『パチンッ!』と鳴らすと、真っ暗な空間が、色鮮やかな部屋へと移り変わる。俺は鼻歌を歌いながら魔法陣からお馴染みの机、椅子、お菓子を出す。そんな俺を見て呆れたのか、ため息を吐きながら席についた。


「はぁ、当たり前の様に私の心象世界に侵食して変えないでもらえますか?……………あ、このお菓子美味しいですね」

「ふふ、良かったよ。お前のために作っておいたんだ。喜んで貰えたなら嬉しいよ」

「態々私のためにやってきたんですか?…………貴方も食べてください」

「えぇ?別に良いって。俺はルアのために作ってきたんだから、ね?ルアが美味しく食べるのを見れるのなら充分だ」

「むーー!さっさと食べてください。私はジンと一緒に食べたいんです!誰かと一緒に美味しく食べれた方が嬉しいですから」

「あぁもう!分かった、分かったよ。食べるから、それで良いんでしょ?」

「はい!それじゃあどうぞ、あーん」


俺とルアはそんな会話をした後、ルアからケーキが乗ったスプーンを此方に向かって寄せる。俗にいう、『あーん』とか言うやつだ。俺はルアのその行動に『予想外』という考えを表にそのまま出してしまったかの様に固まってしまった。しかし無情にも現実は迫ってくる。ルアは俺に向かって更にスプーンを進める。


そして俺は覚悟を決してスプーンに喰らいつく。俺はどうにかして味を感じようとするのだが、恥ずかし過ぎて味が感じられない。いや、甘くほろ苦い、という事はわかるのだが、正確な味わいが伝わらない。繊細で、深い味に作った………………筈なんだけどなぁ。ルアってそういう甘いのが苦手だったからな……………。


「美味しかったですか?ジンは何にでも美味しく感じる性質ですからね、多分美味しいと思います。それにジンの事です、味見とかをしているでしょうし。美味しいに決まってますよね……………もしかして私が食べさせるのは要らなかったのでしょうか?」

「いや、美味しかったし、不要じゃなかったけどさ……………羞恥心は無いのでしょうか。それに俺なんかにあーんと間接キスまでして……………結構な信頼関係がある俺とだからしたと思うけどさ。そういうのは好きな人としなよ」

「分かってますよ、それぐらい」

「あのなぁ、昔からそう言ってるけど全然じゃん。俺に向かって何度もそう言って、ソレを何回やったと思っているんだよ」

「本当に、分かってますよ。ソレを知ってるなら、何で分かってくれないんですか」


俺はルアが言ったその言葉の後半部分は小声で聞こえなかったが、分かってくれているという前半部分の声を信じることにした。これで何度目か、正確な数は数えていないけれども…………………絶望的な数字ではあるな。







ジンは私の目の前で顔を赤くしており、私も顔を赤くしているであろう。ああー!私の馬鹿!大胆にも程があるでしょう!そういうのはもっと順序を整えてから……………………私はそんな事を考えていると、ジンと付き合った時の妄想も一緒に考えてしまった。うぅ、またルミから色欲ピンク姉鬼って言われちゃいます。


私は自分自身のやらかした事にショックを覚えながら、ジンが魔法陣から出したケーキを頬張っている。嗚呼、本当にジンの作ったケーキは最高、その一択に限ります。ジンもさっき言ったと思いますけど、私の為に態々好みを整えてくれたみたいなんですよね。


他の人達に菓子やケーキを持っていく時、甘いのが多いんですよね。だから私の為に調整してくれていると分かるのですが……………いえ、これは参考になりませんでした。ジンはいつも持っていく時、その持っていく人の好みに合わせて作りますから。私のみ調整しているという訳では無いのでしょう。


本当にジンの好みとは何なのでしょうか、毎回毎回変えてるし………………ジンなら全てとか言いそうですね。好きなタイプの時もそうでしたし。前に■の時代からの友達にジンがそう答えたと言われ、結構なショックでした。本当にショックですよ、ショック。これでは私がジン好みの女性になる事が出来ません。


私はそうモヤモヤした思いを抱えながらケーキをお代わりする。


「お代わりをお願いします」

「はいはい、どうぞ」







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□心王ノ超越

コレは特典オールギフト所持者だけが到達できる極地である。しかし誰も彼もが到達出来るという訳では無い。特典所持者の上澄の上澄だけが到達できるのだ。例外も勿論ある。域外陽太や色白紫苑の様に、魂を知覚しているのであれば、覚醒はしやすい。


補足:極限模倣ノ超越オーバー・リミット・ブレイク


ジンとユーフォスが特典保持者の心王ノ超越にどうにかして抗えないか、という事で編み出した技?でかる。何故、技?なのかは、スキルであり、魔法であり、技であり、能力であり、特典模倣であり、覚醒であり……………………etcとなるからである。


ぶっちゃけ言ってバカ強い、オリジナルの心王ノ超越よりも更に。まぁ、片方は努力だけで邪力とかいう概念を生み出した化け物■だし、片方は旧時代の時でさえ、竜殺し、龍殺し、鬼殺し、吸血鬼殺し、妖怪殺し、聖獣殺し、魔獣殺し……………etcという称号を持っているので、妥当と言えば妥当である。

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