第7話 ノイズと馴染み

俺が眠ってからどれくらいの時間が経ったのだろうか。多分だけど結構な時間が経ったみたいなんだよな。俺がそうした時は割と時間が経ってたし。俺はそんな事を考えながらベットから起き上がる。それから俺は力を確認するために魔力を身体に巡らせながら手をグー、パーと形を変える。


やっぱり魔力が馴染み始めてきてる。これは………主人が成長し、魔力に適応し始めたからか。前主人が覚醒し、成長した時とそっくりだ。しかし前の時はこんな簡単じゃ無かった。多分だが、一度なった事で成長しやすくなったのだろう。それ以外にも主人との適正があるのだろう。


けれども前主人も今主人も適正のレベルが最大限では無い。なのに何故そうなっているのか、それは主人達が才能の暴力でそうしているからなのだ。本当にどうやっているんだよ。多分だけど魂から干渉しているのだと思う。俺は本人じゃないからどうなのかは分からないけどな。


まあ、俺の主人が規格外なのは全くの事実だろうがな。俺はそう思いながら魔力を使い、前主人時代に獲得した亜空間倉庫を行使する。その亜空間倉庫から前主人時代に創り出した剣を出現させる。それから俺はその剣を『シュッ、シュッ』と素振りをする。


ふむ、剣を振る技術は衰えてないか。俺はそう考えながら上から下へと斜めに向かって切り下げる、つまり袈裟斬りだ。この技は前主人のバカ英雄なものなのだが………やはり技術の高さで言えば彼奴には勝てないか。この技を作ったのは彼奴だから作成者には勝てないと言われればそれまでだ。


『素直に負けを認めたくない』


そう俺が昔言ってからどれくらいの月日が経ったのだろうか。正確な日付は覚えはいない。それどころか彼奴と居た鮮烈な思い出さえ思い出せない。だけど……分かっている事がある。それは俺が彼奴に救われた、それだけだ。


『ず■■一■■■い■■■?■と■■は■■■■だ。■ま■■■か■ら■緒■■■■だ。■■犠■■■■■ん■、■れ■■■■言■■■■く■。お■■■■は■■、■■苦■■■■が■■る■■■■た■■?』


俺が救われた時の記憶を思い出そうとすると、所々ノイズが掛かった記憶を思い出す事が出来た。しかし、ノイズが酷すぎて聞こえない。ごめん、俺はお前と楽しかった思い出さえも思い出せない。俺はそう考えながら両手を胸に押し当てる。苦しい、辛い、泣きたい、それなのに…………俺の瞳からは涙が出る事はなかった。


ただ………………ただ叫び声を発する事しかできなかった。喉が枯れる程叫びたいのに、瞳の涙が枯れるくらい泣きたいのに……………………現世に降臨出来ていないからそれは出来ない。此処が心象世界である限り、俺が本気で感情を開放できる機会はやってこない。


俺が苦しい、辛い、そういう感情を一時的にでも消すために俺は俺自身を攻撃する。だけど痛みは決してやってこない。それどころか腹を貫通した拳は元の姿勢に戻され、腹は即座に治っていった。俺は、俺は……………………っ!


地面に頭突きをして痛みを感じようとするが、痛みは全くやってこない。凹んだのは頭突きした地面の方だけだった。いや、違うか。俺の精神も凹んでいる。何故だかこの状態になったのは久しぶりな気がするな。多分だけど前主人の時もこんな感じになったんだろうな。


俺はそう心に『冷静』という風に偽ろうとする。しかし俺の心はそう簡単に騙されてはくれない。思い出を忘れてしまっても経験は忘れてくれないらしい。それでも偽ろうとして拳を強く握り、『ガリッ』と歯軋りをする。俺の中に溢れる自分自身に対しての憎悪、怒り、嫌悪、そんな暗い感情を知らない、気にしないという風に向かわせようとしているが気休めにもなりはしない。


自分自身に対しての暗い感情を増幅させるだけだ。俺なんて、居ない方が……………………っ!何考えてんだよ、俺は今、未亜の能力だろ!?知ってる筈だ、見ていた筈だ………………未亜が虐められていたのを。何勝手に居なくなろうとしてんだ。俺は未亜の物なんだ。


俺が今居なくなってどうなる?また未亜が虐められるだけだろ。俺は見てる事しか出来なかった。自分自身の憎悪を自分にぶつける事しか出来なかった。だけど今の俺なら何とかなるかもしれないんだ。例え能力と能力行使者という関係だったとしても助けられるかもしれないんだ。


俺はその考えに至った後に両頬を両手で思いっきり叩く。もちろんダメージも痛覚も存在してはいない。だけど意味はある。覚悟を決める最終段階、一歩手前の場合だと覚悟を決める一手となる。よし、もう覚悟は決めた。後戻りは出来ない。そんじゃあ思いっきり主人をサポートさせるとしますかね。


絶対にあのバカ英雄よりも強くさせてやる。俺は記憶が無いからどうやってあのバカ英雄が到達したのかはわからない。けれども俺の経験は残っている。その経験が残っているだけでも万々歳だよ。それだけでも主人を導く道が見えてくるというものだ。







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□イッチの固有魔法

大体の能力は固有魔法を持ってます。それが強いか弱いかは能力次第になりますけどね。そしてその固有魔法を使えるのは能力本人か適性の高い主人になります。この話でも言った通り、イッチの前主人も現主人もあんまり適正は高くありません。しかし才能がやばすぎるので無理矢理適正の壁をこじ開けている感じです。


□イッチの主人歴

イッチの主人歴は現主人と前主人だけではありません。何百、何千と主人がいました。そして大体が能力の使い方が分からずに死んでしまったタイプです。使えたヤツは全員英雄になっております。ちなみに一番強く、能力を使えていた(前主人と現主人は除く)奴は前主人時代に旧時代の英雄と呼ばれていました。ですがその時代もビックバンが起きるよりも更に前なので、現主人にとっては旧時代の中の旧時代の英雄になります。ややこしいな。

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