第25話 スクール・トリップ②

 長い長い飛行機の旅が終わり、沖縄に到着した。

 皆んな、北海道との温度差に着ていた上着を脱いでいく。もう日が落ちかけているというのに、まだ気温は高く、同じ日本なのにかなりの違いだ。


 到着するとすぐに、荷物を持って空港を出てバスに乗り込む。

 目的地までの移動中、見慣れない植物に盛り上がっていたり、バスガイドさんの話を聞いたりして、時間が過ぎていった。


 最初の目的地は、ウミカジテラス。海に囲まれた斜面に沿って、飲食店やお土産屋が並ぶ、観光スポットだ。

 夕食を各々済ませ、テラスを離れる頃には日もすっかり落ちて、辺りは暗くなっていた。


 次に宿泊先はホテル。ホテルに着くと荷物を部屋に運び、その日の団体行動は終了した。ホテルでは、あまり話したことのないクラスメイトと同室で居心地は悪かった。霧江きりえ、というか男子の部屋は別のフロアなうえに行き来を許されていない。

 私は、その日に撮った写真を眺めながら眠りについた。


 ◇


 次の日。この日の午後は自由時間があり、楽しみで仕方なかった。

 午前中は、沖縄の資料館やら記念公園やらを周っていた。少し悪いと思うが、あまり面白い場所ではなかった。それでも、周っている中で霧江の姿を見つけると、胸が高鳴った。

 昼食は、タコライスとソーキそばを食べた。


 午後ニ時頃、自由時間が始まった。

 今から六時までの間、沖縄の国際通り付近を自由に周れる。事前学習であらかじめ、行きたい場所をメモしてあるので行き先には困らない。


「お待たせ、じゃあ行くか」

「うん」


 とりあえず、適当なお土産屋を周る。観光地というだけあって、お土産屋はかなりの数あった。通りには観光客が溢れかえっており、他校の制服を着た生徒も見られる。

 シーサーの小物や星の砂、ちんすこう、シークワーサーを使ったお菓子など、大きな手持ち袋がいっぱいになるほどお土産を買った。

 お土産の他にも、夕飯にハンバーガーを食べたり、デザートにソフトクリームを買ったり、かなり充実していた。


「ねぇ。俺、ここに行きたいんだけど」

「どこ?」


 そう言って霧江が指を差したのは、アニメグッズを売っているストアだった。

 霧江はオタクとまではいかないけど、アニメ好きだ。私も人並みには見ているつもりだが、ここ最近はあまり見ていなかった。

 それでも、繰り返している分、時間はあったので去年流行ったアニメくらいなら一通り見ている。


 ストアは、地元にもあるようなところだが、ここには限定商品が売っているんだとか。

 霧江はストアの中をはしゃぐ子供のように見ていた。


 私もストア内を見まわしてみる。

 そこで、一人の人物を発見する。望月もちづき朝日あさひだ。

 そういえば、朝日もアニメが好きだった。それがきっかけで霧江に話しかけたのだ。

 また、霧江と朝日が接触する前にどうにか足止めしなくては。


「望月さーん」

「っはい!」


 私が名前を呼ぶと肩をビクッとさせて返事をした。


「えっと、あぁ私に何か?」

「いきなり話しかけてごめんね。私は共哉きょうやの友達のあおい深雪みゆき


 こちらに振り返った朝日は少し安堵をしたような顔をしてから、恐る恐る口を開いた。

 よく見ると、いつも一緒に居た陸上部の取り巻き二人の姿が見当たらない。


「あぁ、村雲むらくもくんの__。それで私に何の用?」

「その前に一つ聞きたいことがあるんだけど、お友達と一緒じゃないの?」

「えっとその…それは__」

「?」


 妙にもじもじと恥じらいながら口を開いた。


「誰にも言わないで下さいね」


 そう言って私に顔を近づけてきた。


「私、アニメが好きなんです。でも、友達には明かしてなくて…」

「それで、一人でここにいたんだ」


 すこし納得がいった。

 アニメが好きだけど、それを共有する友達がいない。だから、アニメについて語れる友達が欲しかった。そこで、霧江に目をつけて話しかけることにした。

 多分、そんなところだろう。霧江を好きになった経緯とかは分からないが、別に知りたくもない。


「実は、私もこのアニメ好きなんだ」

「本当ですか!?」


 朝日が見ていた棚にあった作品を指さして言うと目を輝かせた。

 実際に繰り返している中で見たことのある作品で、人気のラブコメ作品だ。


「アニメもいいですけど、漫画も良くって。14巻で完結しているので、気になったら読んでみてください!」

「あぁ、うん。ありがとう」

「いえ、こうして誰かとアニメの話題で話せるなんて私も嬉しいです」


 何というか本当にアニメが好きなんだな、この子は。

 一瞬、ほんの一瞬だけ霧江と朝日はお似合いだな、なんて思った自分がいて、少しの間、朝日に目を合わせられなかった。





あとがき

 ご視聴、ありがとうございました。

 深雪が朝日に話す時に敬語じゃなかったのは、深雪のコミュ力が高かったからではなく、単に朝日に敬語を使うのが嫌だったからです。

 ちなみに、朝日が深雪を見て安堵したのは友達にバレたと思っていたから。

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