6
しばらくすると蓮が手に缶ジュースを二つ持って帰ってきた。
「これ良かったらどうぞ」
「ありがとう」
蓮はこういう細かい気配りが上手な人だ。まだ数ヶ月だけど一緒に行動をしていると分かった。蓮に憧れの視線を向けているクラスメイトの女子たちは気づいているんだろうか。私だけが知っているのなら嬉しいな——とぼんやり考えていたところではっとする。
どうして私、今嬉しいなんて、思ったんだろう。
「風間さんどうかした? やっぱり変やで」
「ごめん、なんでもない」
「謝ることないけど。もしかして東京が恋しくなったとか?」
「え?」
東京の話なんて、蓮にほとんどしたことはない。それなのになぜ、蓮は東京だなんて口にするんだろう。
蓮が窓の方の壁に背を預け、ジュースを飲みながら、私の顔をじっと見ている。メガネの奥の大きな瞳と高ぼった鼻を見ていると、なんだか自分が悪いことをしているように思えた。蓮の後ろで、波がざぶんと寄せては返る様子が何度も視界に入る。ざぶ、ざぶ、ざぶん。あの波に飲み込まれたらきっと、私はすぐに息ができなくなる。
ふと、頭をよぎったのは俊の顔だった。恥ずかしそうに私を見て、好きだと言ってくれた私の幼なじみ。きっと蓮が、東京だなんて口にしたせいだ。東京は私にとって、たぶん故郷や恋しく思う場所ではない。
東京は、俊だった。
「いやーなんか思い詰めた様子やったから。昔のことでも思い出してんのかなって。そういうこと、俺もあるけん」
「蓮もあるの? 昔を思い出すこと」
「ああ、当たり前やん。俺はな、ずっと悔しかったことを思い出してしまう。去年、映像のコンクールで受賞できんかったこと。あの日からずっと悔しくて、高校では絶対に賞をとるんだって決めとるんよ」
ただ大きいだけじゃなかった。
その瞳の奥に映っている、夢や、過去や、悔しい気持ちや、希望や、情熱が、私の心にも映って見える。こんな、島国の端っこで、こんなにも好きなことに一生懸命に情熱を傾けている少年と、私は出会ってしまったのか。
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