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「だから、そんな緊張せんでええって。ただそこで立ってるだけで画になるんやから」


蓮が映画の監督のような的確な指示を出してくれるのに、私はまだ慣れなくて作り笑顔なんか浮かべて、校舎の窓から臨む岬をぼんやりと眺めていた。ああ、だめだ。モデルになりきれない。


竜太刀岬高校に入学してから、吉原蓮とは同じクラスになった。といっても全部で2クラスしかないので、同じクラスになっても不思議ではないのだが、クラスメイトになる前から知っていた彼を、他の初めて見る顔の人たちより特別な存在と意識したのは仕方がないだろう。蓮は約束通り私を映像研究会に誘ってきた。私は他に入りたい部活もなかったので、蓮の勢いに乗ることにした。マイナーな部活なので他に新入部員はおらず、私と蓮は何かと二人で行動するようになった。


蓮は予想通り、クラスでよくモテた。田舎の高校なので中学まで一緒だった人が大半を占めており、彼は中学でも人気者のようだった。人前で臆せず発言したりクールなのかと思いきや人懐っこい笑顔を浮かべたり、コロコロと表情を変えたりする彼に魅了される気持ちは分かる。しかも、整った顔立ちをしているのだから、根強いファンがいるというのにも肯けた。


そんな蓮だったが、サッカー部や野球部ではなく映像研究会に入ったという点も女子生徒たちをざわつかせる原因だったようだ。もっとも、中学校の時から映像をつくっていたそうなので、知っている者はそれほどダメージを受けなかったようだ。私のように高校から竜太刀に来た生徒だけが衝撃を受けていた。


「風間さん、もっと落ち着いて。めっちゃ緊張しよるで」


「うん、まあ……仕方なくない?」


蓮はカメラ越しに私によくダメ出しをする。高校一年生の7月、大会用の映像を撮るのだと息巻いて、連日私は彼と二人で“画”づくりに励んだ。正直私は、映像のことはちっとも分からない。ただ蓮に言われた通りに立ったり座ったり、遠くを眺めたり愛想笑いを浮かべたりするだけだった。


廊下の窓から竜太刀岬が見えた。名前の通り、竜太刀岬のすぐそばに立っている学校だから、観光客が時々下を歩いていく様子も目に入ってくる。竜太刀岬は夏になるとちょっとだけ明るく見える。この春初めて目にした時よりも、ずいぶんと爽やかだと感じた。晴れた日が多いからかもしれない。だが少し視線をずらして波打ち際の岩を見れば、またあの荒々しい波が岩にぶつかっているのだから、夏場でも背筋が震えた。


「どうしたん? ちょっと休憩する?」


私が思い詰めたような表情をしていたから気になったのか、蓮がカメラを顔の前から降ろした。


「ううん、大丈夫」


「そんなこと言わんと、俺もちょっと疲れたけん、休憩しよ」


蓮はカメラを降ろし、廊下の奥の方へと歩いて行った。そのまま階段の向こうに消える。いったいどこに行ったのだろう。


蓮が帰ってこない間、私はやっぱり窓の外の竜太刀岬を眺めていた。外に出たらむっとした暑さに身を焼かれそうになるって分かっているのに、窓辺から見る竜太刀岬は涼しそうだ。

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