メリィと魔王と咲良の秘密
『ひぎゃああああああっ!!?』
レフストメリスと同じ世界出身、そう咲良が言った瞬間メリィは悲鳴を上げる。
何だ何だと快人が若干心配していると。
『確定してしもうたあああああ!!』
お前から言ったんだろ。自爆して悶えているだけだと知った快人は彼女を無視し咲良の言葉に耳を傾ける。
「簡単に、言えば……異世界で死んで、気付けば、"朝露咲良"として、この世界に……」
「……そんな事、有り得るの?」
比奈が疑問の声を上げる。それに答えたのは咲良ではなく鳥高だった。
「まあ有り得るっちゃ有り得るんとちゃう? 魂その物は結構自由やし、上手い事身体だけが死んでその影響で魂が世界の壁を越えたとか?」
「死んだだけでは、そんな事にはならないでしょうが……しかし、月を破壊したとなれば話は別です」
「なるほ……えっ、誰?」
鳥高ともう一人の青年の言葉に比奈は納得しかけ、すぐさま突っ込む。いや、二人目の青年は誰だよ、と。
そこに立っていたのは黒い直衣──公家とかが着てるアレ──を身に纏った高身長の青年であった。輝夜の隣に立ってもなお全く見劣りしない程の美青年。
「ああ、申し遅れました。私は月読命、輝夜と契約している神です」
「そっ、そうですか」
比奈は若干顔を赤く染めて引き下がる。
「さて、咲良さん。貴女は先程月を壊したと言いましたよね。その壊し方というのは?」
「私も直接、見た訳ではないので……ですが、今使った魔法で……魔王を倒そうとして、その丁度背後に、月が……」
咲良は言う。
自らがこちらの世界に転生する直前、あちらの世界に存在した『魔王』と戦っていた。そのトドメとして最後に『ディア・ヴィロリア』を撃ったのだが、その時魔王の背後に丁度月があった。
いつもならば魔王を倒した直後に光線は消すのだが、その時は満身創痍で撃った直後に力尽きてしまった。だから魔王を貫いた後にそのまま月も破壊してしまったのではないか、という事らしい。
これを聞いた快人がまず思ったのは。
「その魔王って強過ぎないですか? 師匠を満身創痍にするなんて」
「いえ……満身創痍になってたのは、別の理由、です。まあ強くは、ありましたが」
「あ、そうなんですね。良かったなメリィ、お前の爺さん強かったって」
『とうぜn馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!』
爆弾発言。メリィの叫び声が快人の脳を揺らす。
瞬間、彼はあ、やべと口に手を当てる。
「爺さん……?」
『何言っておるのじゃ!! 何言っておるのじゃ!?』
「あーっ、スウーッ……」
咲良の声に、メリィは自らの確実な死を予感する。
自分が居るのは快人の心の中ではあるが、たった今そこに侵入出来る事を見せられたばかり。加えて今の自分は満足に戦える状態ではない、というか戦えない。
──メリィ、お前の素質は儂をも超えている。いずれお前は……
無理ですお爺様。我、目の前に居る魔女に勝てる気がしません。
「ま、待ってください師匠。と、取り敢えず話し合ってみては」
快人が慌てて彼女を庇う。どんな因縁があるのかは分からないが、彼にとっては(一応)大切な契約相手なのだ。言葉は結構傲慢で荒い所もあるしデリカシーも無いけれど、悪い奴ではないし力を貸してくれている事には変わりない。
そんな彼の姿に、咲良は少し不機嫌そうな顔を浮かべる。
あ、死んだ、メリィは確信する──が。
「……だから貴方達は、私を無差別殺人鬼か、何かと……間違えてる、です?」
『──え?』
彼女の言葉は、メリィの頭を真っ白にするのには充分であった。
「い、いいんですか……?」
「……多分レフストメリスは、私の戦った魔王の、孫あたり、だと、分かってた、です」
『なッ』
「ややこしいので、直接……話す、です」
咲良はそう言うと手を輝夜に向け、一瞥もせずに光の鎖を放つ。
「ウッ」
突然の事に全く対処出来なかった彼女が思わず呻き声を出すのも気にせず、彼女は魔法を発動させる。
「"月夜廻廊-
「うわっ」
『ひぎゃーッ!?』
瞬間、彼女の腹辺りから黄金色の触手が彼に向かって放たれる。それは彼の身体を通り抜け、中に居るメリィの身体に巻き付き──
「ぎゃふんっ」
「……えっ、メリィ!?」
彼の身体の外に放り出す。
褐色気味の肌、紅い髪に紅い瞳、そして頭部に禍々しく生える二本の角、そんな要素が詰まった人間でいえば十歳に満たない程度に見える幼女が突然現れ、その場に居る者はびくりと驚く。
「イテテ……っ、ぐぅっ」
彼女──メリィは身体を起こし、暫くは尻餅をついた状態で咲良を怯えた表情で見ていたが、やがて覚悟を決めて立ち上がり、宣言する。
「わっ、我の名はレフストメリス・ヴェル・ヴィルリッタである!!」
「そう、ですか……」
「ぴいっ……わ、我をこうして解放した事後悔させてやる!! 食らえ"リグラ・グレンズ"!!」
「メリィ!?」
突然の魔法行使の宣言に快人は慌てる。いや何もしないって言ってたじゃん、お前何やってんだよ、と。
実際、この時のメリィは正常な精神状態ではなかった。
自分より遥かに強い祖父、最終的に死んだもののそれをボコボコにした伝説の魔女と直に対峙する事になり恐怖と混乱で思わず撃ってしまったのだ。
かくして、彼女の手から黒い炎が……
「……?」
咲良が首を傾げる。
「……くっ、殺せぇ!!」
メリィがその場に仰向けに転がりヤケクソ気味に叫ぶ。
咲良が何かするまでもなく、メリィの手から炎が放たれる事はなかった。正直分かっていた事だったのだ、今の自分が快人無しでは魔法を発動させる事など出来ないという事は。
「だから、何もしない、です」
「何故だ!! 貴様の言う通り我は魔王ディスピアの孫なのじゃぞ!!」
「孫だから、です……」
咲良は子供に諭すかの様に──実年齢はメリィの方が上である──言う。
咲良はこの世界に来てから元の世界について少し考えた事があった。それは、恐らく人間の軍は敗北し、魔族によって世界は征服されているであろう、という事。
実を言えば、彼女が魔王軍と戦ったのは半ばヤケクソであったのだ。
残された僅かな時間を自分の家がある浮遊島で静かに暮らそうとしていた所に魔王軍の部隊とやらが現れたのである。最初は話して追い払おうとしたのだが、兵士は聞く耳を持たず攻撃してきたので止む無く殲滅。その後も次々と送り込まれその度に殲滅していたら何やら
彼女に唯一残されていた安息の地を壊された事に流石の彼女もキレ、ドラゴンの記憶を読んだ。そしてこんな命令を下したのが魔王ディスピアだという事を知る──正直、当時の彼女にとってみれば人間も魔族もどうでもよく、ただ自分の眠りを妨げられたから魔王軍全体に八つ当たりしていたに過ぎなかった。
「なので、本人ならともかく……孫なら、どうでもいい、です」
「や、八つ当たりで……八割……」
メリィは絶句した。
厄災の魔女は全く何の前触れも無く突然現れた為、彼女が来る直前の異世界では、厄災の魔女の正体は神が遣わした試練だったという説が最も有力であったのだ。
「今のあちらにも、興味は無い、です……どうせ私に残った物は、何も無い……」
「これをあちらの学者に伝えたらどんな顔をするのじゃろうな……」
メリィは遠い目をして呟く。
「それで……厄災の魔女、とは……何ですか?」
「ん? ……ああ、そうか。貴様は知らんのか。そういえば貴様が死んでから名付けられた二つ名であったな」
先程の魔王軍八割壊滅に加え、咲良が放ったディア・ヴィロリアは彼女の予想通り月を破壊しており、その影響によって異世界は多大な被害を受けた事。
それらによって、いつしか厄災の魔女と呼ばれるようになった事をメリィは言う。
「それは……すみません、です」
「へ?」
「民間人に、被害を……」
「えぇ……」
圧倒的な力を持ち、八つ当たりで百万の軍の大半を殲滅するくせに一般人への被害に罪悪感を持つ。メリィは困惑し、苦笑した。
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