彼方の神の唄!届け!ディア・ヴィロリア!

 デウス・エクス・マキナ──人間の手によって作られた神の名称。

 生み出された当初は神とも呼べぬ何かを胎児の魂と融合させる事で人間側には魔力回路を、神側には成長する母体を与える……成功したのはたった一人。その一人も、やがて大きくなりすぎる神に侵食され死ぬ定めとなっていた。


 ここで重要なのが、何故人間が神を作り出せたのか・・・・・・・・・・・・・という点。

 この計画は柊家で古くから行われており、そして「神を作り出すのは不可能」という結論に至った事で凍結されていた。だがそれに霞未が目を付け再開、秋空雲雀という成功体を生み出した。

 何故、成功したのか。


 霞未が再開させるまで、この計画には別の名前がついていた。だが彼は自分の手柄だという事を強調したいがために名前を変えた──デウス・エクス・マキナ計画、と。それが成功の理由だった。

 デウス・エクス・マキナの元来の意味は古代ギリシアの演劇における演出技法の一つに過ぎない、だが今や意味は湾曲され、日本においては「機械仕掛けの神」──人が作り出した神、という意味と捉えている者が殆どだ。そして実際、霞未もそんな意味だと思い込んで軽い気持ちで名付けた。


 神には二種類存在する。

 一つはゼウスやイザナギといった「世界を創り出した」神。即ち、人間が存在する前から居た神。世界で一般的に想像される神とはこちらであり、人間など意に介せずとも関係の無い上位存在だ。

 そしてもう一つは鳥高などの「人々の信仰や畏れが具現化した」神。例えば鳥高などは元々鳥高山という山があり、そこから発生する災害に対する畏れが"鳥高神"として具現化したのだ。所謂『アニミズム』に端を発する神であり、こちらは人々の信仰や畏れによって力が変動する。


 霞未は自らが作り出そうとしていた神を「デウス・エクス・マキナ」と名付けた。その結果、デウス・エクス・マキナという存在に対する歪んだ畏れや信仰が流れ込み、不完全ながら神として具現化してしまったのである。

 名付けは魔術的事象においてかなり重要な要素の一つ。だが名付けるだけで神が作れるのならば苦労しない……今回の場合、これまで四苦八苦していた物に天文学的な確率で最後のピースが上手くはまり込んでしまった訳だ。全くの偶然、再現性など皆無。


 つまり、何が言いたいかといえば。



「ッ、貴女は、何という事をしてくれたのですか!!」


 輝夜は咲良に掴みかかる。

 今、我々の目の前に居るのは雲雀と分離し、純粋な神となったデウス・エクス・マキナ……今は咲良の張った防壁の中でもがいている。攻撃力は大した事がないようだ。

 因みに何故少女の輪郭をとっているかといえば、雲雀の魂と融合していた結果マキナの魂に"色"がついてしまったからだ。これに関しては特に何か悪影響がある訳でもない。


「何……?」

「秋空雲雀と同化していた状態ならばまだ殺せた、でもこうなってしまっては」

「あーハイハイ、嬢ちゃんそこまでや」


 と、二人の間に先程彼女と共に現れた少年──鳥高神が入り込む。


「なっ、なんですか」

「嬢ちゃんの不安もよう分かるけどな……まあ、見とき」


 彼は咲良に顔を向け、訊く。


「咲良ー! どうやって倒すつもりやー?」

「神には……普通の、攻撃は、通じない……物理も、魔法も」


 そうだ。神には如何なる攻撃も通じない。

 唯一効くのは神器による攻撃だがそれも今ここには存在しない。


「私のショックカノンも、効かないでしょう……」

「ええ、ですから」


 そこまで分かっていて、何故彼女は戦おうとしているのだ。まさか秘密裡に神器でも隠し持っているのか?

 だが神器とて効くとは限らない。目の前の神は普通のやり方で生まれた神ではなく、そして魔術的な事象は過程を重要視するのだから。


「攻撃が、効かないのなら……」


 彼女は杖の先を神に向ける。瞬間、巨大な魔法陣がそこに現れた。



「効くほど強い、攻撃をすればいい……!」



「「「「は?」」」」


 輝夜、快人、比奈、芽有。その場に居る、先に聞いていた二人を除く全員の心がその瞬間だけ一致した──


──何を言ってるこのバカは?


「な、何ですかそれは! そんなっ、馬鹿な話!」

「神を本当に、殺すには……その存在そのものを、完全に消す必要が、ある……」


 そう、完全な神殺しとは"神をその痕跡ごと一片残らず消し去る"事。そうする事で神は二度と復活できなくなる。

 ここで重要なのは、単純に蒸発させるだけでは駄目だという点だ。例えばショックカノンを百発纏めてぶつけ、細胞の一片も残さずに蒸発させたとしよう。だがそれでは、神の魂までは消す事が出来ない。

 魂まで消す事の出来る程の攻撃をぶつけ、文字通り完全に消滅させる──それで初めて完全な神殺しが成立する。


「貴女は神器を持っているのですか!?」

「いえ」

「では攻撃は通じない、神とはそういう"概念"なのですよ!」


 輝夜の言う事も正しい。

 かつて、某国においてとある神の協力のもと実験が行われた事がある。その結果は一般には公表されていないが各国上層部には共有されており、どうやらその国が秘密裡に開発していた核兵器を超える『凝縮電子励起爆弾』を用いたものの神には傷一つ付ける事は叶わなかったとか。

 兎も角、人類の生み出せる火力ではどうやっても神を傷付ける事は叶わないのだ──目の前に居るバグ・・を除けば。


「会長……この世界には、絶対はない、ですよ」

「は、はあ?」

「概念とは、言いますが……実態は単なる耐性、です。それを超える火力を、ぶち込めば……倒せる、ですよ」


 咲良はそれだけ言ってデウス・エクス・マキナに向き直る。

 輝夜は焦った表情で鳥高へ向くが、彼は困り眉で笑うのみ。


 と、そこでバリン、とけたたましい破砕音が鳴り響く。見るとマキナが咲良の張った防壁を破壊しており、彼女らに向かって両手にいつの間にか持っていた銃口を向けており──


「"プロテクション"、"三十連装"」


──だが、次の瞬間には彼女の展開しなおした無数の防壁に再び閉じ込められる。


「……うわあ」


 何か不憫だ、芽有は思った。




 私は自らの魔素を圧縮させ杖の先端に集中させる。ピピピ、と電子音にも似た音──圧縮された魔素が超高圧魔力になり更に集中される音──が鳴り響き、光の粒子が杖の先端に展開された魔法陣の中心に集まっていく。


 これから使おうとしている魔法は私が神を殺す為に編み出した魔法だ。

 ただひたすらに威力だけを追い求めたこの魔法は、射線上にある物をその空間ごと削り取る。神とてそこに存在している事には変わりない、だからこそ空間ごと削り取られてしまえば消滅してしまう、という理屈。


 これを使うのはあの時──魔王と戦った時以来。あの時は私の身体も限界で詠唱しなければイメージを保つ事は出来なかったが……


「……今は、違う」


 今の私は全快だ。多少複雑とはいえ何度も使った魔法……詠唱せずとも使う事が出来る。



──これは、時神に捧げるうた



「──"ディア・ヴィロリア"」



 眩い閃光が放たれ雷鳴の如き轟音が鳴り響く。


 魔法陣の中心部から凄まじい衝撃波を伴い、青白く太い光線が発射される。

 それは空間を切り裂きながら突き進み、彼女の張った防壁をまるで霧の様に貫き通し、やがてそれは中心部に居たデウス・エクス・マキナをも呑み込み──



「……っ」



 その場に居た全員が目を開け、そして目の前の光景に息を飲む。



 光が晴れたそこには、彼女が張った防壁は全く無く。


 その中央に閉じ込められていた神の姿など、まるで最初から存在しなかったのではないかと思ってしまう程、影も形も無かったのだから。


「討伐、完了……です」


 言葉を発する事が出来たのはただ一人、杖を降ろした咲良のみだった。

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