【至急】ここから原作ルートに行く方法【求む】

「〝叢雨簪〟!」

「「「おー!」」」


 行方を塞ぐ魔物に水の槍が突き刺さる。そのたった一撃で絶命し、背後で見ていたパーティーメンバーから感嘆の声が上がる。


「流石芽有、つおーい」

「やるねぇ〜」

「まあそれ程でも……ありますけど?」


 ダンジョン進入から大体一時間程経った頃、私達は第三層に居た。通常は一層あたり三十分程かかるのでこれは驚異的なスピードと言えよう。

 ただそろそろここら辺で休憩を入れなければ。もし仮に私達が最深部に一番乗りしてしまった場合、快人の原作イベントを一つ潰してしまう事になる。


 今回のダンジョン攻略は原作二巻最初のイベントだ。こういうのではお決まりの金髪留学生がやってきて、その彼女と共に戦うのである。

 それに加え、秋空雲雀の本格的な登場もここからだ。快人、比奈、レフィナ、雲雀の四人でダンジョンに潜り、快人が雲雀を助けたりレフィナに助けられたりしていくのだ。因みにレフストメリスから快人は「どんどん女を支配していけ惚れさせろ」と言われており、彼自身気は進まないものの惚れさせる方向性で動いていたりする。強くなる為には仕方がない、そう自分に言い聞かせて。

 ただこの時点ではレフィナは快人よりも強いのでまだ惚れないが、雲雀は計画通り軽く意識し始めていく。それが後々の悲劇にも繋がるのだが……それはまた今度分かる事になるだろう。


 さて、そんなダンジョン攻略だが当然一筋縄で終わる筈もない。

 快人達のパーティーは強く、一番最後に入ったというのに最初に最深部へ到着する。そこで見たのは、他の個体を食い殺し肥大化した魔物の姿だった──実はこの魔物には"組織"が細工しており、特殊な薬剤を投与する事で狂暴化、強化させているのだ。

 そんな魔物を快人は倒そうとするが、ここまでの攻略で体力、魔力共に消耗しておりピンチになる。そんな敵を颯爽と倒すのがレフィナなのだ。このイベントで快人は更に強くなる事を決意するのである。まあそこまで重要なイベントでもないが、私の今世の方針としては極力原作介入はしない、という物。だからここで休憩と称して時間調整を行うのである。


「……げ」


 手頃な岩に腰掛け、一息つく。

 そこで私は思い出した。そういえば、彼のグループには一人異物が混入していた事を。

 朝露咲良、謎に鬼強い魔法師。彼女がやる事は私にも予想がつかないのだ。最深部の魔物を一撃で倒す事くらいはするだろうし、もしかしたらダンジョンの床をぶち抜いてショートカットとかまでしているかもしれない。


「い、いやまあ前者はともかく、後者は流石に……はは」


 ぶんぶんと頭を振って嫌な想像を追い出す。そんな私を当然他のメンバーは怪訝な表情で見つめ──



「──あ、やっと他のパーティーに会えた」



──そこで、男の声が聞こえてくる。今このダンジョンに居る男はただ一人。

 私達が声のする方向を向くと、そこには快人達のパーティーが居た。


「快人君達も着いたんだ。でも一番乗りは私達だよ!」

「でも速いね。私達も相当速いと思ってたんだけど」

「え? いや~、その~……」


 彼らに群がるメンバー達。次々とかけられる言葉に、彼はどこか気まずそうな表情を浮かべていた。

 そこで私は気付いてしまった──彼らが、私達の進行方向から来たという事に。このダンジョンの地図は全て頭に入っており、彼らが来た先にあるのは……ダンジョンの第三層と第四層を繋ぐ、階段。


「ミー達はもう帰る所なんデスよ〜」

「「「……え?」」」


 心なしかやつれているレフィナのその言葉にパーティメンバー三人は呆気に取られる。

 この演習の達成条件は最深部の魔物を倒し、体内にある魔石を持ち帰る事。それをせずに帰ればキツい補習が待っている……


「……倒したんですか? 最深部の魔物」


 私が恐る恐る聞き、そして予想した通りの返答が来る。


「そうデスよ」

「まあ倒したのは師匠なんだけど……俺はまだまだ力不足を痛感させられたよ」


 と、咲良の方を向きながら言う。

 やっぱりお前か!! というか師匠って、いつのまにそんな関係になってたんだ!! やめて勝手に魔法教えるの、原作がもうめちゃくちゃだよ!!


「いくらなんでも速過ぎない? 実は抜け道とかある訳?」


 メンバーの一人が聞く。瞬間脳内に立ち込める暗雲。ああ、出来れば聞いて欲しくなかった。


「師匠が凄くて、なんと第一層から三層まで魔法で縦穴を作っ」

「アアアアア!!」


 その言葉を聞いた瞬間、私は奇声を上げてその場に倒れ込む。


「ど、どうしたの織主さん」

「……もうヤダ……」


 こちらを見下ろす快人を他所に、私はそう呟いた。

 取り敢えずこれでまた一つイベントが潰れた訳だ。レフィナの力は示されず、しかも主人公は謎の魔女にゾッコンだ。


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 えっ、ここから入れる保険があるんですか!?


 答えはノー、現実は非情である。もう私の原作知識未来予知は役に立たないだろう。

 あっ、そういえばもう一つの重要なイベントはどうなったのだろう。私は彼らの後ろ──雲雀に目を向ける。


「……?」


 雲雀は咲良の隣に立っている。その様子自体はいつもクラスとかで見ている物だ。

 だが、その二人の間に見えない壁の様な物を感じる。謎の距離感──一体二人の間に何があったのだ?


 あ、ちなみに雲雀が快人にウットリしてるとかそういう事は全く無さそうなのでこちらのイベントも潰れているのは確定的に明らかである。チクショウ。



──────



 四月十四日

 今日は留学生が編入してきた。レフィナ・クロスフォードさん、金髪碧眼でスタイルの良い女性。少し羨ましい。

 その後はダンジョン攻略。ダンジョンに潜るのも久しぶりだ、確か前世で魔王軍のリッチが根城にしていたのを倒しに行った時以来だろうか。いや、あの時はショックカノンで地上から中身諸共吹き飛ばしたから潜ったとは言わないのかな。

 ここのダンジョンに出てくる魔物は弱かったので藤堂さんの訓練にはもってこいだった。主に雑魚が沢山出てくる、という点で。

 今の彼に足りないのはやはり魔力総量だ。だからとにかく沢山魔法を使わせたかった。それに魔力が増えれば、ショックカノンだって完璧に扱える様になるかもしれない。

 詠唱と魔法陣はもう完璧だ。あとはイメージの確立と魔力量。それさえ何とかなれば、彼はショックカノンを使う事が出来るだろう。ただ今の段階では私の居ない所では使わない様にと言いつけているが。

 ショックカノンは私が作った高火力汎用魔法。作った時のコンセプトとしては〝素早い発動、単純な挙動、超高火力〟。

 大抵の敵なら撃ち抜けるが、それは同時に外れれば地形に大きなダメージを与えるという事でもある。私はそこを魔力操作により敵を撃ち抜いた後は即座に消滅させる事で対処しているが今の彼には無理だろう。もし私不在で撃つ時は空に向けて撃て、そうも言っている。少なくともそれが一番被害が少ない。


 雲雀さんには酷い事をしてしまった。私は自分の魔法は大抵の事を解決出来ると信じている。だからこそ、今日の様に相手の事情を考えずに無造作に内面に踏み込もうとしてしまう。反省しなければ。

 ハイネスヒールは対象の外傷、内傷、そして病を治す魔法。だがどうにも彼女の吐血はそれ以外に原因がある様に思えたのだ。具体的には、彼女の〝魂〟に。

 でも魂は人間が持つ最大のプライベートゾーン。それに加えて彼女自身が拒否している。許可なく覗いていい場所では無い。

 一応先生とかには聞いてみる事にして、しばらくは静観しておこう。


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